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2004/3/28
注目集める「CSR」理念 麗澤大企業倫理研究センター長 高巌氏に聞く

社会の信頼得る企業に

   企業の不祥事が相次ぐのを受け、欧米に比べて遅まきながら「企業の社会的責任」(CSR)が注目を集めてきた。世界に通用する基準づくりが進められ、投資する企業の判断基準にする動きも出始めた。組織の危機管理の仕組みであると同時に、企業評価の重要な指標でもあるCSRの現状について、麗澤大企業倫理研究センター(千葉県柏市)の高巌センター長に聞いた。

(東京支社・村上昭徳)

 不祥事も積極開示

 ―CSRは、日本ではなじみが薄いですね。

 企業経営の基本は、法令順守(コンプライアンス)。さらに人権擁護や環境への配慮、地域貢献の姿勢も組み込み、株主や従業員、顧客、地域住民らに対し、社会的責任を果たすのがCSRの理念だ。日本では普及し始めたばかりなので、あまり知られていないのは仕方ない。

 市場からの信頼を得るため、法令順守は当然の義務。CSRはそのうえで自ら犠牲を払ってでも「社会的善」に貢献する取り組みであり、積極的な情報開示が求められ、社内的な組織づくりも必要となる。

 頂点に達した消費者の不信

 ―日本企業のCSRの体制づくりが、急速に進みつつあるのはなぜですか。

 九〇年代半ば以降、大手企業の不祥事が相次いだのが契機となった。特に二〇〇〇年に発生した雪印乳業の集団食中毒事件や三菱自動車のリコール隠しで、消費者の不信感は頂点に達した感がある。市場や消費者の視線は、かつてないほど厳しい。不祥事が起きたにしても、それまでにどんな未然防止策を講じていたかが問われ、責任の重さが判断される。トップの引責辞任では世間は納得しない。

 いま、企業は社会から認められる存在でなくてはならない。そのためのツールがCSRだ。

 ―企業にとってCSRを導入するメリットは。

 不祥事を回避し、発生した場合はダメージを最小限に抑える目的以外に、社会からの信頼性の確保や、グローバル市場における企業競争力の向上、社会的責任投資(SRI)の対象になる―などメリットは多い。情報技術(IT)の進展で、企業の不祥事は一瞬にして世界を駆け巡る。CSRが不十分だったため、世界的な市場ボイコットが起これば、業績への影響は計り知れない。

 世界を相手に活動している「多国籍企業」が多い日本の場合、対応を一歩でも誤ると、国際的なビジネスチャンスを逃がしかねない。不祥事が続く今こそ、事態の打開や信頼回復のために必要であり、株主代表訴訟から経営者を守るリスクヘッジにもなる。

 国民の投資が取り組み支援

 ―CSRのメリットの中でも、社会的責任を果たす企業に投資するSRIは、誰でも参加できますね。

 国民一人ひとりが、投資活動を通じて対象企業の社会、倫理、環境各分野への取り組みを支援する動きだ。いわば、企業努力を競争力に変える仕組み。CSRを果たすとは、経営の誠実さを示すことであり、訴えられるリスクも少ない。投資する側にとっても、配当への期待感が持てるために理にかなっている。

 日本ではCSRに積極的な姿勢の企業に対して投資するSRIは、中長期的には市場平均レベルか、それ以上の運用実績を示した、とのデータもある。

 ―ただ、日本での運用資産総額は、欧米と比べ格段に少なく、一千億円にも達していませんね。

 確かに米国の約二百四十兆円、欧州の約四十五兆円と比べて小規模だ。日本でSRIファンド(投資信託)が少ないことも影響しており、これからの動きだろう。ファンド商品をつくるのは、主に証券会社。ところが、この業界も不祥事によって、国民の不信感は根強い。積極的にCSRを果たす姿勢が、商品販売より先決ではないか、との意見に耳を傾けるべきだ。

 ―SRIは欧米並みに普及するでしょうか。

 約百四十兆円ある公的年金の一部でもSRIで運用すればいい。公的年金の資金は持続的、長期的に運用ができ、かつ一定の配当も期待できる銘柄でなくてはならない。その意味でCSRに熱心な企業は、投資対象にふさわしい。受益者の利益を第一に考える、という運用者の忠実義務にもかなう。

 公的年金資金をSRIで運用するようになれば、CSRに対する関心はさらに高まり、導入企業は増える。その結果、投資する側の選択肢も広がり、相乗効果で普及は進んでいく。

 ―自社の不祥事を教訓にCSRを導入した企業では、自ら情報開示するケースも目立ちます。

 強調したいのがプロセス評価の必要性だ。問題を公表し、再発に取り組んでいる企業と、隠したままでばれたから発表した企業ではまるで意味が違う。社会もマスコミも不祥事の結果ではなく、プロセスで評価を分けないと、CSRの取り組みは進展しない。


 「企業評価」の新しい基準に

 企業の不祥事が後を絶たない。経営陣が頭を下げるシーンは今や日常的で、怒りを通り越して言葉もない。日本の社会に根強くあった「企業性善説」は、もはや通用しなくなったといえる。

 高センター長が指摘するようにCSRの取り組みはコストではなく、間違いなく競争力や収益として企業に返ってくる。CSRを企業の競争力の源泉と考える英国やフランスでは担当の大臣を置き、国策にしている。日本でもすでに経済産業、厚生労働、環境などの関係省庁が水面下で主導権争いをしている、との話も聞こえてくる。

 消費者は、CSRを導入している企業かどうかを基準に商品を選んだり、就職先を選んだりして、外から企業を鍛えることもできる。社会的責任を果たす企業に投資するSRIとともに活用すれば、日本経済の回復にも貢献できる―。それほど重要なテーマだ。

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「社会が、企業努力のプロセスを評価するようになれば、CSRは一層、促進される」と語る高氏(東京都内)
 たか・いわお 1985年早稲田大大学院商学研究科博士課程修了。ペンシルベニア大ウォートンスクール客員研究員を経て、94年麗澤大国際経済学部教授。2003年同大企業倫理研究センター長に就いた。経済産業省が中心になったCSR標準委員会委員、同作業部会主査も務める。大分県出身。48歳。
 企業の社会的責任(CSR) 英語で「コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティー」。頭文字で「CSR」と略す。日本の大手企業では、ソニー、松下電器産業、NECやリコーなどが社内体制を整備している。経済同友会の調査(今年1月発表)では、回答企業229社のうち、約3割がCSRの専任部署(担当者)を設けていた。

 国際標準化機構(ISO)では、CSRの国際規格化を検討中。国内では、経済産業省が日本の意向をISOに反映させるため、CSR標準委員会を設け、国内版の取りまとめを急いでいる。

 社会的責任投資(SRI)は、CSRに着目して投資先を選ぶ概念。投資対象の収益性だけでなく、社会貢献度を考慮するのがポイント。欧米では定着し、投資信託などのSRI市場は、急速に拡大している。


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