中間処理進め 減量化を図れ
産業廃棄物の不法投棄が後を絶たない。香川県豊島や青森と岩手県境で発覚した国内最大級のごみの山は、環境に深刻な影響を及ぼした。岐阜市でも、これに匹敵する規模の悪質なケースが表面化したばかり。産廃Gメンとして業者と渡り合う一方、「産廃コネクション」(WAVE出版)などの著作を通して国の政策に厳しい視線を注ぐ千葉県産業廃棄物課市原分室の石渡正佳副主幹に、不法投棄の温床と解決策を聞いた。
(東京支社・長田浩昌)
実情反映せぬ全国一律規制 地方の権限 大きく
―千葉県で産廃Gメンが創設された理由を教えてください。
不法投棄が一九九八年ごろから増え、首都圏のごみ捨て場のようになった。そこで九九年に本格的な産廃Gメン「グリーンキャップ」を編成。夜間・休日のパトロールだけでなく、不法投棄の現場から証拠を集めて業者を突き止め、撤去させる取り組みを進めた。現在は出先機関を含めて九十人体制。業界の監視、指導を続けている。
環境省の説疑問
―産廃が不法投棄される大きな原因は。
処理施設が足りず、オーバーフローした部分が不法に棄てられている。問題は、どの段階の施設が、ボトルネックになっているかだ。環境省はこれまでずっと(廃棄物処理の残渣(ざんさ)を埋め立てる)最終処分場が足りないと説明し、その確保に力を入れてきた。
でも、それは実態とは違う。足りないのは、最終処分に先立って、脱水や焼却などで減量化する中間処理施設だ。不法投棄の現場で見つかる大半は、中間処理施設に入っていなかったり、入っても(業者が能力不足で)何の処理もしないで出してきたりしている産廃。中間処理能力が高まれば不法投棄は減る。
―具体的な根拠は。
何百社も立ち入り検査をし、何百もの現場を歩いた。「環境省の説明はおかしい」と薄々は感じていたが、いま構造的に説明できるようになったのはその経験があるからだ。数字で証明するために業者の会計帳簿や決算書も徹底的に調べた。そのうえで本を執筆して中間処理施設を増やせ、と主張している。
―統計上は全国的に不法投棄は減少傾向です。国の政策の成果ではないのですか。
ある地域で不法投棄が減った場合、その地域の人たちが頑張ったということはある。しかし、全国規模では、国の政策というより、経済情勢に左右されているのが現実。確かに不法投棄は減少していると思う。それは、中間処理段階であふれていた部分をある程度吸収する三つの経済現象が、幸いにも起きているからだ。
鉄鋼やセメント、製紙など大型炉を持つ重厚長大型の企業が、産廃の中間処理業に参入したのが一つ。次に、大型の焼却炉の建設コストが下がったこともあり、既存の中間処理業者が大型化を進めて処理能力を高めている点も大きい。さらに、飛躍的な経済成長を続ける中国への輸出増も挙げられる。鉄や非鉄、古紙などの需要が高く、日本より高く売れるので船で運ぶ費用を負担しても商売になる。今まで不法投棄していた産廃が、資源としてどんどん中国に行っている。
循環型の社会に
―オーバーフローが解消し、不法投棄が少しずつ減っているのですね。
例外はある。建設系廃棄物は大企業がまだ処理に参入しておらず、中国に輸出もされていない。不法投棄がビジネスとして成り立っている。三、四年前の東京のように建設ブームになると、その地域だけ増えるのが、建設系廃棄物の特徴だ。今回の岐阜市の不法投棄事件の背景には名古屋周辺の建設ブームがある、とみている。
―では、建設系廃棄物の不法投棄をなくす決め手は。
一番いいのは家を壊さないことだ。リフォームして長く住める文化に変えていく必要がある。木造住宅を百年持たせるにはどうするか。耐用年数を延ばす工夫だけでなく、三世代が住み続けられるよう相続税を廃止するなど総合的な政策が必要。国の中にも掛け声だけはあるのだが、実際には手付かずだ。
一つのものを長持ちさせ、ゆっくり回すのが循環型社会。中央官庁は、業界別の縦割りになっており、それぞれが所管するメーカー側の都合を無視できない。リサイクルは進めても、生産ボリュームを落とす方向には導けない。
―今後の環境行政は、どうあるべきですか。
環境は地域のもの。地方の権限をできるだけ大きくし、その地域で守られるようにするべきだ。廃棄物関連の法律は、全国一律の「規制値主義」から、地域の実情に沿って環境を守る「ゾーニング主義」に、一刻も早く改めなければいけない。地域の実情を知らない環境省だけでは、これはできない。環境分野でも、地方分権は大きな意義をもつ。
実務者 力付け情報発信を
産廃行政の最前線で、汗を流す石渡氏は「ノウハウを全国に広めたい」と、積極的に著作活動を続ける。産廃業界のグレーゾーンの実態を浮き彫りにして、政策も提言。「環境省へのアンチテーゼ」と自身が評するだけに、関係者には異論もあるだろう。しかし、現場の感覚と業者の財務分析に裏打ちされた持論には迫力がある。
取材を進めるうち、知り合いのキャリア官僚が雑談で漏らした言葉を思い出した。「霞が関が、権限を本当に手放すと思う?」。地方自治体の財政事情を考えると、地方自治制度の見直しは避けられないが、地方分権の方向に進むとは限らない―と言うのだ。
分権論議は、中央省庁と自治体との組織防衛戦の側面も強い。真の権限移譲を地方が得るには、改革派首長の言動にも増して、石渡氏のような実務者レベルの果敢な情報発信こそが必要なのではないだろうか。
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