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2004/10/10
増える社外取締役 全国社外取締役ネットワーク代表理事 田村達也氏に聞く

企業の暴走チェック

 経営の「ご意見番」として、社外取締役を選任する企業が増えている。従来の名誉職的な位置付けではなく、第三者の視点で経営を監視し、「社長に直接物申す」との役割が期待されている。普及活動に取り組む特定非営利活動法人(NPO法人)全国社外取締役ネットワーク(東京・港区)の田村達也代表理事に聞いた。

(東京支社・村上昭徳)

第三者、自由な視点で 信用増せば競争力向上

 ―社外取締役は以前からあった制度なのに、今どうして注目を集めているのですか。

 相次ぐ大企業の不祥事や倒産は、経営者の能力低下や暴走が原因だった。日本企業の多くが時代の流れに対応できず、企業変革を成し得なかった。そういった過去を断ち切るには、経営を監視、評価するというコーポレートガバナンス(企業統治)が不可欠。機能不全に陥っている取締役会のチェック機能の回復に、重要な役割を果たすのが社外取締役だ。

 迅速な経営判断に見合ったブレーキ役であるとともに、いざという時は経営陣に退陣を迫る役割も担う。昨年施行された改正商法で、社外取締役を積極活用できる制度が選択可能になったのも追い風になっている。

透明性前面に

 ―社外取締役が企業を監視、評価する視点は。

 経営を助けたり、もうけに関するアドバイスをしたりするのではない。透明性や客観性を前面に押し出した監督機能の強化だ。社内出身者だけの取締役会だと、利益追求の議論になりがち。そんな内向きな体質だと、社会常識とかけ離れた判断を生みやすく、結果的に経営に大きなリスクを与えかねない。

 経営が株主の意向に沿っているか―。これが監視する上での基本的な視点。経営者が暴走していればハンドルを修正させるのが使命だ。

 ―社内出身者だけの取締役会のデメリットを具体的に挙げてください。

 入社以来、その会社一筋で、役員になっても社員の時と同じ視野のままで、果たして建設的な経営の議論ができるのか。例えば役員会では専門用語が飛び交い、何となく分かったような気分になるが、株主が聞いてもさっぱり理解できない言葉の連続だ。分かりやすくするために説明に時間がかかり過ぎる、との意見は本末転倒。株主に伝わる言葉で話すことが、経営陣の説明責任。メリットは大きい。

 また、取締役会で疑問があっても仲間意識が強いため、なかなか言い出せない。生え抜き役員の場合、社長に引っ張り上げてもらった以上、一種の従属関係がある。社外取締役がいない取締役会では、物言えぬ土壌がある。ところが、社外取締役はしがらみがなく、ずばずば問いただせる。

 ―ふさわしい人材は。

 経営者OBや弁護士、会計士、経営コンサルタントに適性があるのは確かだが、違った分野の方が、そこで培った観点で経営をチェックするのも有効。特定の会社や特定の株主の立場にしばられず、株主全体の利益を第一に経営を監督する姿勢を貫く人材が、求められる。経営陣から独立した判断を下す力、的確な質問をする力、ディベート力も必要な要素となる。

有名人に集中

 ―一部の経営者には社外取締役の導入に拒否反応があるようです。人材難との声も出ています。

 拒否の理由でよく聞くのが、社外取締役に会社を熟知してもらうのに時間がかかるとか、サラリーマンの出世の頂点である取締役は、社員にしなければ士気が維持できないといった言い分。社外取締役の果たす役割を理解していない意見だ。繰り返すが、社内や業界の知識が豊富でなくてもいい。そして、朝から晩まで社長のそばにいる必要もない。

 人材難については、だれもが知っている「有名人」に就任の要請が集中するブランド志向に原因がある。経営者が、社外取締役の役割をしっかり考え、自分の会社のPRではなく、適材適所を念頭に有名無名にこだわらずに選任すれば、いくらでも適任者はいる。

 各企業のトップが退任後、自社に残って顧問や相談役にならずに、他社の社外取締役に就任するような仕組みがあってもいいのではないか。

 ―社外取締役の選任が、報酬や待遇など新たなコスト要因にはなりませんか。

 日本では、社外取締役の報酬水準は、大手企業で一千数百万円、中小企業で数百万円が平均。個室や秘書、専用車も必要なく、顧問や相談役を置くより負担は軽い。社外取締役を導入し、社会的信用が高まれば国際競争力の向上にもつながる。企業にとって高いコストとはいえない。日本の経営者には、まだまだ積極的に導入する姿勢が欠けている。


 株主・消費者大切に

 生え抜きの取締役は、経営トップに対して率直に物が言いにくい。サラリーマン社会ではそれが人情だろう。風通しの良い社内風土を―との掛け声もよく聞く。が、自己改革が非常に困難なことは、誰もが知っている。だからこそ、田村氏は社外取締役の積極活用を提唱する。自らも五社で務めている。

 田村氏が代表理事を務める全国社外取締役ネットワークには現在、約百二十人が社外取締役を希望して登録。これまでに数人を企業に橋渡しした実績もある。ただ、経済界には依然として社外取締役導入に異を唱える声も少なくない。

 企業のトップに上り詰めた社長には、経営に対する自負が強く、「部外者に任せられるか。無責任」との意識が見える。だが、自負が過信に変わり、経営を揺るがす不祥事へと発展していった例は後を絶たない。国内企業をみると、株主、消費者本位の経営を謙虚に問い直す姿勢がまだ十分でない気がしてならない。それが確かな流れになったときには、社外取締役の導入はぐっと増えるはずだ。

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「社外取締役は、企業活動の透明性を高める」と語る田村氏(東京都港区のネットワーク事務局)
 たむら・たつや 1961年、東京大卒。日本銀行に入行し、欧州代表、企画、営業各局長を経て92年から4年間、理事を務めた。現在は独立し、グローバル経営研究所代表。社外取締役の活動をサポートする全国社外取締役ネットワーク代表理事のほか、オリックス、スルガ銀行など5社の社外取締役、経済同友会幹事も兼務する。「コーポレート・ガバナンス」など著書多数。広島市中区出身。65歳。
社外取締役 自社以外から人材を起用した取締役。社外のしがらみにとらわれず経営を監視し、株主の視点による行動が求められる。その趣旨を生かすため、親会社からの派遣だけでなく、利害関係のない他企業の役員や学識経験者を招くなど、人材選定の多様化が進む。
 商法は要件について、その会社の業務を執行しない▽その会社、または子会社の業務を執行する取締役、執行役、支配人や使用人でなく、過去もその職に就いていないこと―と定めている。

改正商法 複数の社外取締役を中心とする米国型の企業統治の仕組みが、2003年4月施行の改正商法で導入された。「委員会等設置会社」と呼び、従来の監査役制度との選択が可能になった。資本金5億円以上か負債総額200億円以上の企業が条件で、対象は1万社といわれる。
 設置会社では、取締役の選・解任を決める「指名」▽監査役の役割を担う「監査」▽役員報酬を決める「報酬」―三委員会の設置を義務化。全員が取締役の委員のうち、過半数は社外取締役にする必要がある。日本監査役協会によると、設置会社に移行した企業はソニー、東芝、日立製作所といった上場企業を中心に97社に上る。

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