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2003/10/12
JR西日本 新幹線ダイヤ改正  垣内剛社長に聞く

頻度高め「空」に対抗

 東海道新幹線品川駅(東京)開業を機にJR西日本は一日から、山陽新幹線のダイヤを改正した。のぞみの値下げや大増発など、改正は一九七五年の山陽新幹線全通以来、最大規模。今年四月、JR西日本のトップとなった垣内剛社長(59)に、改正の意義や、中国地方を中心にしたローカル線の将来の在り方などを聞いた。

(編集委員・山本浩司)

 ■観光客誘致■ 停車地の魅力を発掘

 ―今回の改正は、どんな意味を持つのでしょうか。

 「第二の創業」とJR東海が表現しているが、わが社にとっても画期的なものだ。これまでに実施してきた、さまざまな取り組みの集大成といえる。われわれとしては、これをきっかけに大いなる挑戦をするつもりだ。

 ―それは、航空機を意識したものでしょうか。

 当然だ。のぞみを増発し、停車駅(姫路、福山、徳山、新山口の各駅)を増やして、のぞみのフリーケンシー(頻度)を高めたことで、対首都圏輸送で航空機に対して立ち遅れていた地域、例えば福山や新山口で競争できるようになった。

 ―ひかりを減らし、のぞみを増やしたのは対首都圏輸送改善が主な目的だったのですか。

 もちろん、西日本管内も視野にいれている。新大阪―博多間に、ひかりレールスターを投入して以降、速達性と快適性がお客さまに受け入れられた。半面、従来のひかりの需要が低下していた。そのひかりをのぞみにし、自由席を新設することで管内の新幹線は、すべてレールスター的な位置付けを実現できた。

 ―どのような利点があるのでしょうか。

 まずフリーケンシーでは、鉄道が航空機と同じレベルであれば、勝負にならない。改正では、例えば広島―羽田間の航空便が十八往復に対し、JRは東京行き上下六十一本と圧倒的に多くなった。岡山でも同様だ。最大限にアピールしていく。

 ―価格面では、どうでしょうか。

 二地点間移動で弾力的な運賃体系を持つ航空便に対し、鉄道は多くのお客さまが途中で乗り降りするという特性があり、やりにくい現実がある。しかし、のぞみ料金の値下げ、自由席新設、首都圏間を往復する「のぞみ早特きっぷ」導入などで、対抗できるものになったと思っている。

 ―航空各社は、回数券の値下げやマイレージのポイントアップなど対抗策を打ち出しています。

 値段は下げればいいものではない。競争するところはするし、お客さまからいただくべきものはいただく。航空路線のなかには、乗客が増えても見合ったもうけが出ていないものもあると聞く。現状をしっかり把握して対応する必要がある。とにかく、空の便に対して年々シェアを落としてきたわれわれとしては、現状を座して見ているわけにはいかない。それが今回の改正の大きなポイントだ。

 ―改正に併せて、首都圏からJR西日本管内への観光客誘致キャンペーンを始めています。そのきっかけは。

 日本観光協会の調査やインターネットのモニター調査で、東京圏発の宿泊旅行の目的地、今後一年間で行きたい旅行先として、中国地方はともに1%台と全国最低だったことだ。

 ―何が要因でしょうか。

 国鉄の分割民営化の影響もある。JR東日本は新幹線が開業した東北地方へ、JR東海は京都方面へ、それぞれ観光客を誘致するキャンペーンを首都圏で実施した。これに航空各社の北海道、九州、沖縄キャンペーンがあいまって、中国地方の知名度が低くなってしまったのではないか。

 ―どんなキャンペーンになるのですか。

 中国地方の見どころを題材にしたテレビコマーシャルの放映や、旅行会社とタイアップして中国地方へ観光客を誘う旅行商品の開発もする。キャンペーンソングは、二十五年前の「ディスカバー ジャパン」キャンペーンでヒットした「いい日旅立ち」の歌詞を西日本をイメージしたものにリメークし、当時を知る世代と若い世代両方に注目してもらう。

 ―のぞみが新停車する地域を中心に、中国地方の多くの地域も観光客誘致に乗り出しています。

 ―地元の訪問団が首都圏や関西地区でキャンペーンをするのもいいけれど、人を呼ぶための地域を挙げた仕掛けが重要だろう。観光施設を造るだけでは観光客はこない。施設と味覚、伝統の祭りなどを組み合わせて「良い商品」を開発。旅行会社や、われわれ鉄道会社とも連携を深めることが大切だ。

 ―関門・海峡物語と、かにカニエクスプレスは成功例ですね。

 フグもカニも、当初は現地の旅館などから、こんな安い料金は無理だといわれた。その中で、宿泊客がいない昼間の時間の活用を思い付き実現させた。結果として、利用者に低料金、旅館に収入、JRに乗客アップをもたらした。二つの事例から、われわれも多くを学んだ。これからは中国地方に観光客を呼び込む「着地開発型営業」に乗り出す。

 ■ローカル線■ 存続基本に効率化

 ―ローカル線では、十一月末に可部線の可部―三段峡間が廃止されます。中国地方を含めたローカル線の今後は。

 ローカル線は、わが社にとって重要な課題だ。分割民営化の経緯や鉄道ネットワークの観点からは、存続させるのが基本だ。しかし、赤字を放置していいというものでもない。できるだけ効率化し、さらに知恵を絞っていく。

 ―どんな知恵を絞っていくのですか。知恵を絞ってもだめなら廃止もありうるのですか。また、廃止決定には可部線のように「行き止まり線」であるかどうかが、重要な要素になるのですか。

 吉備線(岡山県)と富山港線(富山県)で検討している路面電車化は、その例だ。そのうえでなお環境の変化などで、鉄道の特性が発揮できず、代替輸送機関がより効率的と判断すれば廃止の提案もありうる。また、行き止まり線か否かは一つの判断要素ではあるが、それがすべてを決めるものではない。ただ、現時点で廃止を検討している線区はないことだけは強調させていただきたい。


 沿線も努力問われる

 近距離はマイカーと私鉄、中距離はハイウエーバス、長距離は航空機。JR西日本は、すべての面で強力なライバルを持つ。半面、ライバルに囲まれた環境のなか知恵を絞って完成させた関西圏のアーバンネットワークや、ひかりレールスター、広島シティネットワークの成功は、「良い物を造れば、選択してもらえる」という自信を生んでいるのも事実だ。

 利用者が増えなければ値下げ分だけ確実に収入を失う今回の新幹線ダイヤ改正は、大きな賭けだ。一方で、山陽新幹線沿線の各自治体や経済団体などは、改正をどれだけ真剣に受け止めるか判断を迫られている。

 改正効果があるいまこそ、観光産業の将来の姿を見据えた実のある取り組みをしないかぎり、同様に「安くて近くなった」他の観光地に、観光客を奪われるのは目に見えている。

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「厳しい環境だからこそ、お客さまサービスなどの面でJR6社のなかでも敏感だと自負している」
かきうち・たけし 1969年、東京大学法学部卒。同年旧国鉄に入り、四国総局総務部長、総裁室調査役兼広報部次長などを歴任。87年、分割民営化でJR西日本へ。財務部長時代には株式上場に向け実務を指揮。93年、取締役。常務、副社長を経て、今年4月から社長。大阪府出身。

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