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2003/09/28
自動車需要回復への道  日本自動車工業会会長 宗国 旨英氏に聞く

「環境・安全」で魅力アップ

 日本の自動車生産・販売が今年はともにプラスになりそうだ。とはいえ車自体が成熟市場のうえデフレ下とあって、パイ自体がもう大きく膨らむのは難しいのが実情。今の回復基調を着実に持続するためにはどうすべきか―。二年に一回開かれる世界三大自動車ショーの一つ「東京モーターショー(乗用車・二輪車)」を前に、日本自動車工業会(自工会)の宗国旨英会長に業界としての取り組みを聞いた。

(東京支社・村上昭徳)

 ■重税感軽減へ改善要望

 ―十月二十五日から千葉市の幕張メッセで始まるモーターショーを、主催者としてどうアピールしますか。

 今回は初めて小学生を無料にした。将来のユーザーである彼らに自動車を身近に感じてもらい、業界の努力を知ってほしい。交通安全の要素を盛り込んだヒーローもののアクション劇もある。子どもに限らず、お客さんの視点に立ち、参加型で双方向的なコミュニケーションを実現したい。燃料電池車をはじめ十二台の低公害車を展示し、試乗もできる環境体験ランドなど、車に親しめる数多くのイベントを計画している。ぜひ来場してほしい。

 ―明るさがのぞくとはいえ、自動車需要の伸び悩み傾向は変わらない。業界でみれば激烈な競争が続きますね。

 自動車メーカーとしては常にお客さんのニーズをつかみ、最良の商品を、最良の価格で届けることが責務である。いい意味で競争することで商品レベルを上げてきた。原点はモノづくり。お客さまの利益とは何かをまず考えたモノづりくりこそが、われわれが目指すべきところだ。

 ―自工会は自動車関連税制の改正を政府へ要望しています。業界として需要回復対策にもつながるとの狙いですか。

 自動車ユーザーは重税感を抱いている。だから自工会はユーザーサイドに立ち、お客さんの利益になるとみて毎年、税制改正に関する要望書を政府に出している。本年度の急務は、本年度末で期限切れになるグリーン税制の再延長だ。当初の二年の期限の延長が決まる前の昨年度末、グリーン税制対象車の駆け込み需要と思われる現象があった。ユーザーの利益が需要に影響するという実例だろう。

 ―政府予算の道路特定財源の転用について厳しく反対していますね。

 最近の公共投資の抑制で道路投資が減り、収支の大きなギャップができている。そこで道路特定財源を道路整備以外の用途に使おうというのが財政当局だ。それは税の目的を外れた使途の拡大になり、おかしい。

 道路特定財源に充てられる自動車取得、重量税などはあくまで道路整備のためのもので、自動車ユーザーもそう思っている。しかも過去何度となく増税している。余ったらまずは返還して過重な税負担を軽減すべきでないか。減税できないのなら、グリーン税制の財源や酸化触媒への助成金などでユーザーに還元されるシステムを構築すべきだ。


 ■高付加価値車 コスト低減課題に
 
 ―燃料電池車に象徴される環境対策車の実用化は、まだ途上のように見えますが。

 われわれは今、環境負荷の少ない低公害車の開発普及に全力を尽くしている。既にメーカーの大半が技術的、商品体系にもそういったニーズに対応できる体制を取っている。ただ、まだコスト面で量販車への投入は難しい。国策として低公害車の普及を広く国民に呼び掛けるとともに、積極的に税制上の優遇措置などインセンティブ策を導入してほしい。われわれメーカーの努力では普及に限界がある。

 ―衝突回避など車両の安全対策も競争条件になってきましたね。

 車両の安全レベルでは日本メーカーのレベルは相当進んでいる。いろいろな安全装備や装置も情報技術(IT)の進展で急速に進歩している。世界初の追突軽減ブレーキを搭載した車種も出てきた。最近は車と人間がぶつかったときに、車側の工夫で人間側の損傷を少なくする歩行者保護という考え方が広がっている。この研究開発は欧州がリードしている。車両安全対策は自動車メーカーにとって最重要課題の一つ。さらに高度化しなければならない。

 ―京都議定書による地球温暖化ガスの削減にはどう取り組みますか。

 自動車業界として、環境問題への取り組みは特に力を入れているつもりだ。国が定めた二〇一〇年の燃費基準はほとんどでクリアしている。だが、いくら環境負荷の少ない自動車を造っても、それを使う人間、そしてインフラ整備などの問題も絡んでくる。

 自動車メーカーである以上、地球環境のためにマイカー使用の自粛を、とは言いにくい。自動車自体は大いに使っていただきたい。ただドライバーには急発進、急ブレーキをしない、アイドリングをやめるなど環境に優しい運転をしてくださいとお願いしたい。国には環状道路やバイパス、立体交差点造りなど渋滞緩和のためにインフラの整備を求めたい。どんなにいい車をつくっても最後はそれを使う人間の問題に行き着く。国、メーカー、ユーザーの三位一体の協力が不可欠だ。


究極は燃料電池車 提携さらに加速へ

 自動車ユーザーとして日ごろから重税感を抱いていただけに、自動車関連の税制改正を求める宗国氏の発言にはうなずける。車を買いやすく、また買い替えやすくなることは確かだ。

 ただ需要回復の基本は、魅力ある車をどう適正価格で提供していくかという個別メーカーの努力にかかっている。環境対策と走行安全対策という「環境・安全」はこれから欠かせないセールスポイントになるだろう。

 各社とも燃料電池車の量産車での実用化をゴールに見据えながら、その前段のハイブリッド車の開発・販売で既にしのぎを削っている。宗国氏が会長を務めるホンダは、ITを使った追突軽減ブレーキを搭載した新型車を市場に出し、安全面で一歩先んじた。

 燃料電池車では世界のメーカーが多様な提携関係を結ぶ。ハイブリッド車ではライバルのトヨタ自動車と日産自動車が提携した。付加価値の高い車造りに向けて、メーカーの提携関係は一段と加速するだろう。

「自動車の環境問題改善には国、メーカー、ユーザーの三位一体の協力が不可欠だ」(東京都内)
むねくに・よしひで 1961年法政大経済学部卒。66年本田技研工業入社。米国法人アメリカンホンダモーター副社長、ホンダ取締役、常務、専務、副社長を経て97年6月から会長。2002年5月、ホンダ出身者で初めて自工会会長に就任した。庄原市出身。65歳。
《日本の自動車生産販売の概況》日本自動車工業会によると、2002年の軽自動車を含む四輪車販売台数は579万2093台で、前年比1・9%減と2年連続でダウン。生産台数は米国向けなどの輸出が好調で1025万7318台で前年比4・9%増と2年ぶりに増加した。

 03年の販売台数は585万台の微増を予想。1―6月実績は302万3840台で前年同期比1・4%増と、通年で3年ぶりの増加に転じる見通し。1―6月の生産台数は513万4903台で前年比1・6%増。米国向けの輸出は減速気味だが、他域がカバーし、通年では2年連続のプラスが確実とみられる。

 02年の各国別販売台数は、米国が1713万8652台でトップ。日本は2位。次いでドイツ352万3465台、中国324万8058台と続く。03年は中国が世界の3大市場になる勢いだ。

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