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2004/2/29
納税者からの行財政改革 NPO「WHY NOT」設立者 村尾信尚氏に聞く

情報公開が有効手段

   国と地方自治体合わせて七百兆円の借金を抱え、日本の台所は火の車だ。小泉構造改革も掛け声とは裏腹に、行財政改革の足取りは重い。その大きな要因が既得権を守ろうとする政治家と、お役所の利益や保身を優先する公務員ではないのか―。元大蔵官僚で、民間非営利団体(NPO)「WHY NOT」を設立し、納税者のための行革推進を訴えている関西学院大の村尾信尚教授に聞いた。

(東京支社・木原慎二)

 無関心は危機深める/公務員制度の見直し必要

 ―なぜNPOの立場から行財政改革を進めようとしているのですか。

 大蔵省で主計官をしていた時、予算編成の修羅場で「本当にこんなことをしていていいのか」と痛感した。もう永田町(政治家)と霞が関(官僚)のインナーサークルで、国の予算や政策を決めていても仕方ないと。

 これだけの財政赤字を抱え、日本はまさにタイタニック号なのに、政治家など既得権を守りたい人たちが、沈み行く中で一等船室に駆け込んでくる構図。こんな危機感のない国は、なくなってしまう。急いで永田町や霞が関の外にいる人たち、つまり納税者とスクラムを組まないといけない、と動き始めた。

 最大の武器は、情報公開。これを納税者が有効に使えるようになれば、政治や行政の側は説明責任を果たせない事業はやめざるを得なくなり、インナーサークルの構図は徐々に崩れていく。

 ―納税者の視点が大切なのはよく分かるのですが、世論の盛り上がりはまだまだですね。

 それが、この国の本当の危機といえる。時代を変えようとする時、悪い奴をただすことよりも、まず善意の人たちの無関心や恐怖心を意識改革することから始めないといけないのだ。

 日本には、財政的に住民に痛みを感じさせないシステムが二つ内蔵されている。一つは補助金の仕組み。例えば自治体が五億円を払えば、国も同じ額を出してくれ、十億円のハコモノができてしまう。しかし実は、国税であろうと地方税であろうと十億円はすべて住民の税金だ。もし、ハコモノを建設するのに、住民に五億円の地方税のアップを求めたら「そんなのいらない」となるはず。地方には、国の制度にタダ乗りできるような財政錯覚が起きている。

 国は国で、ツケを赤字国債という形で子や孫に借金で回しており、差し当たり苦しまない。だから、国民の側も「だれが困っているの」「そこそこやってる」と思ってしまう。しかし、それは麻薬を使っているようなものだ。構造改革を掲げた小泉純一郎首相は、国債発行を三十兆円に抑えると表明したけれど、国会で審議している新年度予算案では三十六兆円になっている。一般会計が八十二兆円だから、これは超飽満財政でしかない。

 ―公務員制度にも疑問を呈していますね。

 採用試験に合格し、大過なくいけば、解雇や倒産の不安なく定年まで働ける制度。これではだれだって改革ではなく、守りに入ってしまう。不況の今、公務員と会社員の間の待遇格差があり過ぎ、「足らざるを憂う」ではなく、「等しからずを憂う」といった風潮が世の中に出ている。雇用不安のない公務員が、民間人と同じ感覚を持つのもかなり難しい。公正公平な職務をするため身分保障している憲法の趣旨は分かるが、諸外国に比べても身分保障が厚過ぎる。

 英国では一九九一年、当時のメージャー首相が、「行政サービスは皆さんの税金で賄われているのだから、不平不満をどうぞ言ってください」との趣旨の市民憲章を定めた。そして今、多くのが国がタックスペイヤーズファースト(納税者第一主義)になった。公務員制度もそこが原点だ。

 ―NPOの立場で行財政改革に取り組むといっても、具体的には難しいのでは。

 私たちをドンキホーテと笑う人も少なくないが、政治や行政が何とかしてくれる、との甘えはもう通用しない。が、どうすればいいのか、正直言って答えがあるわけではない。まずは一つ一つの行動の積み重ねと、そこから生まれるネットワークで納税者の無関心に風穴を開けたい。

 具体的には「選挙公約は住民がつくろう」との提案をしている。まず「二十四時間対応の苦情受け付けフリーダイヤルを設置する」「財政赤字をこれ以上、増やさない」「公立病院で予約すれば三十分以上待たせない」などの公共サービス注文書・チェックシートをつくる。それを首長選などの候補者に送って、受け入れられたサービスを有権者に公開して公約にする運動だ。

 NPOとしては、注文書やチェックシートのモデルを提示するまでが役割。後は、共感してくれた地域住民が具体的な運動に広げる。東京都青梅市や栃木県那須町で芽が出始めている。とにかく、あきらめずに行動を起こすことだ。


 具体的政策 発信続けて

 忘れられない出来事があるという。三重県に出向していた村尾氏が県庁の会議で行革の断行を伝え、内部から「血の雨が降るぞ」と猛反発にあった時のことだ。県生え抜きの部下が立ち上がり「そうかもしれないが、その中に納税者の血は一滴も入っていない」と語気を強めて援護してくれたという。活動の原点はここにある。

 納税者の視点を徹底した民間からの行財政改革…。ひと昔前なら「理想論」と片付けられた主張だろう。だが、止まらぬ財政悪化を背景に、年金問題など将来不安は増大するばかり。政治や行政に無関心だった世論にも、情報公開制度の整備もあって地殻変動が起きつつある。その手ごたえがあるから村尾氏は「あきらめない」と繰り返す。

 「改革のため、しがらみは一切断つ」。村尾氏のかたくなまでの信念は伝わってきた。だからこそ、どんな社会を目指すのか。具体的なビジョンや政策を発信し続けてほしい。

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「納税者が行財政改革に乗り出さなければ、この国に日没が来てしまう。危機意識をもってほしい」(東京・丸の内の関西学院大東京オフィス)
 むらお・のぶたか 一橋大経済学部卒。1978年4月大蔵省入り。主計局課長補佐などを経て95年7月、地方改革の旗手とされた北川正恭知事の三重県に総務部長で出向し、3年間勤務。02年12月、環境省課長で退官し、翌年4月の三重県知事選に政党の支援を断って立候補し、落選。昨年10月に関西学院大東京オフィスの教授に就いた。48歳。
 NPO「WHY NOT」 名称は「どうして?やってみよう」との意味。村尾氏が官僚だった2001年2月に設立した。特定の思想や政党に偏することなく「情報の公開」「分かりやすい説明」「サービスの選択」の3つをキーワードに、納税者の立場で行政運営の手法を見直す活動をする。会員(会費無料)は610人。
 主にホームページ上で提案や意見交換をしているほか毎年、全国の会員が参加する集会も開催。村尾氏は昨年11月、勉強会「もうひとつの日本を考える会」も立ち上げ、戦後社会では問題意識が低かった、消費者▽納税者▽民▽地方▽こころ▽環境▽障害のある人▽ベンチャー▽在日外国人▽次世代―の側に立った政策立案に取り組む。

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