消費者の声こそ原動力
地球環境の悪化を防ぐため、二酸化炭素(CO2)削減による温暖化防止対策の実行が急務となっている。政府も一連のリサイクル関連法を整備し、本腰を入れ始めた。対策のカギを握る企業の役割はどうあるべきか―。全国に先駆け、食品トレーを独自回収して再資源化する「エフピコ方式」と呼ばれるリサイクルシステムをつくり上げた食品トレーのトップメーカー、エフピコ(福山市)の小松安弘社長に聞いた。(編集委員・宮田俊範)
▽トレー回収の取り組み・・・失敗糧にスーパーと協力
―トレー回収に取り組むきっかけは、何だったのでしょうか。
米国のマクドナルドが、消費者団体から三年たたかれ続けたのを見ていた。一九八七年からね。ハンバーガーを入れる発泡スチロール製容器がごみになる、環境破壊だ、と徹底的に批判された。テレビで、どくろマークみたいな批判広告まで出された。そんな運動をされたら恐ろしい、と思った。だから、マクドナルドより先に消費者団体に説明して回収を始めたんです。
―スーパーに置かれた回収ボックスは今、全国で五千カ所以上です。どうやって、これだけ広まったのですか。
実は昔一度失敗している。石油ショック後の広島ごみ戦争の時に。三カ月でだめ。その時は、量が集まらなかった。それで九〇年に再び取り組んだ時に最初は、スーパーにトレー一枚持って来たら、一円払うインセンティブをやった。その費用負担はスーパーにお願いした。スーパー側も環境に協力ということで、一気に火がついた。
―全国七カ所に設けたリサイクルセンターの建設費は相当な負担だったのでは。
うちは業界のみんなから、あれで失敗するぞ、とみられていた。大変な金を使った。機械の開発もしなくちゃいけないし。よくぞまあ、ここまでこれたものだと思う。でも、やればそれだけいいことがある。日本ハムや山崎製パンなどは、うちを逆指名してくれた。彼らも一生懸命、消費者に説明できるようにするためにね。やれば、恩恵も受けられるんですよ。
―環境対策が、企業ブランドとしての価値を持ったわけですね。
そうそう。自慢じゃないが、環境対策にも歴史がいる。うちは、今でこそ量が集まり、リサイクルで採算が取れるようになったが、これからやろうとする企業はつらい。
―エフピコに続く企業を生み出そうと、今では国や広島県も環境産業を支援しています。
簡単にはできない。リサイクルならもうかるんじゃないか、といった程度の考えの人が多いから失敗する。ベンチャー育成も、すごい額の融資を十年ぐらい返済しなくていい、無利子で使いなさい、というなら、できるかもしれないが。ただ補助金行政ではだめ。国の補助金をもらったら、機械の改造はだめ、何をするのもだめ、と言い出すに決まってる。それでは今時、物事は動かん。
―トレー回収も消費者運動が原点。企業に環境対策を迫るのは消費者の力ですか。
消費者が、本当に環境を一生懸命やっているところじゃないと買わないよ、となると、企業はそりゃあ大変。消費者が生殺与奪の権を握れば、どの会社もやらざるを得ない。企業が一番恐れるのは、納入先でも仕入れ先でもない。消費者だ。
▽リサイクル関連法・・・自治体との役割分担必要
―容器包装リサイクル法が二〇〇〇年四月に完全実施されて二年。製品によって回収率に差がありますが。
ペットボトルは回収が義務化され、絶対に集めなきゃいかんから、三割は超えているだろう。スーパーでもコンビニでも、集める場所を飲料メーカーに貸して回収をやっている。自治体も分別収集で協力している。でも、われわれの発泡スチロールのトレーは、回収するよう努める、としか書かれていない。あくまで自主回収。うちの回収率は20%を超えているが、目標の30%には届いていない。
―市町村の取り組みが甘い、ということでしょうね。
そう、自治体のやる気が一つもない。三千を超す全国の自治体で、トレーを集めているのは七百ぐらい。法律ができて増えるかと思えば、逆に減っている。回収トレーのほとんどは、スーパーから問屋経由でわれわれに戻っている分だ。
―これ以上、回収率を上げるのは難しいのでしょうか。
いえいえ、自治体から集まる分が増えたら、恐らく30%はいけるんじゃないだろうか。業界でも「ペットボトルみたいに集めろ」という議論は何度もあった。ただ、うちは困らないんだが、義務化したら持たない会社もある。それにトレーだけやる、というのもちょっと問題。同じ発泡スチロール製品では、インスタントラーメンのどんぶりもありますから。
―そのどんぶりは、ほとんど回収されてませんね。
まったくほったらかし。すごい量がそのまま捨てられている。お湯で熱くなるから、気泡が破れ中に油が入ってしまう。それが取れないから、悪いペレットにしかならなくて循環しない。
―スーパーのレジ袋は回収されず、ごみ箱に捨てられ、ひどい状況です。
実は一番問題なのがその手提げ袋。そのトン数が大きい。これから一枚五円で課税する東京の杉並区じゃないけど、こんな方法でちゃんとやれば、ごみはだいぶ減る。容器包装リサイクル法で、われわれメーカーもスーパーも負担金を払わされている。企業側にこれ以上の負担を求められては、ちょっと厳しい。
―家電製品も昨年度から回収が始まり、車でも本格的なリサイクルが予定されています。
回収、再資源化で言えば、目に見えて進むようになる。自動車なら、消費者が買った時に料金を払うことで、消費者はリサイクル義務をお金として負うわけだ。将来的には、リサイクル税とか、環境税とかの導入も考えられるだろう。
▽温暖化防止対策・・・無駄なくせばコストも削減
―地球温暖化対策推進大綱が先日、決まりました。政府は企業にCO2削減を迫ってきます。
これからは毎年、環境会計を出そうか、と検討している。どれぐらいCO2を出しているか実はよく分かっていない。ただ削減については難しい問題がある。ベースとなる一九九〇年から、むちゃくちゃに成長している会社と衰退している会社があるから。うちはこの十年ですごく伸びているが、CO2が倍になった会社と半分の会社とでは、それぞれどう対応すればいいのか。難しい話だ。
―削減目標は、九七年の温暖化防止京都会議で決めた国際公約にもなっています。
石油消費の多い企業には、国から節約してくれ、と指導が来るだろう。トレーは軽いから、業界で使う石油はプラスチック全体の1%もない。もう減らしようはない。それより、日本がやらなきゃいかんのは物流革命だ。問屋は一日に一ケースずつ運送業者に運ばせているし、メーカーも同じ。その無駄が大きな問題だろう。
―運輸部門は削減どころか17%増が目標。企業努力はできませんか。
われわれは国から言われる前から、問屋やスーパーと組んで共同配送、共同仕入れに取り組んでいる。トラックに大きい荷と小さい荷を効率よく載せ、運んだ帰りも荷を探して積む。トラックが二往復するのが一往復になれば、すごい環境対策になる。
―要は、無駄をなくす努力が環境対策につながるわけですね。
その通り。無駄がなくなれば、コストと環境の両方に効いてくる。生産から言えば、うちは原料が入って最終製品にするまで、同じ工場で端材のリサイクルまで手掛けるレイアウトにしている。コストダウンは生産だけではもう限界。今は環境も伴うものなんです。
―結局、日本全体として温暖化ガスの6%削減は達成できますか。
最後は楽勝だと思っている。日本の技術はすごいから。トヨタ自動車やホンダが造ったハイブリッドカーの燃費は、従来の半分以下。そんなのが、これから十年で市場の三割を占める。さらに、その後十年もしたら燃料電池カーも三割になる。二十年後は合わせて市場の半分以上、使う石油の量も今の半分になる。
▼エフピコのトレー回収方式
食品の発泡スチロール製トレーを対象に一九九〇年から始めた。全国のスーパーの店頭などに設置した回収ボックスから、使用済みトレーを福山市や北海道、茨城県など七カ所のリサイクルセンターに搬入。洗浄してチップ状に粉砕、二○○度を超す熱で溶かした後、米粒大のペレットにする。ペレットは工場でトレーに再生される。
トレーの月産二千トンに対し、回収量は四百五十―五百トン。スタートから昨年三月末までの総回収量は約三万トン。原材料の原油換算で、二百リットル入りドラム缶約三十七万本分を節約した勘定。その功績で、リサイクル推進協議会から九九年度の内閣総理大臣賞を受賞した。
同社は六二年創業。二〇〇一年三月期の売上高は一千八億円で、創業以来、三十九期連続の増収。社員約五百人。発泡トレーの国内シェアは約40%でトップ。
▽「循環型」へ問われる姿勢
地球環境対策を進めるには大量消費・大量廃棄の社会から、循環型社会への転換が不可欠である。ただ、リサイクル関連法は一部整備されてきたものの、強制力はまだ不十分。京都議定書を受けた地球温暖化対策推進大綱も三月にやっと決定したばかりだ。
企業の環境問題への取り組みも前進はしているが、ばらつきが目立つ。ゼロ・エミッション(廃棄物ゼロ)工場も生まれている一方、発泡スチロールなどプラスチック類のリサイクルは大幅に遅れている。
ただ、このところ国際標準化機構の環境規格ISO14001の認証を取得する企業が急速に増えている。国際ビジネスの場では認証を取引条件とする傾向が強くなっているためだ。
またエフピコのトレー回収のきっかけを見ていると、消費者の意向が企業の姿勢に大きく影響してくることは間違いない。一連の食品表示偽装問題からもうかがえるように、消費者から見放された企業は生き残れない。
企業自身が早めに環境対策を生産・販売のシステムに組み込むことが、結果として収益面でもプラスになることをエフピコの例は教えている。オイルショックを経て日本の環境対策が、ビジネスとして国際的な評価を受けるに至ったことをあらためて思い起こすべきだろう。
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