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2004/2/22
「道州制」提唱 石井正弘・岡山県知事に聞く

中四国一体の視点で

 市町村の「平成の大合併」が来年三月の合併特例法期限を節目として一定の方向性を示しつつあるなか、二十一世紀の自治の在り方を探る次のステップとして、都道府県の再編論議が熱気を帯びてきた。連邦制など多様な将来像があるなか、地方制度調査会(諸井虔会長)が昨年十一月の最終答申に盛り込んだ「道州制」と「都道府県合併」の両構想が当面の焦点。同調査会委員で、中四国サミットなどを通じ道州制を提唱している岡山県知事の石井正弘氏に、展望と抱負を聞いた。

(編集委員・小野浩二)

 関西・九州圏へ対抗を

 ―この数年、国の地方財政改革などで自治の姿が激動しています。

 二〇〇〇年の地方分権一括法施行や、〇一年の小泉純一郎政権発足を機に、市町村の「平成の大合併」や地方財政の「三位一体改革」が打ち出されるなど、自治は大きく変わっている。これらに一定の道筋がつけば、次は財政再建を名目にした都道府県再編が焦点になるのは、早い段階から予測できたこと。新年度予算案の交付税大幅削減など、国の財政再建ばかり優先する財務省の姿勢は許しがたいが、地方の側も、今ごろになって慌てて道州制や連邦制の研究を始めているようでは、やや遅いのではないかという感じもする。

 「州都」争いの見方は心外

 ―岡山県が道州制論議で、全国に先駆けているのはなぜですか。

 八年前に旧建設官僚から岡山県知事に転じた当初から、「全国最悪」といわれる膨大な財政赤字に直面し、これをいかに立て直すかに悪戦苦闘し苦悩してきた。結局、旧来の中央集権的な構造を抜本的に変え、国の権限と財源を地方に大幅に移譲しない限り、わが国はやっていけないという結論に達した。岡山では二〇〇〇年に「二十一世紀の地方自治を考える懇談会」を発足させ、〇三年春、中四国地方の九県をまとめた広域自治体「中四国州」が最適との提言を得た。これを基に、中四国サミットや中国地方知事会などで道州制の議論を呼び掛けている。

 ―岡山は州都開設の思惑から「中四国州」を提唱しているのですか。

 道州制論議を呼び掛けたことで広島と岡山の主導権争いという、うがった見方を一部でされるのは心外だ。「州都は岡山へ」などと言ったことは一度もない。州都は交通利便性や情報集中度、経済規模、世界的知名度など多くの要素を総合的に判断して決めるべきだ。むしろ今後、分権が進むと、関西と九州という人口、経済規模とも勝っている東西の両地域との競争を考えると、中四国地方は一体でない限りまるで勝負にならないのが現実ではないか。

 瀬戸内海軸に連携強化を

 ―中四国は、地理的にみて一体感が乏しいとの指摘もあります。

 日本海、瀬戸内海、太平洋の三つの海に面した地域という意味では、貿易などの面で決してハンディばかりではない。なかでも注目したいのは、二ルートの本四架橋がある瀬戸内海。自然環境の保全や国内外からの観光客誘致を考えると、中国側と四国側がもっと広域的に連携ある取り組みをすべきだ、というのは誰もが指摘することだ。

 ―誰がリーダーシップをとって中四国地方の連携を進めますか。

 岡山県知事が隣近所の知事たちに呼び掛けるというのは、同じ自治体の長として限界がある。ただ、中国経済連合会をはじめ、経済界や民間団体などの中には道州制に強い関心を持っている人たちも決して少なくない。全国知事会などを通じて政治家などを巻き込んだ広範な議論を盛り上げるとともに、強力なリーダーシップの担い手を真剣に探したい。

 ―連邦制や都道府県合併という選択肢を、どう評価しますか。

 米国モデルのような連邦制は、自治体に立法権や司法権など、ほとんど国に近い機能を持たせる制度。国の中に国をつくるという側面があり、日本の文化的、歴史的な背景からみてそぐわないと思う。一方の都道府県合併は、青森など北東北三県がそれに向けた取り組みを始めているが、財政再建面のメリットはあるものの、単に自治体の規模が大きくなるだけ。国の権限と財源を地方に移譲し、構造を変えることにつながりにくい。地方にとって大切なのは、独自性を発揮できるような「自立力」をいかに備えるかだと思う。

 法人・消費税を地方税源に

 ―自立と言っても東京都以外、大半の道府県は自前の税収では財源が確保できません。

 分権の最大の課題は、自治体の財源保障の機能を持つ交付税を、今後どう確保し配分するのかという点に尽きる。国はまず基幹税の法人税と消費税を本格的に地方税源として移譲するべきだ。さらに、財源保障については国が分け与えるのでなく、地方の側が第三者機関をつくり一定のルールで配分する仕組みを考えた方がいい。

 ―道州制の実現に向けて、今後はどんな取り組みをしますか。

 国会で大詰めの議論が始まった憲法問題とも連動するが、今は明治、終戦後に続く第三の構造改革期。外交、防衛などまず国の役割をしっかり議論し、その一方で地方の役割を議論していくことが大切だ。国と地方の構造に大きなメスを入れるためには、もっと国民を巻き込んだ議論が必要。地方は近隣地域と競争すべき分野と、連携して国に立ち向かうべき分野とを、しっかり見分けることが大切だと思う。


 抜本的改革には国民の関心カギ

 広島と岡山の主導権争いは古くて新しいテーマだが、自治の枠組み再編議論でも両県のスタンスの違いが現れている。広島は国際性などをテコに中国地方枠内での「県合併」に比重を置くのに対し、交通結節点のメリットを生かしたい岡山は中四国一体の「道州制」を提唱。石井氏は否定するが、岡山は「州都開設」を視野に入れている、との見方が支配的だ。

 ただ、石井氏が指摘する通り「国と地方の構造改革」の必要性については両県とも一致。この問題は決定的なスタンスの違いというより、再編像を短期でみるか中長期的にみるかという視点の違いという側面が強い。明治や戦後の改革時のような「外圧」が少ない今、抜本構造にメスが入れられるかどうかは、国民の関心の盛り上がりにもかかっている。

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「瀬戸内海を囲む中四国地方は一体になり、地域間競争に立ち向かうべきだ」と道州制の必要性を訴える石井氏
 いしい・まさひろ 1945年岡山市生まれ。東大法学部卒。69年旧建設省に入り、大臣官房審議官などを歴任。96年岡山県知事に初当選し、2000年再選。全国知事会副会長、地方制度調査会委員。

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