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2003/08/03
金型産業の将来 オギハラ社長 佐伯 俊秀氏に聞く

避けて通れぬ国際化

 自動車やパソコンなど工業製品の製造に不可欠な金型。日本の金型は世界一の技術力と生産量だが、最近は海外移転に伴う空洞化や韓国、中国、台湾などの追い上げ、価格低下などで揺れている。日本のモノづくりを支えてきた金型産業の将来はどうなるのか―。マツダと米フォード・モーターのタイ合弁生産会社社長から今年三月、自動車用金型の世界最大手、オギハラ(群馬県太田市)社長に就任した佐伯俊秀氏(60)に聞いた。

(編集委員・宮田俊範)

 ■技術力で優位性を保つ 中国でのビジネスに活路

 ―金型産業は国内の空洞化が進んでいます。

 車の生産が米国や欧州など世界の消費地へ移る中、それを支える金型も当然、その流れに沿って動かざるを得ない。私が赴任していたタイはピックアップトラックでは世界の生産拠点に育ち、部品メーカーの現地進出で今や90%近い部品が現地調達できる。自動車メーカーからは金型も現地で作ってくれないか、と要請されて、わが社のタイ工場は忙しくなった。

 一方で車の国内生産が減り、どの会社も国内の雇用維持は厳しい。国内と海外という二律背反的な動きの中で、私も解のない数式を解くような経営が求められている。

 ▽アジアと競争

 ―韓国や台湾の追い上げも急ピッチですね。

 私は三十年前、マツダと提携していた韓国の起亜自動車が初めてエンジンを国産化する時に指導し、技術者を日本に派遣するから教育してくれないか、と頼まれた経験がある。そうやって韓国の技術水準がだんだんと上がった。日本が戦後、欧米に追いつけ追い越せとやってきたのと同じだ。

 ―日本の国際競争力の現状はどうですか。

 車に百種類の金型が必要としたら、複雑な形状のドアやボンネットなど五十種類ぐらいの金型はまだ日本で生産した方がいい。でも、残る簡単な金型はわざわざ高い労賃の日本で作る必要はない。よく「金型は職人技の世界」と言われるが、われわれは決して自己陶酔せず、冷静に生産効率化やコストダウンを追求することが大切だろう。

 さらには、現在は高度な金型の多くを日本で生産しているが、アジアで優秀な技能を持つ人材が育ち、その構造も変わるだろう。モノづくりの世界では塀を立てて技術流出を防ぎながら、海外からは受注を増やそうとしても無理な話。受注するには技術指導もセットのケースが多いからだ。

 ―日本から中国へ設計図が流出したり、価格低下も激しいですね。

 設計や製造、技能などの知的所有権にかかわる分野については、きちんとビジネスルールで処理することが必要。不用意な図面流出を防ぐためには契約で対応すべきだ。価格破壊では、海外との競争だけでなく、国内の製造設備が過剰なため金型業界が自ら価格競争に走った反省もある。

 ―日本の金型産業が今後目指すべき方向は。

 最近は車体軽量化のためにアルミや高張力鋼板などの新材料が使われ出した。プレスした後に部品がそり返るスプリングバックの解消など、新材料の特性に合わせた設計が求められ、こうした面での先行度を生かさない手はない。加えて自動車メーカーは今、開発時間短縮に力を入れている。それに応じるスピードを持った技術力という優位性の確保も重要だ。

 ▽60歳を転機に

 ―なぜマツダからオギハラへ移ったのですか。

 昨年十二月、あるリクルート会社から大手自動車部品メーカーの社長ポストに興味がないか、と誘われた。私はタイ合弁生産会社で八年働く間に新工場を建てて従業員を雇い、新車の生産を立ち上げて経営を軌道に乗せた。プロジェクトは数年前から安定期に入って完結した上、六十歳という人生の区切りを迎えたこともあって引き受けた。

 ―オギハラは昨年、旧日本長期信用銀行(現新生銀行)の買収で知られる米投資会社リップルウッド・ホールディングスに買収されかけました。

 買収騒ぎがあったのは事実で、それがご破算になって代わりに大和証券SMBCが資本参加した。リップルウッドは全株式の取得を目指したが、大和証券SMBCは創業一族のオーナー的な要素を一部残しながら資本参加するという点で違い、後者に落ち着いた。

 ―マツダや日産自動車など、日本の自動車業界も今や外国人社長が当たり前。外資への抵抗感は薄かったのでは。

 確かに外資だからどうこういう時代ではなくなった。実は、日本の伝統的な産業、技術を外資から守れということで反対があったのではなく、取引先の欧米の自動車メーカーから投資会社に経営のすべてが移ることに対して不安が出た。金型という仕事の性格上、一年以上前から新車生産の重要な部分を任される。万一のトラブルで生産が立ち上がらなかったら大変なことになるからだ。

 ―経営を欧米流に変える企業も増えています。

 わが社もオーナー経営から、私をトップにした少し集団的な性格の経営に変わった。企業の性格にもよるが、現在では自動車や家電など輸出比率が高い企業はグローバル企業になることが求められ、日本的な経営では限界がある。海外では現地の人が経営を引っ張り、本社の経営も連結ベースの決算が重視される中で海外の人材は必要。各社ともスピードの差こそあれ、経営の国際化が進み、英語を道具に使う方向に進まざるを得ない。

 ―オギハラの将来像は。

 従来の顧客に加え、急速に発展する中国の自動車メーカーと発展的なビジネス関係を築くことを目指している。国内と中国、台湾、タイ、メキシコにある金型生産の拠点をうまく組み合わせ、顧客からいかなる品質、価格、納期の要求にも応えられる態勢にする。金型産業の特性として新車導入時に生産がピークを迎え、山谷が激しいが、米国でフォードやダイムラークライスラー、英国でジャガーなどに納めているように、量産車向けのプレス部品の仕事を増やし、生産の山谷の課題を解消したい。


 知的財産の保護必要

 全国一万二千社と言われる金型メーカー。生産額は世界の四割を占め、その頂点に立つオギハラは日米自動車戦争が激しかった一九八〇年代、逆にビッグ3から米国進出を請われるなど、その技術力への評価は高い。

 だが、金型業界では九〇年代から景気低迷に加えて、中国に横流しされた金型図面によって安く製造されて受注が減少。従業員十人以下の零細企業が八割を占めるため、倒産・廃業に追い込まれるケースも増えている。経済産業省も最近、ようやく図面流出防止の働き掛けを始めたところだ。

 図面には金型のノウハウが凝縮され、日本が世界に誇れるソフトである。国際競争の中で金型も海外への生産・技術移転が避けられない時代となったが、知的財産の保護にはもっと官民挙げて取り組む必要がある。

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「技術に決して自己陶酔してはならない」と話す佐伯俊秀氏
さえきとしひで 1965年京都大工学部を卒業し、東洋工業(現マツダ)入社。オートアライアンス・インターナショナル(米国)執行副社長、マツダ物流本部長を歴任し、95年にオートアライアンス・タイランド(タイ)社長。今年3月からオギハラ社長。広島県宮島町出身。

 《オギハラ》1951年創業。本社は群馬県太田市。自動車用金型の世界最大手で、30カ国・地域の自動車メーカー75社と取引する。太田市のほか米国、英国、メキシコ、タイ、中国、台湾に工場がある。単体の従業員は670人で、グループ全体では2830人。売上高は単体で約250億円、連結では約650億円。2006年度に株式公開を予定する。


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