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宮崎駿監督インタビュー
子どもは大人を勇気づける 社会を変える


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都内のアトリエでインタビューに応じる宮崎監督(左端)=撮影・中2小坂しおり

 ―「子どもの力」ってどのようなものでしょう?

子どもといっても赤ちゃんと幼児、少年少女、思春期の人たちまで入るから一口には言えません。アトリエの隣にある保育園の子どもたちは僕に力をくれます。泣き声や笑い声、叫んでいる声が聞こえてくると、僕は幸せな落ち着いた気持ちになります。年寄りを勇気づける力を幼い子たちは持っています。

でも、あなたたちぐらいの年齢になると、もっと複雑だと思います。表側と裏側を持つようになるし、使い分けをしたり、他人の目を意識して行動したりしています。大人の生き方を学び始めるからです。悩みや苦しみを知る。でも、僕から見ると、その悩みや苦しみもいきいきして見えます。いきいきとトボトボ歩いている若い人を見ると、連帯のあいさつをこっそり送ったりしています。

 ―子どもは、社会を変えることができるのでしょうか。

いくらでもできます。あなた方が毎朝自分の家の前の道を20メートルはき続けるだけで、ずいぶん変化が表れます。あいさつしてくれる人も増えるし、ごみを捨て続ける人にも出会います。もうちょっと続けているとごみの様子から、捨てた人のさびしいやり場のない心や悲しみまで見えるようになります。でも、続けるのは大変です。社会は10年でも20年でも続くのに、あなたたちは半年か3カ月くらいで考え方や行動力も変化していきます。正しいことだからやらねばならない、とあわてて始めると、後々大変だから用心深く始めてください。電車の中で席を譲るだけでも世の中は変わりますよ。

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「子どもの時にしか体験できないことをしてほしい」と話す宮崎監督

 ―平和をつくり出すこともできますか。

平和はその一瞬に生まれるんです。数分で消えますが…。平和というと戦争と平和のことを指すのでしょうが、平和を守るか、戦争をするかは大人が決めることで、大人の責任です。僕自身は、どんなに愚かな状態でも平和がよいと考えています。が、戦争はいつも平和の中で用意されていくのです。人間の社会は、愚かさとずるさ、だまし合いと憎み合いにみちています。同時に優しさや献身、助け合いや同情にもみちています。その人間の社会の中に、戦争は準備されていくのです。戦争と平和という文句で世の中を考えるより、一つ一つ具体的に見たり考えたりした方がいいのではないでしょうか。戦争の中に平和が芽生え、平和の中に戦争は育っているんです。

 ―平和とは何でしょう?

僕は平和という言葉に楽園という言葉を連想します。人類にとって楽園はあるのだろうか。あるとしたらどんな状態なのかというのが、自分にとって大きな課題でした。今、この年になって、僕は楽園は幼子の記憶の中にあるのだと思うようになっています。お母さんに守られ大切にされ、まわりのものすべてが自分にほほ笑んでくれていると感じられるのは赤ちゃんの時しかありません。その記憶が自分の財産として、戦争とか平和について考える大もとになっているのでしょう、きっと。

 ―子どもの時に見つけたものは、大人になったらなくなるのですか。

僕は考えの足りない愚かな若者だったので、少しずつ自分で学び取るしかありません。今もそうですが、子どもの時に見つけたものは、今も僕の核の一部になって残っています。

 ―作品を通じて子どもたちに伝えたいことは。

子どもたちに伝えるのではありません。感じ取ってもらいたいんです。「世界は美しい」「自分は生まれてきてよかった」と。映画を見ているうちに自分の中の奥深くに隠れていた何かがスーっと浮いてきて、見終わってしばらくすると、また意識の井戸の深いところへ沈んでいく。そういう映画ができたらいいなあって思っています。

(高3・立川奈緒、高2・見越正礼、中3・西田千紗)


みやざき・はやお 1941年、東京都生まれ。アニメ映画監督。代表作に「風の谷のナウシカ」(84年)「となりのトトロ」(88年)「もののけ姫」(97年)などがある。2001年公開の「千と千尋の神隠し」は観客動員数2350万人で日本映画史上1位を記録。05年ベネチア映画祭で、優れた世界的映画人に贈られる「栄誉金獅子賞」を受賞。