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2004/6/13
中小企業重視の景気策を 日本商工会議所 山口信夫会頭に聞く

融資を行き渡らせて

 株価や国内総生産(GDP)などの主要経済指標や、上場企業の収益が着実に上向いている。先行きが見えない、といわれ続けた景気は、ようやく回復基調に入った。だが依然、産業のすそ野を成す中小企業にはその実感が乏しい。デフレ経済脱却の出口もまだ十分に見えていない状況で、中小企業に明るさは戻るのか。日本商工会議所(東京)の山口信夫会頭に聞いた。

(東京支社・村上昭徳)

新事業転換 後押し望む

 ―中小企業に景気回復の実感はありますか。

 景況感が改善されたと感じているのは、特定の業種に限られ、全国的には、地域によって大きなばらつきがある。

 現在、上昇機運を高めているのは、米国と中国向けの輸出効果▽デジタル家電特需▽自動車、鉄鋼、石油化学など特に大企業の製造業。この分野の産業が集積する地域は恩恵に浴しているが、それ以外は、回復の兆しを感じていないのではないか。好調なデジタル家電でさえ、材料費の値上がりや、競争激化による低価格化で、利益率の悪化が懸念され始めている。

 中小企業は、国内の企業数の99・7%を占め、雇用の約七割を担っている。大企業の回復だけでは、全体の景気回復にはつながらない。景気浮揚を確実にするには、中小企業が支えている地域経済の回復が不可欠だ。

再生阻む貸し渋り

 ―政府は、経済全体における中小企業の役割を軽視していませんか。

 戦後、日本経済が奇跡的な復興を遂げてきたのは、大企業と中小企業が相互に役割を補完し合ってきたからだ。

 だが、中小企業は長引くデフレ経済で、疲弊の極みにある。中小企業が健全な活動をする状況にはない。地域の雇用を支える中小企業の再生は、地域経済の回復にとって欠かせない。景気に明るさが見え始めている今こそ、中小企業対策を積極的に進め、デフレ経済脱却の好機としたい。

 政府にはまず、中小企業が景気回復を引っ張る個人消費の重要な担い手であることを、十分認識するよう求めたい。その上で、規制改革を推し進め、金融機関から中小企業に資金が十分流れる仕組みを整えるべきだ。日本銀行は金融機関に対する金融緩和は実施しているが、さらに下流に行き渡るようにしなければならない。

 日本の金融機関はいまだに、(不動産などの)担保の有無だけで、融資するかどうかを判断する姿勢を改めていない。中小企業への融資は、経営者の資質や将来性、企業モラルなどを総合的に判断して決定すべきではないか。担保がないからと貸し渋りするようでは、新しい事業は育たない。

 繰り返すようだが、政府には中小企業を大切にしてもらいたい。チャンスさえあれば、再生可能な中小企業は少なくない。規制緩和を一層推進し、業種転換しやすい環境整備を進めてほしい。

 ―景気が回復基調に入ったのを踏まえ、貸出金利が上昇する気配です。景気回復に水を差すことになりませんか。

 中小企業は、個人消費の活性化になくてはならない存在。だが、借り入れ過多のケースも少なくなく、金利上昇で負担が増えれば経営に大きな打撃があるかもしれない。日本経済を考えることは、中小企業の在り方を考えることでもある。金利は、景気回復の速度に応じてゆっくり上げるのが望ましい。

医療分野など有望

 ―中小企業側も経営面での自助努力が求められます。具体的にどう取り組みますか。

 もちろん甘えは許されない。特に公共事業が基幹産業になってしまった地域では、構造転換を一定に進めることが必要になっている。

 日本商工会議所としても、若手経営者が新事業に挑戦するのをお手伝いする「第二創業塾」や産学官の一層の連携推進によってバックアップしたい。業種の転換先としては、デジタルや自動車など成長産業の関連分野が有望。介護、医療分野も将来の市場成長が期待できる。

 中小企業には「もっと自信を持って」と呼び掛けたい。例えば、自動車や機械の部品を製造する企業。最終製品を消費者に届けるわけではないので、一般的な知名度は低い。しかし、精密部品を製造する高い技術力は、実はオンリーワン、ナンバーワンであることが多い。その技術力をしっかり生かして応用すれば、業種転換への道も開けるはずだ。

 ―今の景気回復が、小泉純一郎首相の構造改革の成果かどうかは見解が分かれるところです。首相への注文を。

 小泉さんは「改革なくして成長なし」と唱えている。それは逆で、「成長なくして改革なし」だろう。道路公団や郵政民営化に代表される構造改革は将来にとっては大事なことだが、今やるべきは景気対策だ。

 ただ、小泉首相は非常に運の強い方。ツキも力のうちとして二十点を加え、手腕には八十点は差し上げる。運の強い首相がいるのは心強いともいえる。将来に向け希望が広がる経済環境が築けるよう、指導力の発揮を期待している。


 切り捨てへの怒りがにじむ

 景気けん引は、米国、中国向けの輸出に頼っているのが現状だ。どちらかが失速すれば、日本経済は連鎖的な影響を受ける。「景気回復を持続するには内需に火が付き、拡大することが必要。その担い手は中小企業」。山口会頭は何度も繰り返した。

 同感だ。だからこそ政府、経済団体、地域、経営者が「中小企業が日本経済を支えている」との共通認識を持って、いち早く再生へ向けて歩み始めてほしい。

 小泉構造改革の理念は分かる。だが、改革の実行を急ぐあまり、中小企業に、「公共事業頼み」「大企業依存」のレッテルを張り、切り捨ててきた―との感は否めない。そこまでの強烈な批判はなかったものの、山口会頭の口調からは、そんな怒りを感じ取った。

 国内雇用の約七割を中小企業が支えている現実がある。もっと大胆に、規制緩和や金融、税制改革を進め、中小企業が前向きに競い合える環境をつくりだすことこそ、真の構造改革ではないか。

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「中小企業の再生が、日本経済回復には不可欠」と強調する山口氏(東京都千代田区、日本商工会議所)
 やまぐち・のぶお 1952年、東京商科大(現一橋大)を卒業し、旭化成工業(現旭化成)に入社した。取締役、常務などを経て81年副社長、92年から会長。2001年7月、日本商工会議所会頭に就任。中小企業庁中小企業政策審議会の会長、日本銀行参与も務める。広島県総領町出身。79歳。
 デフレ経済 政府の定義は「持続的な物価下落」。物やサービスなどの供給過剰や消費者の購入意欲の下落で、物価やサービスの価格が持続的に下落している経済状態を差す。デフレはデフレーション(DEFLATION)の略。
 日本の物価下落は、先行き不安による消費控え▽中国をはじめとする低価格輸入品の流入▽パソコンなどにみられる生産性の向上▽景気の弱さからくる総需要の不足―などが原因とされる。
 リスクとしては、デフレが長期化することによって収益減少や所得低迷を招き、返済の負担が実質的に重くなる▽企業収益の伸びが鈍化するため、税収が減る―などが挙げられる。

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