中国新聞社

'99.9.11
                  市 民 に よ る 医 療 支 援 訪 問 団 
<下>きずな     同じ被害者思い共通

−支援・交流の広がり探る−


 「世界中から多くの人が視察に来るが、広島の人は特別。私たちの核被害について深く理解してくれている」「原爆被害から見事に復興した広島は、私たちを勇気づけてくれる」

 広島の市民グループ「ヒロシマ・セミパラチンスク・プロジェクト」の訪問団が訪れたカザフスタン・セミパラチンスク市で、こんな言葉を何度も聞いた。市長からも、広島市との姉妹都市縁組という、かねてからの希望が伝えられた。
PHOT

 広島では一発の原爆で都市が破壊され、瞬時に多くの市民が被爆したが、セミパラチンスクの核被害は四十年間にわたって四百七十回前後も核実験が繰り返された点に特徴がある。核実験のたびに放射性降下物、いわゆる「死の灰」が降り、長年にわたって残留放射能にもさらされた。

 「同じ核兵器による被害者として、核被害のない二十一世紀を求める思いは共通している」。訪問団の団長を務めた平岡敬・前広島市長は、こう強調した。

 ◇被爆医療に蓄積◇

 被爆者医療や研究の蓄積がある広島。「セミパラチンスク支援に乗り出すのは、われわれの責務」と広島大原爆放射能医学研究所の星正治教授は指摘する。

 被爆地からの本格的な支援活動は、広島県、市、広島大などによる一九九一年の放射線被曝(ばく)者医療国際協力推進協議会(HICARE)設立が発端。今までにカザフスタンから医師八人を研修のために受け入れた。広島青年会議所も九六年から毎年、医薬品などの寄贈を続けている。

 国も今月六、七の両日、セミパラチンスク支援国際会議を東京で開催。ヒバクシャ支援のため、百万ドル(約一億二千万円)の援助などを行う方針を示した。
PHOT
「ヒバクシャ援護法」の手帳を持っている家族から話を聞く訪問団のメンバー(左端と右端)。ヒロシマへの期待を団員たちは感じ取った(アルマトイ)

 ◇中国国境で被害◇

 広島とのきずなを求める核実験被害者は、セミパラチンスクにとどまらない。カザフスタン国内でも、中国国境に近いジャルケントで、中国ロプノルでの核実験による放射能被害が広がっている、という。

 七五年から八二年までジャルケント市長を務めたトルスナイ・ジャンタグロバさん(65)がアルマトイまで訪問団を訪ねてきた。

 「人口約十二万人の市なのに、最近二、三年ほどの調べで先天性異常を持つ子が二百八十人も確認された」。持参した子どもの写真を取り出し、元市長は広島からの支援を訴えた。

 広島では、ジャルケントはもちろん、セミパラチンスクの被害も、あまり知られていない。市民のセミパラチンスク支援も始まったばかりだ。訪問団メンバーの広島市西区鈴が峰町、主婦小畠知恵子さん(47)は「まず市民の関心を高めたい。そして市民にしかできない、きめ細かい支援や一般の人との交流を根付かせたい」と話 す。

 ヒロシマ・セミパラチンスク・プロジェクトは医療支援を目的に昨年九月に発足した。九四年の広島アジア大会の際、公民館ごとに応援する国を受け持つ「一館一国運動」でカザフスタンとの交流が生まれ、ヒバクシャ支援に発展した。

 ◇「実情知りたい」◇

 「市民レベルのきずなを強めていきたい。そのためにも、被害の実状をもっと知りたい」。訪問団最年少の西区古江上一丁目、大学四年吉本久美さん(21)。息の長い取り組みに向け、一人ひとりの模索が始まっている。



Menu Back