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2003/12/14
法科大学院 来年4月開設 広島・島根大の設立準備委員長に聞く
広島大法学部 田辺誠教授・島根大法文学部 三宅孝之教授

 弁護士、検事、裁判官の法曹志望者が学ぶ法科大学院(ロースクール)が、来年四月に誕生する。社会の著しい変化に対応しようとする国の司法制度改革を受け、専門的な知識に加え、国際的視野なども備えた人材の育成を目指す。全国で六十六校、中国地方では四校が認可された。広島大法学部の田辺誠教授(48)と、島根大法文学部の三宅孝之教授(57)に、新しい専門職大学院の教育内容や目標を聞いた。地域の将来にも影響を持つからだ。ともに学内の設立準備委員長を務め、大学院で指導に当たる。
(編集委員・西本雅実)


 広島大法学部 田辺誠教授

 市民の「隣人」育てる/指導方法改革 人材の質重視

 ―広島大法科大学院が目指す人材の育成とは。

 よき隣人たる法律家の養成です。ロースクール大国でもある米国では、一般の人からみれば法知識を悪用する、金もうけに走るイメージがなきにしもあらず。倫理観、庶民感覚も持った人材を育て、社会の要請に応えていく。大都市に事務所を構える渉外弁護士のような派手さはなくても、地域の企業や住民の相談、紛争を手堅く処理する。市民感覚が分かるリーガル(法律)・サービスに努める人を送り出していきたい。

 ―入学者の目標は、三年コース(法学既卒者と認定された場合は二年に短縮)を修了し、二〇〇六年に導入される新司法試験の合格です。どんな指導を。

 定員六十人に対し、個別指導に近いきめ細かな体制を敷きます。文部科学省は入学者選抜に際して、法学部以外の出身者や社会人を三割は採るよう求めており、学生層は年齢をはじめ多様な人々となります。個々に指導教員を決めて勉強方法をアドバイスし、補修も考えています。

 ―カリキュラムは。

 学生さんは、東千田キャンパス(広島市中区)で、月曜から金曜日まで六十分授業を一日平均二から三科目受けます。自習室でも、受講する科目の前後で少なくとも一時間の予習・復習をしなくてはついていけないでしょう。教員は目標への手助けはしますが、本人の自助努力であるのはいうまでもありません。

 ―合格者は、東京や京都にある常連五校の出身者が今年も千百七十人の61%を占め、その法科大学院の定員は二百人から三百人。また今は合格者の大半が司法試験予備校でも学んでいます。実績やノウハウに乏しい地方の法科大学院は、伝統校にごしていけますか。

 広島大でいえば、今年は(中国地方では最高の)六人、うち四年生が一人いました。上位校と比べればわずかであっても年々増えてはいる。同時にこれまでの指導を反省し、予備校の協力は求めませんがいいところは取り入れる。勉強会を毎週開いて、教育方法を洗い直しています。

 ―合格率は公表され、文科省の第三者評価機関の評価基準にも組み込まれそうです。目算はどうですか。

 合格者の枠が三千人に拡大される一〇年ごろの合格率と見込まれる七―八割は、少なくとも達成しなければと思っています。ただ、合格率だけで競いたくはない。新しい問題にも対応できる応用力のある質の高い人材を育てるのが、あくまでわれわれの目標です。

 ―法科大学院が地域にある、それが強くなることはどんなメリットが。

 さまざまな問題を法的に議論し、処理する意識、土壌ができて来る。法曹が身近にあることで取り上げられるべき問題が泣き寝入りとならず、きちんと解決されていく。また、知的財産権をはじめ法律が意見を求められる新しい分野は広がっています。法科大学院のリーガル・サービスとして早い時期に無料相談を始めます。学生さんの実務教育にもなるからです。


 島根大法文学部 三宅孝之教授

 山陰に根差して貢献/「過疎」解消へ入学者と挑む


 ―定員三十人と全国最少規模の法科大学院です。

 経済界からは六十人をという要望もありましたが、教員スタッフを確保し、合格者を出していくため、この数に落ち着きました。山陰法科大学院設置促進期成同盟の丸盤根会長(山陰合同銀行会長)が端的におっしゃったように「小さく生んで、大きく育てよう」の考えで臨みたい。

 ―志願者の募集PRに山陰法科大学院の名称も充てているのは。

 設置に向け、私たち法学科の教員は、島根、鳥取両県の弁護士会と三者協議会をつくり、三十二回の議論を重ねてきました。山口県の一部にもまたがる山陰地方の法科大学院をつくろうとの思いからです。開校後も、この名称を誇りを持って使っていきます。

 ―では、どんな教育を。

 理念は、地域に深く根差し、また国際社会で活躍できる法曹です。山陰は先駆的に高齢化が進み、土地問題など法的トラブルが少なくない。しかし名望家に処理を頼んだりして、結局は納得していない。こういう点を法律家が入って問題を解決していく。日弁連が協力して二〇〇〇年に公設事務所ができた浜田地域で、法律相談が一挙に増えたのがいい例です。地域が必要とする人材を育てる。二点目の柱は、地元の企業で進む中国や韓国、オーストラリアとの国際取引に強い法曹ということです。

 ―島根県弁護士会が四月にまとめた「県地域司法計画」は、弁護士(現在二十六人)が最低六十人に増えれば、法律相談をはじめ被疑者段階からの国選弁護人活動も充実して行える、としています。悲願である法曹過疎の解消に向け、どんな手だてを。

 設立の根幹にかわる問題だと受け止めています。医学部を例にとれば、出雲市に島根大医学部(島根医科大が十月に統合)、米子市に鳥取大医学部があり、地元に定着する医師が自然に増えてきた。私たちは、地元に法曹養成の機関ができることで、そのような波及効果が生まれると考えています。

 授業内容では地元に密着した教材、事例を組み込みます。エクスターンシップ(法律事務所など外部での研修)は地元の問題に触れ、経験を積む。「地域と法」という独自の科目を設け、フィールド的な調査もします。三年間の教育・生活費は全国的な奨学金のほかに低利のローンを提供し、安心して勉強してもらう。就職の受け皿も、弁護士会として現在の単独から複数の事務所運営を進めていく計画となっています。

 ―それには新司法試験への合格が前提となります。

 教員は正直、学生に法曹資格を取らせた経験はほとんどありません。合格率が低調であれば、第三者評価機関の評価いかんで定員削減どころか、つぶれる可能性がある。高度な職業人を養成すると地域に宣言した以上、責任があります。地元に質の高い教育機関があれば、高校生らも希望を持って勉強できる。厳しい道は覚悟のうえで、入学者と一緒に挑戦していきます。


視角

  地方に存在する重み 合格枠超す定員 厳しい壁

 今、なぜ日本版ロースクール、法科大学院なのか。政府の司法制度審議会は、今後の法曹養成教育は「法学教育・司法試験・司法修習を有機的に連携させた」制度への転換を掲げる。

図「中国地方の法科大学院」  平たくいえば、難関の司法試験(今年の合格率は2・8%)を突破するために、合格者の大半が予備校を利用して過度の暗記や受験テクニックを磨く現状の改革である。経団連を中心に、国際的な競争に勝ち抜く新たな人材養成と法曹人口の増大要請があった。複雑かつ国際化するビジネスでの法務や、訴訟の増加に対応するためでもある。
 市民に身近なはずの弁護士は、「社会生活上の医師」と位置づけられている。とはいえ、実際は敷居が高い感がぬぐえない。日弁連元副会長で、広島弁護士会の法科大学院設立・運営検討委員長を務める倉田治弁護士(62)はこう説く。
 「弁護士が増えればもっと利用しやすくなる。法のルールにのっとって争いが解決されるのは、安心して住める社会につながる」
 法科大学院は、地域の健全な発展を促す教育機関ともいえる。しかし、十一月に認可された六十六校の三分の一が東京に集まり、一校もない空白県は山口、鳥取など二十四県。このままでは、「社会生活上の医師」の大都市圏への偏在がさらに進みそうだ。
 それだけに中国地方で開設される四校の存在は重みがある。各自治体や経済界も設立に向けて後押し。地元の弁護士会は、実務家教員を送り出し、エクスターンシップ(法律事務所での研修)やリーガル・クリニック(法律相談の研修)にも協力する。
 地元の問題に触れ、絆(きずな)が深まれば、三宅教授がみるように定着する人が増え、空白県の山口や鳥取で活動する人も現れるだろう。中国地方で最大の広島弁護士会(二百七十九人)も、県北の法曹は薄い。
 法科大学院の修了者は、新司法試験の受験資格(五年間に三回まで)を得るが、合格は保証されてはいない。六十六校の入学総定員だけで五千四百三十人を数え、司法制度審議会が合格枠の拡大で一〇年ごろまでに見込む三千人と比べても大幅な超過にある。
 各校は少人数による教育の中身と結果が、第三者評価機関の適格認定(評価)を受ける。法学系を擁する大学が、少子化の中で学部学生の集めを狙って乱立となった分、「退場」を迫られる大学院も出ると、関係者は一様にみている。
 学生の立場からすれば、年間授業料は広島、島根、岡山大は七十八万円(他の大学院は五十二万八百円)、修道大は百四十五万円と経済的な負担は大きい。各校は、成績上位者の授業料を免除したり、独自の奨学金を給付するものの、働きながら修了するのは難しい。
 いわば、学生は人生を、大学は生き残りをかけ、また地域の浮沈を担う法科大学院の試験は、中国地方では来年一月二十四日から順次始まる。

たなべまこと 京都大大学院博士課程単位取得退学。86年に広島大助教授となり95年現職。専門は民事訴訟法。司法試験第二次試験考査委員を務める。大阪市出身。     
 
 
みやけたかゆき 同志社大大学院法学研究科修了。沖縄国際大を経て91年に現職。専門は刑事法学。英国の刑法を研究する。下関市出身。

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