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2003/08/31
保護基本法改正 注目される「団体訴権」 
日本生活協同組合連合会会長 小倉修悟氏に聞く

消費者保護の切り札に

 消費者の権利を明確に位置づけるため、消費者保護基本法の抜本改正が進められている。その柱の一つが消費者団体訴訟制度(団体訴権)。聞きなれない用語だが、権利の実行には不可欠の手段として期待される。改正目標は二〇〇五年。欧州諸国に比べ導入が遅れていた背景と制度の課題について、日本生活協同組合連合会(日本生協連・東京)の小倉修悟会長に聞いた。

(東京支社・村上昭徳)

 ■事業者偏重から転換  生協連 役割大きい

 ―なぜ今、団体訴権ですか。

 消費者の権利を守るためには、消費者が被害に泣き寝入りすることなく、事業者の実効ある改善を求めることが必要だからだ。消費者個人と事業者間には力の差が歴然とある。まして訴訟となると多額の費用がかかるから、しり込みしてしまうのが実情だ。被害が小額だと「このくらいならあきらめるか」となり、結果として事業者の不法行為を放置することにもなる。政府が目指す二十一世紀型の消費者政策には欠かせない。ぜひ実現してほしい。

 ―その団体訴権の資格取得に日本生協連は意欲を持っていますね。

 団体訴権は一定の条件を持つ消費者団体が、消費者被害の予防と拡大を防ぐために被害者個人に代わって、訴訟を起こすことができる制度だ。われわれが進めてきた消費者運動のうえからも歓迎すべきだと思っている。われわれは訴権団体になるだけの資質を持っている。どういう形で参画するかまだ決めていないが、何らかの形で訴権団体として名を連ねることになるだろう。

 欧州 広く導入

 ―団体訴権は欧州各国などで既に広く導入されていますね。

 ドイツや英国、フランスなどでは消費者の当然の権利となっている。アジアでも台湾やタイ、インドなどが実施している。実際に業者側の約款を是正させるなどの効果も上げ、消費者の強い味方になっている。経済大国の日本で今まで導入されていないのが不思議なくらいだ。

 ―なぜ導入が遅れたのでしょうか。

 日本は戦後、欧米諸国に追い付き、追い越せ、と国策で産業を保護してきた。事業者をコントロールする法律はたくさんあったが、一方で消費者の権利は二の次となっていた。二十一世紀は消費者の権利を守っていく法律をつくり、行政をつかさどることがグローバリズムの中で日本の産業を強くしていくことにつながる。消費者はその権利を主張し、自分たちが主体になるという意識を持たなければいけない。

 実績を基準に

 ―訴権団体の認定資格はまだ明確になっていませんね。

 これから政府や消費者関連団体、司法制度改革の一環として団体訴権の導入を提唱している日本弁護士連合会などが意見を交わしながらコンセンサスができていくだろう。また団体が限りなく増えて訴訟の乱発になってもいけない。過去の活動実績とか会員数などは判断基準になるべきだ。個人的には、特定非営利活動法人(NPO法人)の資格を最低必要とするのがいいと考えている。

 ―基準づくりに向けてどう働きかけますか。

 日本生協連は圧力団体ではないので、「われわれは訴権団体にふさわしい」とアピールはしていくが、積極的に提言することは考えていない。

 ―訴権団体には、情報収集や訴訟の費用など財政面の基盤が欠かせません。

 日本生協連は財政面での不安はまったくない。会員組織として盤石な体制だし、活動費、マンパワーには絶対の自信がある。ただ、多額の費用を使うことは組合員や社会に対して責任が発生してくるわけで、何でもかんでも訴訟というわけにはいかない。問題のある事業者にはまず是正を求め、それが駄目なら関係省庁に是正措置を求めていく。訴訟はあくまでも最終手段ととらえている。

 啓発活動に力

 ―日本最大の消費者団体として日本生協連への期待も大きいですね。

 与える影響の大きさからみても、それは十分認識している。モデルケースとなるよう果たす役割は大きい。日本にこの制度を根付かせるためには、消費者全般の啓発活動にも力を入れる必要があるだろう。組織としては組合員向けにパンフレットなどを作成し、消費者政策の在り方や団体訴権の内容などについて今後も広く周知していくつもりだ。


 「自身の問題」意識を

 小倉会長のいうように、先進国日本で団体訴権の導入が遅れているのは不思議といえば不思議。消費者の権利意識と消費者行政の遅れを示す端的な事例といえるだろう。

 制度が実効を上げるには、多様な訴権団体が活発に活動することが不可欠だ。団体資格の認定基準づくりはこれからだが、認定を目指して広島や京都、大阪では消費者団体などがNPO法人を設立するケースも出始めている。

 訴訟には財力も人材も必要である。財政的な基盤がなければ、継続した取り組みは期待できない。ボランティアでまかなうには限界があり、大きな団体しか活動できない可能性もある。

 制度を空洞化させないためには、消費者が自身の問題としてとらえて訴権団体の活動に参画し協力するとともに、訴訟関連情報の提供や資金的助成などの面で行政の役割も重要である。

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「「団体訴権の定着のためには消費者自身が自分たちが主体だという意識を持たないといけない」(東京都渋谷区のコーププラザ)
おぐら・しゅうご 1969年岡山大法文学部卒。灘神戸生協(現コープこうべ)に入り、常務理事、専務理事を経て99年6月に組合長理事、日本生協連理事に就任。03年6月から現職。旧満州(中国東北部)で生まれ倉敷市で育った。59歳。

《21世紀型消費者政策と団体訴権》
 内閣府の国民生活審議会消費者政策部会は今年5月の答申「21世紀型の消費者政策の在り方について」で、1968年5月の施行以来30年たつ消費者保護基本法の抜本改正の必要を打ち出した。消費者を「保護」する対象から「自立した主体」と位置づけ、権利を明確にするのが狙いである。
 その視点から新たに制度として導入を求めたのが内部告発者のための「公益通報者保護制度」とともに団体訴権だ。消費者の被害救済のため、消費者に代わって消費者団体に提訴権を与える。勝訴すれば個人だけでなく、被害者全員が救済される仕組み。保護関連法として01年4月に施行された消費者契約法の改正か独自立法になるかは未定。消費者保護基本法改正とともに05年の実施を目指している。


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