バス路線や高速道路との競合で利用者が伸び悩む広島市の新交通システム、アストラムラインは二〇〇三年三月期に累積債務が資本金を上回る債務超過に陥った。利用減少の打開策、JR山陽線との結節問題などを運営会社、広島高速交通(広島市)の中村良三社長に聞いた。
(編集委員・山本浩司)
学生・シルバー世代に照準/「JRと結ぶ駅」全力投球
―沿線と連携 イベント誘致も―
―アストラムラインの経営の現状をどうとらえていますか。
二〇〇三年三月期に、資本金百億円に対して累積債務が百六十二万円上回ったため「倒産会社」だといわれるが、実はアストラムラインは〇二年度の実績で減少したとはいえ、一日平均四万九千六百七十一人、年間千八百十二万人もの利用者がいる。事業的に見ても全国的に優れた公共交通機関だ。その点を多くの人に理解していただきたい。債務超過の原因は別のところにある。
■無利子融資
―それは、銀行への利払いや償却費などのことですか。
それもその一つだ。〇三年決算で見ると、四十六億円の営業収入に対して開業時の建設費の償却費が約十八億円、これに加えて日本政策投資銀行などからの借金の金利が二十一億円もある。これでは、誰のために頑張っているのかわからない。建設費がもう三割安くなっていれば、状況はずいぶん変わっていたと思う。
―それが昨年の広島市の二百五億円の無利子融資の背景なのですか。
当時、日本政策投資銀行の努力で低く抑えられたとはいえ、年4・85%もの金利を負担し続けた。その一方、地下鉄補助金や企業努力によって五百八十四億円あった借入金はこの十年で四百三十八億円まで減らした。高金利部分を一括返済することで、会社の金利負担が通年ベースで十億円軽減できる。同時に市からの利息補助も減るので、会社、市の両者にメリットがある。
―それにしても利用者減少に歯止めがかかりません。
開業以来増え続け二〇〇〇年度五万二千九百九十八人だった一日の利用者は〇一年度五万二千九百十八人、〇二年度四万九千六百七十一人と減少している。沿線のバス路線が「規制緩和」によって市内に直通できるようになったことと、西風新都と市内を結ぶ高速四号線を走るバス路線の誕生だ。こうした厳しい経営環境にあることから、開業当初に比べ、年間八億円の経費削減に努めてきた。
■定期値下げ
―打開策はあるのでしょうか。
利用促進策としては、今年元日から通学定期の値下げに踏み切った。沿線の大学への通学者が毎年、四月の入学時をピークに月を追うごとに少なくなる現象がある。定期を安くすることで、プリペイドカードや普通券からの移行を促進し、収入の安定化を図ることを意図している。次に検討しているのが「シルバー割引」だ。六十五歳以上の人たちの料金を割り引いてどんどんと外出してもらい、利用者増につながればと期待している。
昨年ミュージカル「キャッツ」のロングラン公演が広島市内で行われたが期間中、アストラムラインの月ごとの利用者は一年十カ月ぶりに前年を上回った。二月二十八日から牛田駅前の広島ビッグウェーブで開催される「プリンスアイスワールド広島公演」の自由席入場券を本通、県庁前、大町の各駅窓口で販売する。こうした試みも今後積極的に進め、地域と一体となって沿線へのイベント誘致にも協力したい。
―社長就任会見でJR山陽線との結節問題に触れられ、それがきっかけになり、国、自治体やJR、広島高速交通などによる協議会が立ち上がりました。
会見でもお話しした通り、両者が結節していない現状を誰もが不思議に思っている。本をただせばいろいろあるのだろうが、今後協議を進めるなかで、どのような形での新駅設置が好ましいのか、ベストの道を探っていく。わが社はできるだけの協力をする。広島市の公共交通機関ネットワーク整備のためにも広島電鉄、広島バス、JRの各社が、利用者の立場に立った視点で話し合うことが大切だ。
■街と人刺激
―広島の公共交通機関の在り方について、どう思われますか。
私から見ると、広島は実にコンパクトにしかも効率的にできている街だ。こうした街こそ世界に先駆けて、車ではなく公共交通機関による「歩いて暮らせる街」になるべきなのだ。広島になぜ路面電車が残ったのかを考えるとヒントが見えてくるはずだ。広島は大学の多い都市でもある。大学の持つ能力や施設を広く市民に開放することで、バスを含め利用客増が見込める。市中心部の駐輪場整備が進めば自転車のパークアンドライドも促進される可能性もある。公共交通機関のネットワークを整備し、街と人を刺激することが大切なのだ。この点からも一日も早く新駅を完成させ、広島市の発展に寄与したい。
アストラムラインの歩み |
19987年12月 | 広島高速交通設立 |
89年 2月28日 | 起工 |
94年 8月20日 | 開業 |
97年 4月 1日 | 朝のラッシュ時の運転間隔が3分から2分40秒に |
98年 3月21日 | 朝のラッシュ時の運転間隔が2分40秒から2分30秒に |
99年 3月20日 | 急行便新設 |
2000年 3月19日 | 延べ乗客1億人を突破。同年度、初の営業黒字 |
03年 3月 | 決算で債務超過に |
7月 4日 | 広島市議会が広島高速交通への205億円の無利子貸し付けを可決 |
|