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2004/9/12
NPO支援 「市民税1%制度」導入へ 千葉光行・千葉県市川市長に聞く

助成先 納税者が選択

 自治体の財政難を背景に、行政サービスを補完する民間非営利団体(NPO)やボランティア団体の活動が注目されている。中でも、市民による地域づくりを促すため、NPOなどを財政支援する国内初の制度を準備しているのが千葉県市川市だ。納税者が支援したい団体を選ぶと、自分が納めた個人市民税の1%がそこに助成される―。ハンガリーの制度をモデルにした新システムの仕組みと狙いを千葉光行市長に聞いた。

(東京支社・長田浩昌)

市政への参画を促進 コミュニティー再生図る

 ―福祉、環境、文化、スポーツなど市民生活に身近な分野が支援の対象ですね。今考えている制度の仕組みを教えてください。

 まず支援を希望する団体に、事業計画書と経費の見積もりを提出するよう求める。市は学識経験者や公募市民らの審査会を設け、書類審査などで「適格団体」を決める。 この第一次審査をクリアした団体は、市の広報特集号やホームページ、公開プレゼンテーションで活動をPRできる。

 各団体の印刷物やホームページでの自己アピールは認める半面、電話などでによる個人への売り込みは禁止する。

条例化目指す

 ―納税者はどうやって支援したい団体を指定しますか。

 広報紙の特集号に印刷された返信用封書に、選んだ団体の番号のほか、自分の住所、名前などを記入し、納税通知書か特別徴収税額通知書のコピーを同封して市に返送。これを基に、市はその人が納めた個人市民税の1%相当額を団体に補助する。ただし、支援金の上限は団体の事業費の二分の一までとし、余剰金などは基金にプールする。

 現在この案を市民に示して意見を求めている。来年度スタートを目指しており、十二月の市議会に条例案を提案したい。

 ―この制度に何を期待しますか。

 江戸川を挟んで東京都に隣接する市川市には、四十六万人が暮らしている。市内には鉄道七路線の十六駅がある。交通利便性が高いのでサラリーマン世帯が多い。ただ、給料からの源泉徴収ということもあり、自分たちが納めた税への関心は、残念ながら高くない。一部とはいえ、税の使途が意思表示できるようになれば、市政への参画を実感し、関心を持ってもらえるのではないか。

 もう一つの柱は地域コミュニティー再生の鍵になる市民活動の活性化。財政が厳しい今、行政にできることは限られている。従来のように「あれもやってほしい、これもやってほしい」ではだめだ。米国のケネディ元大統領の言葉ではないけれど、まず自分たちで何ができるかを市民が考えなければいけない。

 核家族化が進み「隣は何をする人ぞ」という社会になってしまった。住民同士の触れ合いを取り戻すためにも、NPOなどの仕事にかかる期待は大きい。行政としてどう手伝えるか、知恵を絞りたい。

 ―ハンガリーの例を参考にしたそうですね。

 所得税の1%を、納税者が選んだNPOなどに託す「1%法」だ。二年前の秋、テレビ番組で初めて知り、「これは素晴らしい。うちでもできないか」と思った。すぐに職員に検討を指示した。最初は職員に抵抗感もあったようだが、資料を入手するなどし、昨年秋ごろから本格的に計画を進めてきた。

 導入した場合にどのくらいの団体が手を上げるか調べる目的で、本年度は十万円を上限に、事業費の二分の一を助成する「ボランティア・NPO活動支援金」を実施している。三十二団体の応募があり、第三者機関の審査で二十一団体への助成を決めた。支援金を発展吸収する新制度でも、納税者の選択肢として二十一団体は確保できると踏んでいる。

周知努力望む

 ―選ばれない団体も出るのでは。

 NPOやボランティア団体も努力しなければならない。自分たちの仕事をどうやって社会的に必要な活動だと認知してもらうのか。市民にきっちり伝え、評価を受ける姿勢が大切だろう。

 ―納税者の関心は本当に高まるでしょうか。

 初めてのことで予測は難しい。支援先を指定するのは納税者全体の一割か二割程度だと思う。スタート段階では、それで成功。制度の考え方は大切だ。周知には力を入れて、いずれは一〇〇%に近づけたい。


 信念持ち続け実践を

 「地域再生」を掲げる千葉市長は、市民とのパートナーシップに活路を求める。ハンガリー方式のNPO支援のほか、市民の助け合いの中で循環する「地域通貨」の実証実験にも近く着手。市長就任以来、先進的な施策を相次いで打ち出し、市民の自立を強く促す。

 行政の改革にも余念がない。事務の効率アップと住民サービスの向上を狙う電子化を推進。経済専門紙の進ちょく度ランキングで全国トップの評価を得た。昨年の定期採用では、年齢や学歴を問わない方式を導入し、例年の五倍の五千人余の応募があった。即戦力の採用で「職場の活性化」を図っている。

 地域づくりへの市民参加を呼び掛け、同時に前例主義から脱皮できない役所体質も改善する―。多くの自治体は同じ方向性を示すが、具体的な点になるとかけ声倒れの感が否めない。「住民と行政の距離感をいかになくせるか」。信念を持ち続けて手腕を存分に発揮してほしい。

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「市民による地域づくりをサポートしたい」(市川市役所)
 ちば・みつゆき 1968年、東京歯科大卒。歯科医院院長、市川市議、千葉県議を歴任した。県議時代の95年、動物実験による骨粗しょう症の研究成果が認められて歯学博士号を取得。県議2期目の任期中だった97年、市長選で初当選した。現在2期目。東京歯科大の非常勤講師も務めている。市川市出身、62歳。
ハンガリーの「1%法」 納税者が出資したいNPOなどを税務署に申告すれば、納めた所得税(国税)の1%が献金される。1996年にハンガリーで始まった。その後、東欧諸国にも広がり、市川市の新制度はこれを参考にした。
 市川市の個人市民税は約300億円。制度を導入し、納税者全員(約22万人)が団体を指定した場合、1%に当たる約3億円、納税者1人平均約1300円が市から各団体に助成される。長野県や東京都足立区も同様の制度を検討している。

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