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2002/07/23
国への直言、その論理は 鳥取県知事 片山善博氏に聞く

国政、地方とズレ鮮明

 「国の政策はピントがずれている」など、歯に衣(きぬ)着せぬ発言で度々、波紋を投げ掛けている鳥取県の片山善博知事(50)。一方で徹底した情報公開や独自の震災対策などを打ち出し、「改革派」知事の一人として注目を浴びている。6月の県議会で、再選を目指して来春の知事選に立候補する意思を表明したのを機に、国政をはじめ地方自治への直言、苦言の背景にある思いを聞いた。(編集委員・小野浩二)

 ▽政治家と官僚・・・改革進まず、国民二の次

 ―国の政策を度々、批判するなど、知事として積極的に発言していますが、なぜですか。

 中央がやろうとすることと、地方の現場とのずれが大きくなり、地方がものを言わざるを得ない状況になってきたからです。従来は少々ずれていても中央の言うことだから、と目をつぶって従ったのだろうが、もう我慢できないところまできた。中央政治と政府の劣化現象は目に余るものがある。

 ―劣化現象は、どういう点で目につきますか。

 まず、政治が健全なリーダーシップを発揮し、役所を引っ張る面が欠けている。例えば、個人情報保護法案や有事法制は全国民に関係あるものだから、法案作りは政治主導でやるべきだ。ところが、実態は役所に丸投げにしている。

 ―「構造改革」を掲げる小泉政権ですが、改革は進んでいるように見えますか。
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衆院有事法制特別委員会の地方公聴会で意見を述べる片山知事(右端)=6月5日、鳥取市内の会議場

 密室政治が改善され、議論がオープンになった点は評価できる。しかし、財務省を中心に予算編成の制度改革ばかり先行し、本当の意味の構造改革は進んでいない。首相は外務省改革も人任せにしている印象が強く、政治が外交の基本方針を示そうというような改革意欲は感じられない。

 ―中央政治の抜本的改革が最も求められているということですか。

 その通りだ。一方で、官僚も自分の省庁の立場ばかり考え、国民のことを二の次にしているように見える。志を持ってその職に就いたのなら、国民との接点を失わないようにし、自分の行動は国民のためになっているのか省みるべきでしょう。

 ―旧自治省の官僚時代、そうした弊害にどう対処しましたか。

 秘密主義や前例踏襲主義を改革しようと燃えていたから、よく先輩や同僚と対立していた。黙って過去の通りにやっていれば、通行人のようなもので責任を問われることはないが、無作為の責任というものもある。旧厚生省の薬害エイズ問題はその典型例だろう。最近では農水省や厚生労働省のBSE(牛海綿状脳症、狂牛病)への対応も非常にお粗末だった。

 ―国と県との関係で具体的に、どんなことがありましたか。

 一つは、感染原因とみられる肉骨粉が飼料に使えないので焼くことになったが、国はその費用の三分の一を県が払えと言ってきた。「すべて国の責任なのに、なぜ県が払うのか。うちは意地でも払わない」と言ったら、「もう補助金をやらない」とか猛攻撃にあった。しかし、次第に「払わない」という県が増えてきて、最終的にはすべて国が払うことになった。

 ―全頭検査の実施をめぐっても国とのあつれきがありましたね。

 厚生労働省は当初、感染の可能性が高い生後三十カ月以上の牛を検査するよう指示した。しかし、生後三十カ月未満の牛が未検査のまま出荷されると消費者は不安になると思い、県独自で全頭検査をする方針を決めた。すると、「足並みが乱れる」と圧力がかかり、検査切符を分けてくれない。腹が立つから副大臣に掛け合ったら、ある日突然、全国的に全頭検査をすることになった。

 ―国の圧力などがある中で、あえて直言するのはなぜですか。

 国への説明責任だけを果たすつもりなら、国の言う通りやっていればいいのだから楽でしょう。しかし、県民への説明責任を果たそうとすれば、「国が決めたことだから、いいんじゃないんですか」と言って済ましているわけにはいかない。

 ▽市町村合併・・・破たん招く特例措置

 ―市町村の「平成の大合併」にも注文を出していますね。

 国の合併論議は完全に地方とずれている。国は「このままでは地方財政が破たんするから市町村は合併しなさい」と言いだしたのだが、そもそも論理のまやかしがある。

 ―まやかしとは、どういうことですか。

 地方財政の破たんは地方だけの責任ではない。国が景気対策で「どんどん借金して仕事をしなさい。借金は後から交付税で返してあげます」という制度をつくったことで、借金が膨らんだ。そんなモラルハザード(倫理観の欠如)を招く制度は、やめるべきだ。国は淡々と一定の交付税を配り、自治体が必要なものに使う制度にすれば、十年もすれば地方財政は健全になる。

 ―合併は必要ないという考えですか。

 いや、合併は別の意味で必要と思う。地方分権の時代に独自の施策を行うには専門家がいる。ところが、現状は規模が小さくて専門家を置けない町村が多い。せめて人口二、三万人の規模になる必要はある。

 ―合併特例法は〇五年三月までの期限がありますね。

 特例措置は合併したらハード事業がしやすくなるという制度で、邪道だ。ハード事業で借金まみれになった市町村が、合併したらまた破たんへの道をたどることになる。そういうものに目をくらまされず、どういう合併がいいのか冷静に考えなければならない。

 ―期限内に合併しないと、財政上の負担が大きくなると言われていますが。

 そういう線引きこそ、国が最もずれている点だ。それぞれの地域で実情は違うのに、ある日を境に突然、優遇措置をやめるような制度に、どんな説得力があるというのか。例えば、合併に伴って人材確保を応援する仕掛けをつくるとか、地方が本当に求めている制度こそ必要だろう。

 ―道州制の議論も始まっています。

 国の都合で出先をブロック分けするような道州制なら、絶対に反対だ。米国の連邦制のように、地方が強い自治権を持てるのなら、一つの選択肢だと思う。

 ▽知事と議会・・・責任明確に議論尽くす

 ―昨夏、中四国九県知事の「中四国サミット」を批判して欠席しました。今年はどうしますか。

 日程が合えば出席する。二度と出ないと言ったのではなく、中身のない会議を続けても意味がないと言いたかった。結果的に会議の内容や運営が大きく変わったことをみると、他県の知事も内心で問題意識を持っていたのではないか。

 ―核燃料サイクル開発機構のウラン残土の処分地問題をめぐって、受け入れを拒んでいる岡山県知事に批判的な発言をしていますね。

 対立しているといっても、道路建設や産業廃棄物処分などは協力し合っている。友好的な関係を考慮して議論を避けるのは、健全な友好関係ではない。知事として最も大切にしたいのは法的にフェアかどうかという判断基準で、感情レベルの対立は避けたい。

 ―感情的対立といえば、長野県の田中康夫知事が議会の不信任決議を受けた事態をどうみますか。

 不信任決議をした背景に、どんな政策の対立点があるのか理解できない。不信任の理由は知事の「脱ダム宣言」の手法のようだが、それなら議会は関連議案を否決すれば済む。感情的対立が不信任に発展するのは異常な事態だ思う。

 ―鳥取県でも知事と議会の対立はありますか。

 議会への根回しをしないから、対立はよくある。本会議で修正可決や継続審議になった議案も、産業廃棄物処理税などいくつもある。こちらはベストと思う政策を議案にして提案し、議会は県民の声を吸い上げて可決か否決かを決めればいい。大切なのは議論をオープンにし、だれの責任で議案が可決、否決されたのかを明確にすることです。

 ―二期目を視野に入れて何を目指しますか。

 手掛けたことが道半ばだから、もっと進めたい。一期四年では全力を発揮できない。ただ、多選はいけない。十年も全力でやれば、自分の力は出し切れると思う。当選できたら教育と人権を基軸にした行政をやりたい。
 


視角 貫く「現場主義」

 政治家や官僚の相次ぐ不祥事などで国政が沈滞する半面、地方では「改革派」「個性派」と呼ばれる知事が脚光を浴びている。東京都の石原慎太郎知事、宮城県の浅野史郎知事、三重県の北川正恭知事…。中国地方では、鳥取県の片山善博知事の動向がひときわ目立っている。

 旧自治官僚の出身でありながら、期限を切った市町村合併策に対して古巣に反旗をひるがえし、交付税の全国一律基準など中央集権的な体質を痛烈に批判する「現場主義」。政策面でも、鳥取県西部地震の被災住宅再建支援に県独自で戸別補助制度を新設するなど、「地域を崩壊から守る」との姿勢に徹している。

 時に過激な言動が周囲の反発や誤解を招くこともあるが、その発想を理解するうえで重要なキーワードは「フェア」「オープン」「スピーディー」だろう。全国で最も人口が少なく厳しい台所事情を抱える鳥取県のかじ取り役として一期目をどう仕上げ、二期目に臨むのか。あるべき自治体行政のモデルの一つとして目が離せない存在である。(小野)

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「県民への説明責任を果たそうと思えば『国が決めたことだから…』と言って済ましているわけにはいかない」と語る片山知事

かたやま・よしひろ 52年、岡山県瀬戸町生まれ。東京大学法学部卒。74年に旧自治省に入り、鳥取県財政課長、同総務部長、旧自治省府県税課長などを経て、99年4月鳥取県知事に初当選。妻弘子さんとの間に四男二女がいる。

片山知事の注目発言
(記者会見から)

 強制退去は役人のその場しのぎ。それを政治家が追認したとは情けない(2001年5月7日、朝鮮民主主義人民共和国の金正日総書記の長男とみられる男性の国外退去処分について)。

 国が官僚主義から抜け出せないでいる時、地方が先行して改革を試みてきた。短絡的な交付税改革により足を引っ張り、改革のエネルギーを押しつぶさないでほしい(5月28日、和歌山県知事と共同で地方交付税減額反対アピールを出したことについて)。

 意義を感じない。代理も行くなと言ってある。悠長で時間つぶしの面がなきにしもあらずだ。必要があれば、その都度集まればいい。脱退しようと思う(7月9日、中四国九県の知事が集まる「中四国サミット」について)。

 東京へ行きにくくする税制を導入するのなら、全国的な会議は大阪や名古屋で開いてもらうよう全国知事会に働きかけたい。この際、首都移転の問題なんかも議論したらいい(11月5日、東京都のホテル宿泊税導入について)。

 狂牛病に関する厚生労働省の第1次検査結果の非公表方針はお粗末だ。検査で疑陽性が出たら食肉処理場は一時的に閉鎖するのに、何も公表しないのは頭隠してしり隠さずだ(11月18日、狂牛病1次検査結果について)。

 日本の国益を損ねる非常にぶざまな事件。外務省のぬるま湯的な体質が今回の結果を招いた。徹底して点検し、ただすのが小泉内閣の役目であり、ピントのずれたことばかりするのは改めてもらいたい(02年5月13日、中国瀋陽の亡命者連行事件について)。

 


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