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2004/7/11
観光立国と地域再生 内閣府特命顧問 島田晴雄氏に聞く

参加体験・滞在型に活路

 政府は、地域再生策の柱として「観光立国」を掲げている。観光資源が豊富にもかかわらず、外国人旅行者の受け入れ数は先進国で最下位。現状を打破するため、戦略を根本から描き直し、二十一世紀のリーディング産業として、大きく成長させよう―との狙いだ。二〇一〇年には、来日外国人旅行者を一千万人に倍増させるのが目標。具体的道筋について、観光分野の「構造改革」を唱える内閣府特命顧問で、観光立国推進戦略会議委員の島田晴雄氏(慶応大教授)に聞いた。

(東京支社・村上昭徳)

「定住」視野に整備 独自発想で競争力を

 ―日本の観光の現状をどう見ますか。

 日本の外国人旅行者受け入れ数は世界三十三位で、先進国の中では最下位だ。素晴らしい観光資源を持っているのに、産業として重視することなく、手を抜いてきたのではないだろうか。観光地として国際的に有名な国々は、戦略産業としてしっかり位置付けている。

 世界で最も観光客が多いフランスには、年間に七千七百万人が押し寄せる。パリだけみても五千万人。米国は四千二百万人、中国は三千七百万人の観光客が訪れている。日本への外国人訪問者は年間で、わずか五百万人にとどまっている。

 現状を踏まえ、まずは国内の観光産業が、陥ったままになっている「時代錯誤」に気付かなければならない。

■時代錯誤な日本

 ―時代錯誤の象徴的な事例を挙げてください。

 かつて、温泉旅館などは団体旅行をターゲットに、二百畳の広間などの大規模設備を整えた。だが現在では社員旅行などは減り、個人や家族、友達同士に形態が変わってきている。

 にもかかわらず、大規模施設を持っている旅館などは、改装をしないうえ旅行代理店のパック商品頼みの姿勢を変えていない。これでは利益も少なく、工夫もないまま悪循環が続いている。

 ―どのように改善すればいいでしょうか。

 旅行代理店がパック商品を企画し、観光地の部屋を低価格で抑えてお客に提供する―という構造を改めない限り、画一的になって地域が持つ魅力は、どんどん失われていく。観光地自身が、独自の発想で集客を図ることが何よりも大事だ。

 顧客を第一に考え、それぞれの観光地が商品を創造して努力すれば、収益が上がる構造へと変わる。具体的には「物見遊山」より「参加体験」、「訪問」より「長期滞在型」を念頭に、充実させていくべきだ。

■「カリスマ」認定

 ―政府サイドでは観光の構造改革に向け、どんなバックアップをしていますか。

 国土交通省が管轄し、私が委員長を務める観光カリスマ百選選定委員会で、地域観光を活性化するために、重要な役割を果たしている人を「観光カリスマ」として認定する制度を設けた。情報を発信し、顧客のための商品をつくる地域活性化の担い手たちだ。現在、七十四人を認定。年内に計百人を選ぶ。

 全国各地には、観光地を再生するノウハウが蓄積されているが、各地域にとどまっているのが実態だ。これを観光カリスマの制度によって全国へ広く紹介し、多くの関係者に学んでもらいたい、と切望している。

■広島なら「河川」

 ―広島県は今年、二十年ぶりの大型観光キャンペーンを展開中です。何をPRすれば効率的でしょうか。

 一過性の観光客だけを対象にしてはいけない。名勝、名物、温泉旅館だけが観光資源ではない。もはや世界遺産の原爆ドーム、宮島だけでは観光の柱にはなり得ないのではないか。

 例えば、広島には河川が多い。そのイメージを生かし「広島に行けば、船舶免許が取得できる」といったようなパッケージ商品がほしい。これが「訪れる観光」から「参加体験型」への転換を意味する。家族も一緒に滞在すれば、地域との交流を深めることもできる。

 ―外国から観光客を呼ぶためには、まず国内の人たちにとって魅力ある地域に再生することが大切なのですね。

 今後十年間、団塊の世代を中心に、全国で毎年約百二十万人が定年退職する。観光を、定住者を増やす導入部と考えてはどうだろうか。広島でおいしい物を食べ、海が見える場所に家を建て、川辺にヨットを浮かべ、ゴルフを楽しむ。そんな長所をPRして定住を呼び掛けて実現すれば、地域振興の一翼も担える。

 そこで、鍵を握るのは競争力。良質な生活が確保できれば、定住に踏み切る人もいるはずだ。環境、医療、行政サービスなど「ぜひ、住みたい」と思えるような条件整備ができるかどうか。地域再生の成否がかかっている。


 「やる気」出る支援必要

 これまで国は、工業や農林水産業に比べて、観光対策に力点を置いてこなかったとの感は否めない。だが、旅行、宿泊、輸送や飲食など、産業としてのすそ野は広く、雇用を含めた経済波及効果も大きい。

 政府は昨年、「観光立国」を宣言した。これまでの「後れ」を取り戻すため、実効性のある企画・立案と、その推進が求められる。観光振興の先頭に立つ島田氏は「生活や文化に誇りを持ち、住んでいる場所の素晴らしさを再認識しよう」と呼び掛ける。

 その通りだと思う。住んで楽しくない場所に、他の地域の人たちが来るわけがない。地域を活性化し、観光から定住へ移行させるとの考え方は理想的である。一方で、地域格差が広がって宿泊施設の廃業が相次ぐなど、観光地にとって厳しい現状も見逃せない。

 「観光立国」を「絵に描いたもち」に終わらせないために国は、大局的な戦略を推進すると同時に、地域に「やる気」を起こさせる支援策にも、知恵を絞るべきだろう。

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「収益が上がる市場構造への転換が欠かせない」と強調する島田氏
 しまだ・はるお 1965年、慶応大経済学部を卒業。70年同大大学院経済学研究科博士課程修了。74年米・ウィスコンシン大博士課程修了。慶応大経済学部助教授などを経て、82年4月、同学部教授。観光立国懇談会、経済財政諮問会議などの委員を歴任し現在、内閣府特命顧問。富士通総研経済研究所理事長も務めている。「雇用を創る 構造改革」など著書多数。東京都出身。61歳。
 観光立国行動計画 2002年に、日本から海外へでかけた旅行者は1652万人だった。一方、訪日外国人は524万人。観光旅行の国際収支は赤字状態が続く。格差を早期に是正しようと政府は昨年1月、2010年に、来日外国人旅行者を1000万人にする目標を掲げた。  首相の私的懇談会「観光立国懇談会」は基本的な在り方を報告書にまとめた。これを受け、関係閣僚の会議は昨年7月、観光立国の浸透▽日本・地域の魅力確立▽日本ブランドの海外発信▽環境整備と戦略推進―を柱とする行動計画を決定した。  昨年9月には歴代内閣として初めて、観光立国担当相を設け、石原伸晃国土交通相が就任。ビジット・ジャパン・キャンペーン(訪日旅行者倍増計画)を展開し、PRビデオをアジア諸国へ送るなどして、来日を呼びかけている。

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