特集・インタビュー
ホームページ社説天風録地域ニュースカープ情報サンフレ情報スポーツ情報全国・世界のニュース
2002/07/11
逆風下の原子力政策 原子力委員会委員長 藤家 洋一氏に聞く

被爆体験見据え安全策

 日本の原子力政策が、かつてない逆風下に入っている。1995年の高速増殖原型炉「もんじゅ」のナトリウム漏れ以来、東海村臨界事故など相次ぐ事故・トラブルによって国民、とりわけ関連施設の立地点の住民の不安が高まっているためだ。原子力発電所の是非を問う住民投票も相次ぎ、新増設が難航。核燃料サイクルのかなめ、プルサーマル計画も行き詰まっている。この状況を国はどう受け止めているのか―。内閣府の原子力委員会委員長、藤家洋一氏(66)に聞いた。(編集委員・宮田俊範)

 ▽「相次ぐ事故・トラブル」・・・深刻、チェック強める 資源小国、全廃は早計

 ―原子力関連施設の事故やトラブルに対して、国民の批判も厳しくなっていますね。

 残念ながら原子力はこの数年、非常に社会の批判の中に置かれています。やはり九九年の東海村臨界事故の影響は大きく、われわれは深刻にとらえ、大きな警告であると受け止めている。わが国の原子力の平和利用を考える原点には広島、長崎での不幸な体験があり、熱エネルギーと放射線障害の悲劇がありました。これを教訓として進めるには、絶対に安全最優先でないといけない。

 ―昨年十一月と今年五月に中部電力の浜岡原発1、2号機(静岡県浜岡町)で水素爆発や金属疲労などが起きたように、高齢化した原発への懸念もあります。

 そうですね、おそまつだと怒鳴りつけていいのかもしれませんが、一番大事なのは安全にかかわることはきちっとやっていくこと。原理的には原子炉の部品で交換できないものはないから、いつ取り換えたらいいか、チェック能力を高めることが大切だ。これまでトラブルを経験し、その改良によって安全も高めてきたわけで、年数やどの環境条件でトラブルが起きるか分かれば、対策も大丈夫です。

 ―それでも現状では、国や設置者の説明を全面的に信頼するまでには至っていません。

 これまで、なぜそんな事故が起こったのかを考えると同時に対策は全部打ってきた。そこでみなさんに冷静に考えてほしいのは、これまでの事故が原子力をすべてやめてしまうほどのことなのかということです。日本全体でやめるべきと言うのなら、その通りやめるべきでしょう。でも局部的な現象でけしからんというのなら、政策を作る側としてはやめるわけにはいきません。

 ―ドイツの現政権は将来の原発全廃を決めました。日本も政策転換は可能でしょうか。

 できないでしょう。なぜなら日本の原子力の原点を考えた場合、被爆の悲劇とともに、日本が明らかに抱えている資源小国という地政学的な理由があるからです。そしてそれは過去に戦争へつながった反省があります。

 原子力をやめろというのなら、同時にそれに伴うリスクも十分考えないといけない。例えば今のように世界で原子力発電が増えてなかったら、第三次石油ショックもあり得たかもしれません。


 ▽「きしむ住民合意」・・・不安解消できず反省

稼働20年以上の1、2号機で配管破断や水漏れなどが起きた中部電力の浜岡原発(静岡県浜岡町)
 ―新潟県巻町や刈羽村、三重県海山町と原発建設やプルサーマル導入の是非を住民投票で問う自治体が増えました。

 直接、間接どちらの民主主義か、という問題は私もはっきりとは答えられないが、すべての人がすべての問題に対処して判断するのはできない話で、やはり世界的に定着しているのは間接民主主義でしょう。あるところではエキスパートが判断するプロセスがいるのでは、と思います。

 ―どの住民投票結果も、反対が過半数を占めましたね。

 原子力へ不安を持っている人に十分にこたえられないで進めてきたことへの責任や反省はあります。過去にエキスパートがミスジャッジしたこともあるでしょう。ただ、原子力がこうした論議になるのは、まだ新しい科学技術であって、技術の全体像がまだ見えていないからでもある。人が不安を抱くのは敵が見えないからでもあり、いったいどれだけ大きな事故が起きるのだろう、というようになりがちです。

 ―原発を過疎対策などで誘致した自治体で、住民の間に是非をめぐる対立も生んでいます。

 言われる話はよく理解できます。差し障りがあるような言い方にもなりますが、発電所の建設にイエスと言ってもらうため、いろいろな地域振興をクールな議論なしにやったことは過去に結構あったと思う。そこで人は物をくれる理由としてなにかまずいことがあってその代償かな、と考えてしまう。その代償が安全だという議論につながりやすい。

 ―五年後をめどに電力の全面自由化も検討中です。巨額の建設費がかかる原発は今後、建設が難しくなるのでは。

 確かに初期投資が高過ぎるのは欠点だが、発電コストでみれば格段に安い。基本的には原子力と化石燃料ではエネルギー密度で百万倍違い、原子力が安くて当たり前でしょう。経済は動いているから、原子力ができなければ、代わりに石油資源の確保はどうするか、原子力より発電コストが安いものがありますか、という議論になる。

 電力自由化も含め燃料のべストミックスのあり方を今、議論している。それと地球温暖化の問題もありますから、原子力だけが抜け落ちることはあり得ません。

 ▽「核燃料サイクル」・・・高速増殖炉の実用化目指す

 ―東京電力の福島第一原発3号機(福島県大熊町)でのプルサーマル計画には、福島県知事は拒否の姿勢です。

 知事とはいつでも意見交換し、国の政策について説明したいと思っている。ウランは石油と同じように資源としてあまり持ちませんので、使用済み燃料の中に残ったプルトニウムという資源を再び使うか捨てるのか、判断の分かれ目だと思う。

 ―プルサーマルや高速増殖炉のめどが立たず、高レベル放射性廃棄物の処分地も決まっていません。核燃料サイクル推進の見通しは厳しいのでは。

 現在、処分候補地の問題などかなり議論が進んでいます。そして原子力技術がこれからずっと進んでファイナルのところまでいけば、放射性物質がつぶせるところまでいく。当然そういうターゲットが見えているからこそ、今そこに向けてアプローチしている。

 そのためには、高速増殖炉は核燃料サイクルの重要な一環であり、国民の理解を得ながらぜひ進めたいと思っている。プルトニウムという資源を増やすのと同時に、廃棄物も減らせるからです。

 ―そのプルトニウムに対し、海外では核兵器転用への疑念が持たれています。

 原子力基本法の下では、日本が核兵器を持つことはあり得ません。もしその方向に向かい出せば、われわれが命がけで止めます。

 ―けれど福田官房長官は非核三原則を将来見直す可能性に言及し、波紋も広がりました。
 福田発言に委員会として特に口は挟みませんが、内容はともかくTPOはまずかったでしょうね。原爆反対と原子力を平和利用に限ることは同じ原点であり、この視点なしに原子力政策を作ったり語ったりできないというのが私の思いです。

 だから、二〇〇〇年十一月に決定した現行の原子力長期計画の策定に当たっては、原爆反対と原子力の平和利用を共存したような原子力政策を作ることが日本らしいし、おそらくそうでないと二十一世紀の原子力は進まない、との視点を貫いたつもりです。
 
視角 ▽突っ込んだ議論必要

 国の原子力政策で、目下の最大の懸案が核燃料サイクルの確立。原子力発電所から出る使用済み核燃料を再処理してプルトニウムなどを取り出し、再利用を図るものだが、相次ぐ事故・トラブルで行き詰まっている。

 プルトニウムを燃料に発電し、消費した以上の燃料を生成する高速増殖炉は、一九九五年の「もんじゅ」の事故でとん挫した状態。高速増殖炉へのつなぎ役であるプルサーマル計画も、九九年に関西電力が使う予定だったMOX燃料で英国核燃料公社(BNFL)のデータねつ造が判明し、つまずいたままだ。

 核燃料サイクルの過程で生じる高レベル放射性廃棄物も、地下深く処分する研究に着手したばかり。最終処分開始のめども「平成四十年代の後半ごろ」で、処分地選定などで曲折も予想される。

 藤家委員長が強調するまでもなく、国内で五十三基の原発が稼働し、使用済み核燃料はたまり続けている。現実にそれをどう処理するか、避けて通れない問題である。突っ込んだ議論が必要な時期にきている。(宮田)

picture
「原子力をやめろというのなら、同時にそれに伴うリスクも十分に考えないといけない」と語る藤家氏

ふじいえ・よういち 63年東京大大学院博士課程(原子力工学)修了。大阪大工学部助教授、名古屋大プラズマ研究所教授などを経て89年に東京工業大原子炉工学研究所長、96年同大名誉教授。原子力委員会は95年委員、98年委員長代理を経て01年1月から現職。兵庫県出身。

《原子力委員会と原子力発電所の現状》

 原子力基本法に基づき一九五六年に設置。原子力の研究、開発、利用に関する政策を審議、決定する。安全にかかわる機能は分離し、七八年に原子力安全委員会が設けられた。委員長以下五人。昨年一月の省庁再編で総理府から内閣府に移り、委員長も科学技術庁長官から学識経験者となった。現行の原子力長期計画は九回目の策定になる。

 国内では現在、九電力会社と日本原子力発電が設置した軽水炉五十二基と、核燃料サイクル開発機構の新型転換炉「ふげん」の計五十三基が稼働する。建設中が四基で、建設準備中は中国電力の島根原発3号機(島根県鹿島町)と上関原発1、2号機(山口県上関町)など六基。二〇〇〇年度の総発電電力量のうち原子力は34.3%を占める。
《プルサーマル計画》

 原発の使用済み燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、ウランとの混合酸化物(MOX)燃料にして軽水炉で燃やす計画。国は当初、高速増殖炉でのプルトニウムの再利用を目指したが「もんじゅ」の事故で、代わって浮上した。二〇一〇年までに十六―十八基で導入する予定。

 東京電力は柏崎刈羽原発3号機(新潟県柏崎市・刈羽村)で予定していたが、昨年五月の刈羽村の住民投票で反対が過半数を占めて見送り。今月十八日からの定期検査中に導入をめざす福島第一原発3号機(福島県大熊町)は、知事の同意が得られていない。中国電力も検討している。

 


ホームページ社説天風録地域ニュースカープ情報サンフレ情報スポーツ情報全国・世界のニュース