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2004/8/8
広島の路面電車 日本一の理由は 広島電鉄 大田哲哉社長に聞く

進化続ける「中量輸送」

   路面電車はいま、全国の十九都市で走っている。広島電鉄(広島市中区)の市内線は、利用者数日本一、黒字経営を続ける数少ない「優等生」である。自動車に押され、全国各地で路面電車が姿を消すなか、なぜ広島に路面電車が生き残れたのか、住民の足としての将来像をどう描くか、について大田哲哉社長(63)に聞いた。

(編集委員・山本浩司)

1日利用11万人 都市規模に見合う

「点」結ぶ駅間300メートル

 ―まず電車部門の現状についてお話しください。 図「駅前大橋および駅前広場整備計画」

 路面電車の利用者は年間三千九百六十六万三千人(二〇〇三年度)、一日平均では十万八千人(同)。鉄道(宮島線)と合わせると一日平均の利用者は約十六万人に達する。営業係数も同業他社と比べトップクラスだ。

 ―全国で路面電車が次々と廃止されてきたなかで、なぜ広島では生き残り、かつ日本一になれたのでしょうか。

 理由の第一には、広島という都市が、路面電車に合った都市であったことが挙げられる。半径二・五キロの円の中に都市機能が集約している広島では、大手のような「線」ではなく駅間約三百メートル程度という「点」を結ぶ路面電車がちょうどいい。また、「中量輸送」である路面電車は、広島のような人口規模の都市でこそ育ちやすい。都市圏人口が二十万人より小さな都市はバスでよいし、百万人を大きく超えれば地下鉄でなければ対応しきれない。

行政協力も大きい

 ―いったん解禁された軌道敷内への諸車乗り入れ禁止の再開や、全国初の電車優先信号の導入など、行政の支援もありましたね。

 中国運輸局、県、市などの協力は大きい。この現状は全国のお手本になっている。

 ―低床式車両(ライト・レール・ビークル=LRV)のグリーンムーバーもいち早く導入されました。

 わが社が全国に先駆けて一九九九年、ドイツ製の「グリーンムーバー」を導入できたのは「移動円滑化補助」の新設があったからだ。ステップ式の車両と低床式車両の差額を国と県・市に半分ずつ負担いただく制度だが、これはグリーンムーバー導入に際して誕生した。この「移動円滑化補助」を利用して、現在全国の十局社が低床車両を導入している。

 ―車いすやベビーカーなどの利用者にとっては利用しやすい低床式ですが、外国製ということで改良すべき点も多いのではないでしょうか。

 路線改良や急行便急ぐ 国産の低床式車両導入へ

 台車の上の部分の乗り心地が悪いとか、つり革が使いにくく、お年寄りがつかまるところが少ないなど、いろいろな声が届いている。

 ―その点はどう克服するのですか。

 利用者の声以外にも、車両の輸送費が掛かったり、修理部品の入手に時間がかかるなどの問題を抱えているのは事実。そこで、国産のLRVの開発を進めている。今年秋には完成し、試験運転を始める。

 ―どんな車両なのですか。

 新型車両では中間台車を低くしてベンチシートにして乗り心地を改良するし、握りが付いた柱を車両中間に配置するなど、最大限要望に応える。もちろん、運転士の声も生かし、より運転しやすく安全な車両にする。

 ―路線の改良についてはどうお考えですか。

 現在六十四分かかっている宮島口―広島駅間を五十分にするつもりでいる。そのため、まず市内線では西広島を出発後、西観音町から土橋にかけて三回右左折している路線を改良する。平和大通りを直進し、現在江波線が平和大通りを横切る交差点で一回左折するだけにしたい。これだけで、四分短縮できるはずだ。

 ―広島駅への乗り入れルート見直しの計画もありますね。

 稲荷町から駅前大橋を直進し、駅前広場に乗り入れる計画だ。この二つについては既に中国地方交通審議会に盛り込まれており、平和大通りの緑大橋の架け替えと広島駅前への乗り入れ問題が解決されれば、すぐに着工を目指したい。これ以外にも間隔が短い電停の位置変更も考える。

追い越しが可能に

 ―宮島線への急行便導入の計画は、どうなっていますか。 図「宮島線『古江での追い越し方法』

 二〇〇五年度中に古江駅に上下線をつなぐ「渡り線」を二カ所増設する。こうすれば、上り線のホームで乗客が乗り降りしている間、後続電車が下り線を走行して追い越しが可能になる。詳細は詰めていないが、商工センター入口から西広島までノンストップで走らせることも可能になる。

 ―それ以外の部分でも改良されますか。

 〇六年度中には山陽女子大前付近に退避線を作って後続が追い越せるようにする。この二つの方法を採用すれば、急行通過後すぐに乗れる電車が来るので、通過駅の利用客の利便性を損なわずにすむ。

 ―宮島線と他の交通機関の結節についてはどうしますか。

 バスとの結節改良に努力している。五日市、宮内串戸両駅では既に効果がでている。平良では今年度から二年かけて全国で初めて、バスと電車が同じホームに着いて、平行移動で乗り換えできるようにする。

 ―現在磁気式のプリペイドカードのIC化は、どうお考えですか。

 いまの磁気カード方式はもう古い。ICカード化にはJRでも使えることが必須だ。関西地区で今月一日からIC化が始まり、来年にはJR西日本のICOCA(イコカ)との相互乗り入れが可能になる「スルッとKANSAI」方式を導入する以外にないだろう。既成のシステムだから初期投資を抑えられるし、広島のカードがそのまま関西で使えるのは便利だ。さらに関西からの旅行者に公共交通機間を使ってもらいやすくなり、振興にも役立つだろう。

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「株主の8割を市民が占めるわが社は、地域のもの」と話す大田社長
 おおた・てつや 63年神奈川大電気工学科卒。同年3月、広島電鉄入社。89年6月、不動産部長、91年取締役。94年常務取締役経営企画本部副本部長、95年専務取締役自動車事業本部本部長。96年から現職。広島市佐伯区出身。

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