原点回帰 役割変わらず
金融機関の足元が揺らいでいる。今や景気回復の最大のネックと言われる不良債権。一向に処理が進まないところにペイオフ解禁が迫り、三月危機も取りざたされる。銀行、証券などの垣根も消えるグローバリゼーションの荒波が、日本列島の隅々まで及ぶ時代。地方の中小企業とともに生きてきた地域金融機関の土壌も激変している。当事者は当面の状況をどうとらえ、将来の自画像をどう描いているのか―。五月に次期第二地方銀行協会会長に就任する森本弘道・広島総合銀行社長に聞いた。(編集委員・宮田俊範)
▽ペイオフ解禁と三月危機・・・情報を開示 風評予防
―「三月危機」が言われてます。金融機関は大丈夫ですか。
株価も上がってきたし、何とか乗り越えられそう。ただ、公的資金を再注入するようなこともあるかもしれません。しかし、不良債権処理問題にふたをし、これ以上、先延ばしはできない状況になっている。ここで「失われた十年」の区切りをつけられれば、夏からは薄日が差すこともある。
―金融機関の破たんもあるのでは。
ないと言いたいところだが、本音で言えば、少し出てくるでしょうね。でもこの近く、中国地方にはありません。本年度は既に信用金庫や信用組合など合わせて五十以上つぶれた。第二地銀では昨年十二月、石川銀行(金沢市)が倒れたが、不良債権比率が60%なんて論外。同じ業界として恥ずかしい。
―金の人気が高まり、タンス預金も増えてます。銀行預金の分が悪くないですか。
金を買う人は多いと聞いてますね。うちの場合、最近は山陰や四国から一千万円預けに来る人が目立つ。「地元にはもう預け先がない」とリスク分散しているわけだ。それと、定期から普通預金へのシフト。普通預金のペイオフは一年遅れだから、先月なんか前年より普通預金が30%増え、定期はその分、減った。
とにかく怖いのは風評被害。ちょっとしたことで預金流出となる。ガラス張りの経営が肝心。例えば、城南信用金庫(東京)のように毎月の預金、融資の残高、株式の含み損益など月次で情報公開しているところもある。うちも三カ月ごとぐらいはやりたい。経営内容をオープンにできないなら、淘汰(とうた)されても仕方ない。最近は主婦も預け先の株価を見てますからね。
―そうなると、再編にもつながるわけですね。
うちは昨年九月、せとうち銀行(呉市)と経営統合した。よく金融庁が一県二行に持っていくように言われるが、そんなことはない。第一、うちの場合は違う。広島県でシェア20%ぐらいないと地域金融機関としての存在感がないと思ったから。この近くでは九州で福岡に三行、長崎には四行あるが、一県で四行あっても、それぞれすみ分けられればいいんじゃないですか。
地域金融機関は大きくなればいい、というものでもない。お客さまサイドからすれば、一県に一行より、複数ある方が競争があっていい。サービスが向上します。
▼ペイオフ
破たん金融機関の預金払戻保証額を原則、一人一金融機関当たり元本一千万円とその利息までとする措置。現在は凍結中ですべての預金が全額保護されるが、四月から定期預金など、来年四月からは普通、当座預金などの決済性預金も対象となる。預金保険の対象でない外貨預金などは今年四月から、保証は受けられなくなる。一九七一年創設の預金保険制度で定められたが、一度も実施されないまま九六年の預金保険法改正で昨年三月末まで凍結。中小金融機関への悪影響などに配慮して、さらに一年延期された。
▽不良債権処理・・・カギ握る地価の行方
―政府は二〇〇四年度には不良債権問題は片付くと言ってますが、むしろ不良債権は増え続けてませんか。
そこのところは、いわく言い難しです。処理しても処理しても、わき出てくる。景気が悪いうえにデフレ。担保の地価が下がり続けているから、引き当てをどんどん追加しなきゃいけない。
しかも、不良債権処理で体力がなくなっているから、取引先を支え切れなくなっている。過去に退場させていれば、ここまで大きな問題にはならなかったのだが、ここまで引っ張ってきたツケが今になって何十倍となって跳ね返り、不良債権の山ですよ。
―なぜ先送りされたのですか。
金融機関と企業との関係について振り返ってみると、金融機関は整理すべきと分かってても整理できなかった。それは日本の社会が、金融機関は企業を支援するのが当然だと考えたから。そうしないと金融機関は冷たい、となる。海外からは日本は生ぬるいと言われても、米国が八〇年代にしたような割り切りはできなかった。
ゼネコンに対しては金融危機と言われた一九九七年前後に債権放棄して支えたが、その時にもっとしっかりリストラを求めていれば、お互いもっと小さな犠牲で済んだ。
―そうした遅れが、土地も株も下がるデフレを招いたのですね。
この十年で個人金融資産に匹敵する千四百兆円が失われた。「失われた十年」だ。企業は疲弊し、新しい投資ができない。業績が悪いから、資金需要もない。それで銀行も正常に融資する先が見つからないという悪循環にある。
―「貸し渋り」じゃないのですか。
政治家の皆さんにはよく「何々銀行が貸してくれません」という話が寄せられるが、よく調べたら、貸せるような内容の先じゃない、というケースが多い。まったく融資先がないとまで言わないが、半分も貸倒引当金を積みながら貸したのでは、いくら金利をもらっても引き合わない。金融機関で貸出残高を伸ばしているところはないんじゃないですか。うちも数年前の水準です。
―では、いつ不良債権の処理が終わるのでしょう。
うちの銀行で言えば、あと二年。金融機関全体では、多分、その倍かかるでしょう。インフレ・ターゲット論も出ているが、ぼくは前からそう思っている。それしか不良債権を片付ける方法はない。地価の下落さえ止まれば、全然、今とは景色が違って見える。
▽将来像・・・資本・経営 開放進む
―企業の資金調達は、株式市場などの直接金融が増えてます。銀行はいらなくなりませんか。
確かに、直接金融は増えていくが、例えば、マツダの協力部品メーカーがどこも市場から資金調達するようになるとも思えない。運転資金の需要はあり続けるし、金融機関は今と同じように残りますよ。
―だが、銀行の数は減るでしょうね。
第二地銀は、これまで十七行が消えた。今は破たんした石川銀行を除けば事実上、五十五行。経済規模からして四十行でいいとも言われるが、数が多いから減らせ、という理屈は成り立たない。小さいから駄目なら、それこそ信用組合はいらない、となる。要は、その地域で必要とされる金融機関かどうかだ。
―改革、つまり不良債権処理が済めば、金融機関は変わりますか。
改革が一巡すると、健全な金融機関だけが生き残る世界が見えてくる。例えば、欧米企業のようなコーポーレートガバナンス(企業統治)の導入。社外取締役を半分入れ、経営をチェックできていたら「失われた十年」はなかった。経営者の命令で融資させるとか、そういう金融機関は存在できなくなる。
社外取締役にフランス人がいても面白いと思う。うちも、そういう時代になるかも。お客さんサイドからみて、金融界に精通した社外の人、そういう事業家が経営に参画すれば、銀行はもっと転換できる。
―銀行、証券、生保、あらゆる分野で外資の参入が増えてます。地方銀行も例外ではなくなりますかね。
資本の論理から言えば、資本は外国で、日本人が経営を任されるということはある。知事や市長が外国人では困るが、経営者は本当に地元をよくしようという情熱を持っているなら、容認してもいいのではと思う。
ただ、金融機関は形ある物を売っているわけでないから、日産自動車のカルロス・ゴーン社長のような経営にはならんでしょう。将来を展望し、お客さまのために、もっと資本をオープンにして他業種と提携することも求められる。
―垣根のない競争が激化するのは必至。地域金融機関としてどう生き残りますか。
われわれがミニ都銀を目指したのではだめ。それではコスト勝負で負ける。それぞれの業態で専門に特化しないといけない。第二地銀なら、中小企業専門金融機関としての成り立ちがあるし、やはり相互銀行としての原点に立ち返ることしかない。下駄を履いても行けるような銀行だ。
米国では、全国を網羅するような銀行は二つぐらいしかない。後は州ごとに拠点を置く地域金融機関だ。日本もそのような姿になると思う。
▼小泉改革と不良債権処理
昨年六月に打ち出した「骨太の方針」で、経済再生の第一歩として不良債権問題を二―三年内に解決することが盛り込まれた。(1)不良債権の確実な最終処理と情報開示(2)処理状況の厳格な点検(3)産業の再生なくして不良債権の最終的解決なし(4)整理回収機構(RCC)による不良債権処理と企業再生(5)不良債権処理の影響に備えたセーフティーネットの充実―の五項目。小泉首相は二〇〇四年度には不良債権問題を正常化すると公約し「金融の危機を起こさないために、あらゆる手段を講じる」としている。
▽専門性を深める時期
企業に設備投資資金や運転資金など「産業の血液」を供給してきた金融機関。どの経営者も「高度成長期は融資の申し込みが引く手あまただった」と懐かしむよう、かつて預金集めさえすれば、経営が成り立つ時期があった。
だが、石油ショック後の低成長期は設備投資需要が大きく縮小。続くバブル期には、大企業が社債発行などで資本市場から資金調達する直接金融が拡大し、貸し出し競争を繰り広げた。
構造変化は、当時の橋本首相が一九九六年に英国の金融市場改革になぞらえて打ち出した「日本版ビッグバン」のはるか以前から進行している。にもかかわらず、抜本的な改革が進まなかったのは「土地神話」にしがみ続けてきた古い体質にある。
地域金融機関は昨年秋から毎週のように破たんが続き、本年度は二月末現在で第二地銀一行と十三の信用金庫、四十の信用組合が倒れた。不動産や株式などへの過剰な投資が原因となったケースが多く、その結果、地元で取引する企業の資金繰りを苦しめている。
金融のグローバル化やIT(情報技術)化も進む中、地域金融機関はなかなか未来の自画像を描きにくい状況にある。ただ、地域経済に血液を供給するという本来の役割だけは変わらない。森本社長の言う中小企業専門金融機関のあり方を、深める時期にきている。
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