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2002/05/14
グローバル化と日本企業 ファーストリテイリング社長・柳井正氏に聞く

国境意識持てば終わり

 海外で生産された低価格商品が日本市場を席けんし、デフレを加速させている。激しい国際競争の下で生き残りをかけ、企業経営にも欧米流の手法が広がる。日本企業はこうしたグローバル化の荒波にどう対処すべきなのか―。「ユニクロ方式」と呼ばれる中国での大量生産を手掛け、カジュアル衣料で全国トップに立つファーストリテイリング(山口市)の柳井正社長(53)に聞いた。(編集委員・宮田俊範)

 ▽ユニクロ方式・・・製造から小売りまで管理

 ―中国で衣料品を大量生産するきっかけは何だったのですか。

 以前は、問屋を通して台湾と韓国から商品を仕入れていた。一九八五年のプラザ合意で円高になったのに卸値が下がらないんで、香港に見に行くと、ある店のポロシャツがわれわれが売っているのより質が良くて値段も安いじゃないですか。そこの親会社を訪ねたら、中国に工場を持っていた。それで中国で生産している取引先を少しずつ開拓していったんです。

 ―小売りと製造を同時に手掛ける「製造小売り」の発想ですね。

 米国の同業、GAPのように世界でもチェーン展開して大きくなった企業を見ると、製造小売りばかり。安い価格の商品を問屋を経由して買うと、どうしても品質が落ちる。自分でやらないと、むだな部分のコストを削ったり、品質のコントロールができないからですよ。

 ―「ユニクロ方式」は今や業種を超えてまねされてますね。

 当時はだれも本気で中国でやろうとしなかったから、うちが先んじることができた。日本企業はリスクを取ろうとしないから駄目だ。非常に日和見だと思いますね。ただ、中国で大量生産しさえすればもうかる、という見方には反対ですよ。

 ―それはなぜでしょう。

 確かに中国は若くて均一で、優秀な労働力を持つことでは世界最高です。でも、それなら、現地の企業は、もっともうかっていないといけないことになる。
女性社員と新製品の打ち合わせをする柳井社長と次期社長の玉塚常務(左から)=東京都渋谷区の東京本部

 実は、生産というのは付加価値を生まない。本当に付加価値を生むのは、最初に顧客ニーズをつかみ、商品を開発して現地生産を管理し、日本の店で実際に売っていく小売りシステムにあるんです。うちが中国で作ることが付加価値を生むように思われているけど、それなら自前で中国に工場を持ちますよ。

 ―中国での大量生産委託が中国のさらなる追い上げを促し、日本経済にマイナス効果をもたらす側面もあるのでは。

 それはない。企業が生き残ろうと思えば、国境があると考えたら終わり。その時点で勝負に負ける。自動車がいい例だ。農業も金融もそうだが、国内にとどまって保護されたから、かえって早く駄目になった。

 外国で生産することは、今や普通と思わないといけない。現実の方が先行しているんです。世界市場は開放され、米国の巨大スーパーのウォルマートじゃないが、世界中からいろいろな企業が日本に来るし、ぼくらも世界中へ行く。海外生産をもっとうまく利用し、もうけないといけない。

 ▽消費者と市場・・・おごりを戒め新鮮さ再発信

 ―昨年十月から毎月前年割れが続き、今期は初の減収減益見通しですね。消費者にあきられたのでしょうか。

 今はブームの反動。二年で売り上げが四倍ですからね。毎シーズン、新鮮な商品を売っていかないといけなかったのに、マンネリ化した。売れて当たり前と思えば、自動販売機と同じ状態で、そこに進歩はない。慢心、油断、おごりでしたね。

 ―快進撃を続けてきた「ユニクロ」にして油断あり、だったわけですか。

 ええ、消費行動を読むのは難しい。でも、読まなきゃ経営もできない。消費者はいくらベーシックな商品でも、去年買えば同じ物を今年は買わない。今年は素材がこう変わったとか、色やシルエットはこうだとか工夫がないと売れない。今後は、四月に設けたデザイン研究所で新規性、デザイン性を高める。

 ―市場がもう限界なのではありませんか。

 カジュアル衣料の市場規模から見て、うちの売り上げはまだわずか。それより、どんな企業にも壁があって、今うちがぶつかっているのは売り上げが三千億円の壁だ。

 一千億円を突破すると、地方ブランドから全国ブランドになり、三千億円を超すと、グローバルブランドになる。売り上げが三倍ごとに、事業構造を変えないと生き残れなくなる。次のステージで、また三倍の一兆円までは行けると思っている。うちの商品は同じ価格帯では、世界最高の品質ですからね。

 ―昨年秋からは英国に進出し、海外展開も始めましたね。

 英国では今月末で十五店になり、三年間で五十店にする計画だ。中国にも今秋から出る。ポテンシャルがある市場なので、十年で日本の売り上げを超えたい。その時には一千店ぐらいになる。

 ―消費傾向が違うのに、日本のように売れるのでしょうか。

 よく、日本と世界では違うと言われるが、本気でその市場を開拓するには、同じ部分をもっと大事に見ていかないと進出なんてできやしません。日本と英国の間で売れ筋や客層に差はないし、違うのは、体格と好む色ぐらい。二年目で収支とんとん、三年目で利益率10%の軌道に乗っていくはず。手ごたえは十分ある。

 ―今秋から野菜を販売するなど、まったく異なる食品事業を手掛けますね。成功する自信は。

 ずっと前からやりたかったこと。カジュアル衣料も生鮮食料品も生活に密着している点では同じですからね。多分、成功までに時間はかかるでしょうが、うちは繊維の分野で初めて生産と販売を結び付けた企業であり、食品は繊維以上にそういう結び付きがないから、うまくやれると思う。

 ▽企業統治・・・良い経営方式は世界共通

 ―十一月に社長交代し、会長兼最高経営責任者(CEO)に就かれますね。なぜ今ですか。

 ずっと前から六十歳を過ぎたら、経営の第一線を退いて投資家になろうと思っていた。六十歳になってすぐには退けないので、今から体制を作っておかないといけないからだ。

 ―会長の立場では何をやるのでしょうか。

 経営チームを作り、それを指導する。所有と経営をはっきり分け、株主として生きる。執行する人があちらにいて、こちらのボードメンバーが評価する体制になるんじゃないかな。その下に財務とか人事委員会とかを設けましてね。同族経営にはしたくなかった。

 社長兼最高執行責任者(COO)となる玉塚元一常務は、世間では若いように言われるが、経営者の素質を持っている。三十九歳なら十分だ。

 ―欧米の企業統治を見習うわけですね。

 みんなそう言うが、ぼくは経営スタイルに欧米型とか日本型とかは存在しないと思っている。世界中でいい企業はどこでもいい経営をしているわけで、むしろ欧米のいい企業と日本のいい企業の経営は似てますよ。

 例えば、マツダは日本企業なのか米国企業なのか分からないでしょう。今では自動車で三社が外国人社長だ。うちでも将来、外国人社長があり得るだろうし、そうある方がむしろ健全だと思う。

 ―グローバル化の下で、経営者に求められる資質は何ですか。

 競争、変化を恐れない覚悟でしょう。チャンスがあると考えるより、不安が先行したのでは駄目だ。好き嫌いにかかわらず、それが現実なら、経営者として毎日、粛々とやらないといけない。

 個人としてもそうだ。うちではプロ集団にしたいと考えている。どこに行っても食えるような人間の集団だ。プロとは結果が出せる人、成果をもたらせる人だ。

 ―優勝劣敗ですか。社員にとってはきつくないですか。

 きつく聞こえたとしても、経営者はそれを言わなくてはいけない。多分、あらゆる企業がそう求めている。一番悪いのは甘いことばかり言っていて突然、きつい合理化をやる経営者。人員整理の前に、当然努力すべきことをしていない経営者が多い。そんな企業は崩壊しますよ。うちだって毎日のように事業の再構築、リストラをしているんです。

 職業人として本当の幸福とは、自分で自分の仕事ができ、評価されて高い給料をもらい、いい人生だったな、と退職できることでしょう。甘い会社では、それはないですよ。


 ▼ファーストリテイリングのユニクロ方式

 一九八六年から中国での生産委託を開始した。現在は上海市と広州市に置いた生産管理事務所を中心に、約八十工場で製造し、日本に逆輸入。フリースやポロシャツなど四百―五百品目の商品を、それぞれ百万点単位の大量生産によりコスト削減につなげている。

 縫製にとどまらず、素材の選定から紡績、染色などまで技術指導し、品質向上を図っているのが特徴。繊維メーカーなどを退職した五、六十代のベテラン技術者十数人を「匠(たくみ)チーム」として編成し、昨年三月から現地に派遣している。

 同社は衣料品小売り、小郡商事として四九年、宇部市で創業。九一年に現社名に。「ユニクロ」一号店は八四年に広島市中区でオープンした。四月末現在で五百五十七店。社員数は約千六百人。

 二〇〇一年八月期の売上高は四千百八十五億六千百万円、経常利益千三十二億千七百万円。利益は小売業界でコンビニのセブン―イレブン・ジャパンに次いで二位。今期は売上高三千六百億円、経常利益六百億円と九四年の上場以来、初めて減収減益となる見込み。


 ▽例外のない優勝劣敗

 グローバル化が進む日本経済にあって、ファーストリテイリングは時代の最先端を走ってきた。「ユニクロ方式」は、消費者にフリースなど商品に対する価格への見方を一変させ、デフレ時代を強烈に演出した。

 ただ、かつて一度ビジネスモデルを確立した企業は十年は優位性を保てていたが、今は三年でキャッチアップされる。同社も大手スーパーなどに追随され、優勝劣敗の厳しさも示している。

 柳井社長が語るように、グローバル化は今やあらゆる業種、市場に押し寄せている。家電、自動車に代表されるように、賃金格差などからいや応なく海外生産を迫られ、製造業を中心に空洞化問題は深刻である。

 その一方で、中小企業や農業など、グローバル化への対応がいまだ難しい企業や分野が相当あるのも事実だ。

 政府は現在、新産業創出などによる経済再生を目指している。だが、グローバル化への対応や空洞化に伴う雇用問題などについて、その折り合いをどうつけるのか。いまだ有効な手だては見えてこない。

「次のステージで、また今の3倍の1兆円まではいける」と語る柳井氏

 


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