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2003/12/21
「三位一体」改革が始動
 前全国町村会副会長(広島県高宮町長)児玉更太郎氏に聞く

乏しい自治拡充の視点

 国から地方への補助金削減と税財源移譲、交付税抑制を進める「三位一体」改革が政府の二〇〇四年度予算案に盛り込まれ、地方財政構造の抜本的見直しが動き始めた。「地方ができることは地方に任す」という小泉純一郎首相の方針に沿った約一兆円の補助金廃止や所得税の暫定移譲は、地方にとって一歩前進。半面、地方財政規模はますます縮小され、借金苦の自治体から悲鳴も漏れる。児玉更太郎・前全国町村会副会長(広島県高宮町長)に、地方改革の評価と展望を聞いた。

(編集委員・小野浩二)

 財政再建策が先行 基幹税移譲は評価

 ―来年度予算編成を通じて「三位一体」改革が動き始めました。全般的に、どう評価しますか。

 長年、地方行政にかかわってきた者としては、国が約一兆円の補助金削減を認めたことに少々、驚いた。補助金は霞が関の中央官庁が地方をコントロールする手段として使われてきた。全国町村会の中でも「国がそう簡単に手放すはずはない」「どうせまた先送りだろう」などという見方が一般的だったからだ。

 1兆円減英断

 ―補助金の約一兆円削減を決断した小泉首相の指導力を評価するということですか。

 補助金に関してはその通りだ。政府は今夏、経済財政諮問会議での「三位一体」論議を受け、〇六年度までに約四兆円の補助金を削減する方針を決めた。しかし、その時点で全国町村会の受け止めは、〇四度予算での本格的な補助金削減に半信半疑だった。小泉首相が十一月に約一兆円の削減を指示したのは、地方からみれば英断だ。一方の霞が関は、相当なショックだったのではないか。

 ―補助金削減と連動した税財源移譲についてはどうですか。

 約一兆円の補助金削減に対し、税財源移譲は約四千二百億円という規模については異論もある。しかし、これも地方が要望した基幹税に踏み込んだ点は評価できる。政府や自民党の税制調査会は当初、先細りの懸念があるたばこ税を提示した。これは経済財政諮問会議の「骨太の方針」第三弾にある「所得税や消費税などの基幹税」という方針に対し、約束違反だ。

 ―全国知事会など地方六団体は反対の意見書を出しました。

 そうした地方の声を反映し、政府は予算編成作業の大詰めで、たばこ税から所得税の一部の暫定移譲に切り替え「所得譲与税」の創設を決めた。来夏の参院選を控え、片山虎之助前総務相ら地方の実態を知っている政治家の巻き返しが功を奏した面もある。ただ、地方が切望している消費税の移譲は先送りするなど、不満も残る。

 ―小泉首相は消費税率について「自分の在任中は上げない」と繰り返し公言しています。

 選挙で選ばれる立場の人間として「増税」を口にしたくない気持ちは分かる。しかし、「自分の在任中は」という首相の言葉は責任逃れのように聞こえる。公共事業カットや公務員削減でいくら歳出を抑えても、年金や介護、健康保険など、削ろうにも削れない財政需要があり、借金は膨らむ一方だ。国、地方を問わず行財政にかかわる者の大半は、欧米に比べてかなり低い5%の消費税率を続けるのは難しいと分かっている。

 交付税を抑制

 ―「三位一体」改革が目指す地方の将来像をどうみますか。

 二〇〇〇年四月の地方分権一括法施行で地方は「自主・自立」を目指すことになった。二十一世紀の自治の理念としては結構だが、問題は国と地方が大借金を抱え、実態として財政再建の方策が先行している点だ。「三位一体」の一つの交付税は、財源保障と格差是正という役目があるのに、三年前から一方的にカット。高宮町は約十八億円から約十六億円に削られ、予算配分で裁量の余地は少なくなった。

 ―国は交付税を「アメとムチ」に使い、市町村合併を進めています。

 合併も「財政再建」の側面が強く、「自治の拡充」の視点が乏しいのは残念なことだ。高宮町も来年三月一日に近隣五町と合併し「安芸高田市」になるが、広島市に匹敵するほどの面積に住民は三万四千人。合併で「周辺部」になる地域など、行政サービス低下を懸念する住民は多い。高宮町が町内を八地域に分け取り組んできた振興協議会など住民組織を拡充し、予算や職員配置を含めて住民自治をバックアップする必要がある。

 ―人口減と少子高齢化の時代を迎え、自治の将来像をどう描きますか。

 今夏、ドイツやフランスの自治を視察したが、いずれも「多様な自治」が印象的だった。小さな自治体の議会は日曜日などに開き議員も無報酬だが、活発な議論を交わしている。半面、わが国は「人口一万人以下の町村については権限を縮小する」など画一的な線引きをしようとしているが、いかがなものか。自治の担い手である住民のやる気をどう盛り上げるかがポイントだろう。

 ―道州制論議など相次ぐ地方改革で、地域間競争は激化しそうです。

 地域づくりの知恵を競うのは結構なことだ。しかし、バブル期の第三セクターによるリゾート開発など、背伸びした事業は大半が破たんした。高宮町では温泉施設や民間テーマパークが、身の丈に合った投資と運営で採算ベースに乗っている。むしろ、自治体の最も大切な役目は、心豊かな暮らしと自然を守ることだと思う。


 数合わせなら無意味

 「三位一体」改革の本来の狙いは、財政構造を見直し、地方の「自主・自立」をいかに進めるかという点に尽きる。地方分権一括法による、国から地方への権限移譲と表裏一体の関係である。ところが、市町村合併などを通じ「財政再建」を優先する国の姿勢は、過疎や高齢化に直面する高宮町をはじめ地方の反発を招いてきた。

 とかく「都会重視」といわれる小泉首相だが、それなりに地方に配慮して指導力を発揮した来年度予算編成。閉鎖的な霞が関に風穴を開けた点は評価できる。ただ、問題は交付税抑制に対して児玉氏が指摘した通り、自治体の「裁量権」を拡充する方向の改革が置き去りにされていることだ。数字合わせで国から地方に借金を付け回すようでは、何のための改革か分からない。

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「基幹税移譲に踏み込んだのは評価できるが、地方が自主性を発揮できる財源は少なくなった」と語る児玉氏
 こだま・こうたろう 1934年広島県高宮町生まれ。鳥取大農学部を卒業後、69年から町議3期、うち3年間議長。80年、町長に初当選し、現在6期。99年から県町村会長。2002年8月から1年間、全国町村会副会長。現在は同会監事。

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