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2002/07/20
航空業界再編と地方路線 日本航空社長 兼子 勲氏に聞く

統合効果 顧客に還元

  大型再編が進む航空業界。国際線を主力としてきた最大手の日本航空(JAL)は10月、3位の日本エアシステム(JAS)と経営統合し、全日本空輸(ANA)グループとの2強時代に突入する。日航は国内線強化を掲げ、中国地方では今月から、山口宇部(宇部市)、岡山(岡山市)の2空港に東京便で参入。業界地図を大きく塗り替えた。再編をリードする日航の兼子勲社長に、統合の狙いや地方展開について聞いた。(藤原直樹)

 ▽経営統合・・・基盤安定で国際競争力

 ―ライバルだったJASとの経営統合は世間を驚かせました。狙いは。

 国内線のシェアは全日空が五割で、JAL、JASが四分の一ずつ。一社が強すぎるより、二社が拮抗(きっこう)して競う方が、価格やサービスで消費者メリットが生まれる。

 もう一つは、企業としてのアンバランスな収益構造。日航は国際線が七割で、国内線が三割。それに比べ、世界トップクラスの米航空会社は国内線収入が七割もあり、安定収入に支えられて激しい国際線の競争をしている。昨年九月の米テロ事件後でも分かるように、国際線はテロや戦争などの外部要因に左右される不安定な市場。統合後は国内外が半々となり、バランスがよくなる。設備や人材の重複コストも削減し、国際競争を勝ち抜く強い体質を築きたい。

 ―テロや景気低迷の影響が長引き、逆風の市場が続いています。

 航空業界は世界で年間十六億人、日本も米国に次いで一億三千万人が利用し、今後も拡大を続ける巨大市場だ。テロを契機に産業が衰退することはありえない。影響は一過性であって、日本は欧州、アジアとともにかなり回復している。これからも国内線で毎年1、2%、国際線で5%近い伸びが見込まれる。

 ―具体的な統合の進め方は。

 早くブランドをJALグループに統一し、市場に対する訴求力を高めたい。今、新しいロゴも研究している。事業別会社に再編する二〇〇四年まではJASと別会社なので、まずは顧客の便利さを考え、統合前に販売を一本化して、お互いの航空便や旅行パック商品を売れる体制にする。

 ―国内線は現行のJAS便との調整が難しそうですね。

 両社の便をトータルで考え、一番いい路線、便数、ダイヤにしていく。今回の統合では、新規航空会社の参入枠として、羽田空港(東京)発着の九枠を返上した。その際は、両社が飛ばしていて便数が多く、時間帯が重なっているところを減らした。代わりに、空いた飛行機を全日空の独占地域や便数差の大きい空港に回した。今後も、そういう形で再編していく。



 ―不採算路線はどうしますか。

 顧客の利便性と企業の採算性をどう両立するかがポイントになる。不採算路線の場合、ほかの交通手段で代替できるところは撤退もあるが、生活に欠かせない路線は極力残したい。

 ―二強時代になれば、競争が減り、顧客が損をすることはないですか。

 これまでは圧倒的な一社がリーダーシップを持って、価格形成権も強かった。二社が拮抗すれば、競争は必ず活発化する。統合後は、空港カウンターの共有や人員減で五百億円くらいコストが減らせる。メリットが出れば、その分、顧客に還元できる。割引制度も拡充したし、十月からは普通運賃も10%下げる。既に競争効果は出ている。

 ▽山口・岡山参入・・・順調な予約・搭乗率 新幹線に対抗 割引アピール

 ―山口宇部、岡山空港に参入した手応えは。

 今月参入したのは山口、岡山、富山の三カ所。いずれも全日空の独占地域だったところで、東京との需要が五十万人以上あり、収益性の高い地域を選んだ。最初の二週間の搭乗率は、岡山が91%、山口が86%と好調なスタートが切れた。予約も順調にいっている。

 ―山陽筋の東京便は、JR新幹線との競争が激しいところです。

 確かにそうだ。わが社の参入で、特に岡山は激戦になる。今、飛行機は二割の顧客しか取れてない。それだけ新幹線が強いんですよ。それをどれだけ取っていけるか。うちが参入し、全日空も増便した。便数が増え、時間帯がきめ細かくなる分、飛行機は確実に増える。岡山―東京便は年間六十一万人が利用しているが、今後は三割増の年間七十八万人ペースになるのではないか。山口はもともと飛行機が健闘しているが、これも七十一万人から七十八万人程度に増えると思う。

 ―価格競争も激化しそうですね。

 というより、うちが激化させたわけでね。開店大売出しじゃないが、相当な割引をした。今後もいろんな割引制度でアピールしたい。十月からの普通運賃値下げも全員が対象だけに効果がある。これこそが競争の結果であり、消費者への還元。でも、価格は結局横並びになる。ずっと優位が続くとは思ってない。競争に終わりはない。

 ―どんな利用促進を考えていますか。

 夏休みに入るし、個人の観光客を掘り起こしたい。うちがオフィシャルスポンサーを務める東京ディズニーリゾートを軸に、首都圏観光をPRする。地元にも、山口が秋吉台や下関、岡山が倉敷美観地区や後楽園など全国クラスの観光資源がある。関東の人にも、旅行会社を使ってパッケージツアーをたくさん提供していく。観光キャンペーンを展開している自治体とも連携し、地域経済の活性化に役立ちたい。

 ▽国内線戦略・・・中国地方の東京便を拡充

 ―国内の地方路線をどう展開していきますか。

 統合効果を生かしながら国内全域にきめ細かな路線網を築くのが基本。ただ、一気に展開できればいいが、羽田発着枠は限られている。再拡張で第四滑走路ができるのも早くて七、八年後。それまでは羽田から需要の大きい主要都市への便を充実することになる。

 ―その中で中国地方の位置付けは。

 あまり出てなかった地域だけに将来性がある。参入したばかりの山口、岡山の増便を中心に、各空港の東京便を拡充していきたい。需要規模が大きく全日空が独占している米子空港(米子市)と鳥取空港(鳥取市)も候補だが、後発組は発着枠やカウンターの確保などハンディもある。慎重に判断する。

 ―逆に広島空港(広島県本郷町)は東京便が一便減、ホノルル便も季節運航になりました。

 広島は大きな市場だけに、東京便の数はJAL、JAS合わせると、既に全日空と互角の状態にある。搭乗率は70%を切っており、一便減なら今の需要に十分対応できる。一方、地方からの国際線はというと、なかなか難しい面がある。ビジネスと観光に支えられたソウル便は安定しているが、レジャーに限られたホノルル便は採算的に厳しい。成田や関空経由でお願いするしかない。

 ―広島西飛行場(広島市西区)を本拠地とする子会社のジェイ・エアはどうなりますか。

 ブランドは子会社も含めてJALグループに統一するが、小型機専用の会社として存続させる。別会社の方が、機材や整備、人材の効率がいい。将来は大型機中心から中・小型機の時代が来る。一日二便、三百人単位で運ぶよりも、五十人、百人で五便飛ばした方が便利だからだ。中・小型機は今、需要が小さい地方と地方を結んだり、国際便乗り継ぎが主流だが、さらに路線を拡充する余地はある。国内の路線網がよりきめ細かくなっていく分、ジェイ・エアの役割も高まるだろう。

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「激しい国際線競争を勝ち抜くため、国内線を拡充して安定した基盤をつくりたい」と話す兼子社長

かねこ・いさお 1960年、東京大法学部卒業後、日本航空入社。ローマ支店長、常務、専務を経て、98年6月から社長。10月2日に日本エアシステムと設立する共同持ち株会社「日本航空システム」社長に就任予定。東京都出身。64歳。

《航空業界再編》大手三社体制が長年続いた中で昨年十一月、日本航空が日本エアシステムとの経営統合を発表。二社体制に移行することになった。計画では、十月二日に共同持ち株会社「日本航空システム」を設立。二〇〇四年四月に国際線の「日本航空インターナショナル」、国内線の「日本航空ジャパン」、貨物の「日本航空カーゴ」の事業別会社に再編する。公正取引委員会は当初「国内の競争を制限しかねない」と難色を示したが、両社が新規参入会社のために羽田空港発着枠を一部返上することで決着した。

 全日空も六月下旬、民事再生法を申請した北海道国際航空(エア・ドゥ、札幌市)を救済する形で包括提携に合意し、体制強化を急ぐ。新規参入会社が依然苦戦する中で、日航、全日空グループの寡占化による競争低下を危ぐする声もある。

 


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