■安全保障の実現に苦心
―核兵器廃棄の実現のために、最も重要な要件は何でしたか。
核保有国からの安全保障を取り付けることだった。米ロ両国は当初、こちらの申し入れに取り合わなかった。粘り強い交渉の結果、一九九四年の欧州安全保障協力機構のブダペスト・サミットで、米英ロ三カ国とそれぞれ、核攻撃をしないことなど安全保障についての覚書を交わした。中仏両国とも秘密裏に会談を重ね、個別の協定を結んだ。
―北大西洋条約機構(NATO)の加盟国とも交渉しましたか。
ポーランド、ハンガリー、チェコのNATO加盟に伴い、核兵器が配備されるのを恐れて、三カ国と話し合った。「ウクライナが核兵器を捨てるのに、隣国に配備されてもよいのか」と問うた。
―賛同は得られましたか。
得ていない。彼らは「自分では決められない」と答えた。われわれは米国と交渉を始めたが、最初はその問題に触れたがらなかった。しかし外交努力で、三カ国には核兵器を将来にわたって配備しないという「国際宣言」を実現できた。
―非核保有国の安全保障の確立は、核拡散防止条約(NPT)体制の維持にも欠かせませんね。
わが国は独自でその安全保障を実現した。それなしには、核兵器廃絶は困難だっただろう。この経験は今後、他国に核兵器廃絶を促す際に生かされると思う。
―核兵器を捨てて不安はありませんか。
日本やドイツのような経済発展が国を守る。核兵器があっても、経済的な力がなければ独立国家としてやっていけない。仮に再軍備しても、核兵器を安全に維持管理する経済力がないのが現状だ。ウクライナは核兵器廃絶国という国際的な地位を手放すことは絶対にない。
―黒海の非核兵器地帯化を提案していますね。
トルコなど他の黒海沿岸諸国の反応は良くない。ウクライナのセバストポリには、ロシアの黒海艦隊が今もあるからだ。わが国とロシアは黒海に核兵器を持ち込まない協定を結んでいる。しかし、ロシアの艦隊基地に核兵器を配備される恐れはある。実際にはチェックできない。米国と日本の関係に似ている。
―新たな核開発に取り組む米ロをどう見ますか。
わが国は米国であれロシアであれ、核軍備の増強には反対している。相手によって態度を使い分けることはない。今後も国際社会で核兵器廃絶を訴えていく。
<プロフィル>94―98年、ウクライナ外相。ポーランド大使、国連大使などを歴任。98年から最高議会議員として、同議会人権・少数民族・民族間関係問題委員会の委員長を務める。
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