100年超す運動 男女平等支える
男女共同参画の先進国として知られるノルウェーから、男女平等法を監視する「男女平等オンブッド」のクリスティン・ミーレさん(47)が十月末に来日し、大阪府豊中市や福井県武生市で講演した。男女平等専門のオンブズマン制度を導入したのは、ノルウェーが世界初。「男女平等大国」への道を、どのように築いてきたのか、ミーレさんに聞いた。
(編集委員・山内雅弥)
企業役員 割り当て制も 男性の育休延長を審議中
―男女平等オンブッドという言葉は、あまり耳慣れません。
男女平等法を順守させるのが第一の仕事。性差別を受けた人が訴えてきた苦情を、男女平等法に照らして調査し、解決を図っています。文書による苦情だけで年間四百―五百件。昇進や登用をはじめ賃金格差、セクシャルハラスメント(性的嫌がらせ)など、さまざまな相談が寄せられます。
もう一つは、会議やメディアに出て発言したり、制度が新しくできたり変わる時に、男女平等の視点にのっとっているかどうかの意見を公にすること。男女平等法を社会のすみずみまで知らせる「広告塔」の役割も担っています。
政策チェック
―政府が決めた政策についても、独自にチェックできると?
できるというより、やらなければいけない仕事なのです。各省は新しい制度や政策を制定する時に、私のところに書面で案を寄せてきます。それに対し、男女平等法に沿っているかどうかコメントをします。強制力はありませんが、オンブッドの意見は尊重されます。
二〇〇二年の男女平等法改正の際に、オンブッドの提案が大きな役割を果たしただけでなく、違った分野の制度でも女性に差別的なものがあればその都度、変更させてきました。妊娠休暇の賃金が他の病気休暇より不利になっていたので、実際に変えさせたことも、成果の一つに挙げられるでしょう。
政党でも努力
―ノルウェーの男女平等は、世界でもトップクラスといわれます。カギは何ですか。
一言でいえば、百年以上の長い間にわたる女性の解放を求める運動が、はぐくんだといえるでしょう。十九世紀後半に女性の選挙権を求める運動があり、一九六〇年代末から七〇年代初めにかけて、女性の賃金や働く上での平等を求めて闘った女性解放運動が、世界同時的に広がりました。そうした勢いの中で女性議員が国会や地方議会に増えたことにより、七九年に男女平等法が施行され、男女平等の法的根拠ができました。
ただ、それで終わったわけではなく、八〇年代も九〇年代も絶え間なく、男女平等を求めることにエネルギーを集中してきました。それぞれの政党内でも、女性党員が中心になって、男女平等の政策を推し進める運動が続けられた結果、現在ではどの政党も「男女平等が不可欠」という点では一致しています。
―公的な政策決定への女性の参加と、男性の家事参加を同時に進めたことが、男女平等を実現させる大きな力になったと聞きます。
男女平等法では、公的に任命されるすべての審議会、委員会などは、一方の性が40%以上いなければならないと明文化されています。クオータ制(割り当て制)と呼ばれているものです。女性だけでもよくありません。
父親の育児参加ではパパ・クオータ制といわれる制度があります。両親が取れる五十二週間の育児休業のうち、四週間は父親のみに与えられてる権利で、母親が代行することはできません。実業界の高い地位の人や政治家をはじめ、80%以上の父親が育児休業を取っています。もっと男性に育児・家事に参加してもらうため、四週間を十週間に延ばす法改正が国会で審議されており、成立する見込みです。
残る地位格差
―これからの課題は。
ノルウェーの女性は多くの職場に参入していますが、職場における地位は依然、男性と大きな差があります。トップに占める女性の割合は民間企業で6―7%、公務員でも20―25%どまり。昨年三月、政府が「企業が二〇〇五年末までに、女性取締役を40%以上に増やすクオータ制を自主的に導入しないなら、法律で明文化する」と発表しました。この新しい法律が、経済界における女性の地位を向上させることを期待しています。
ごく最近の話でいえば、ノルウェー最大の石油会社スタットオイルの経営最高責任者(男性)が辞めることになりました。私はテレビ番組で、「今度は女性にすべきだ」と主張しました。一緒に出演したヘッドハンティング会社代表も、同じ意見でした。これを報道した新聞の反応も好意的でした。現在、後任の人選中ですが、国民の多くが「次のトップは女性にすべき」という流れになっています。
―日本は今、衆院選たけなわです。解散時、女性議員の割合はわずか8%でした。
ノルウェーでは、女性が10%以下というのは何十年も前のことです。私たちの国が男女平等の国といわれるのは、政界で多くの女性が活躍しているからです。現政権の閣僚は女性八人、男性十一人。女性の占める割合は42%に上っています。国会議員の37%は女性が占めています。県議会は43%、市町村議会も35%が女性になりました。
―なぜ、大勢の女性が政界に進出しているのでしょうか。
選挙で選ばれる公的ポストには法的なクオータ制は適用されません。法律ではない別のメカニズムが働いているからです。なかでも、それぞれの政党における女性議員を増やす努力、女性団体からの圧力、そして「女性を当選させよう」という女性の選挙キャンペーンが特筆されます。
主要政党は綱領にクオータ制を明記しており、党内の決定機関の40%以上は女性でなければならず、候補者名簿も順位は男女交互です。八六年以来、政権が代わっても、大臣の40%以上を女性とする慣行が守られています。こうした自主的な取り決めが重要な役割を果たし、男女平等の推進に大きな効果を挙げていることは間違いありません。
まず女性議員増やそう 社会参画の指標少子化対策にも
「まず、女性を一人でも多く議員に当選させることに尽きます」。ノルウェー男女平等オンブッドのクリスティン・ミーレさんに、男女共同参画社会を実現する手だてを問うたら、即座にこんな答えが返ってきた。
人口の半分を占める女性の議員比率が、一割にも満たない日本の国会や地方議会の現状は、女性の政治参画が進んでいる欧米諸国からみると、極めて奇異に映るようだ。
ノルウェーでも、女性の政治進出への道は、決して平たんだったわけではない。
各政党の候補者名簿を書き換えることができる有権者の権利を行使して、女性たちが立ち上がったのが七〇年代。名簿上位にあった男性の名前を消し、女性の名前を書き入れる大キャンペーンを党派を超えて展開した結果、飛躍的に女性議員が増えた。
仕事と子育てと並んで、政治活動ができるということは、若い男性や女性が重要な社会活動に参画できることを意味する―というミーレさんの指摘は鋭い。
それと同時に、一・七五という高い出生率(日本は一・三二)も、長い出産・育児休暇によって、子育てと仕事の両立が可能になった結果といえよう。デンマークなど他の北欧諸国でも出生率が上昇している。
日本でもこのところ、少子化をめぐる論議が盛んだ。保育サービスや児童手当の増額だけが、対策ではない。一見、遠回りのようだが、男女平等の推進こそが、少子化に歯止めを掛ける道なのではあるまいか。
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