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2004/12/12
高齢化社会と定年延長 精神科医師 和田秀樹氏に聞く

経験豊か 優れた即戦力

 いま、先進国の中でも類を見ないスピードで高齢化する日本。少子化も進み、労働力不足も指摘され始めている。健康状態が良く、六十歳前後の就業率は世界で最も高いにもかかわらず、大半の企業の定年は六十歳のままだ。公的年金の支給開始年齢が段階的に六十五歳に引き上げられる中、さらなる高齢者の活用を主張する精神科医師の和田秀樹氏に、定年延長の在り方を聞いた。

(東京支社・村上昭徳)

賃金抑え 余暇充実促す 年金・医療費にも好影響

 ―定年延長をすべきだと主張されています。その理由は。

 いわゆる七十五歳ぐらいまでは老人扱いする必要がなく、定年延長しても十分耐えられると考える。知的、運動能力は七十五歳ぐらいまでは、そんなに落ちるものではない。健康状態もレベル的には、四十―五十歳代の能力と大差はない。それらの人たちを「ヤング・オールド」と呼ぶ。

 世界的に見ても日本の高齢者の就労意欲は極めて高い。働きたいという高齢者をなるべく社会に組み入れていくことは、労働力不足の解消にも役立つ。高齢者の定義そのものを変えるべき時期にきているのではないか。

機能低下せず

 ―知的、運動能力の衰えが少ないという具体的な事例はありますか。

 例えば、世論に大きな影響を与える月刊オピニオン誌では、読者の平均年齢が六十七歳という調査がある。当然、八十歳代の人も読者にいるわけで、字が細かく、難しい本を読んでいる。身体的、精神的な機能レベルの低下は、老化ではあまり起こらないという実例だ。それらの機能は使い続ければ、なかなか低下しない。情報技術(IT)化や自動化が進む現代社会においては、高齢者が働き続けることは十分可能と考える。

 ―高齢者が働き続けるメリットは。

 高齢者の就業率と老人医療費は密接に関連しているという国のデータがある。就業率が低い福岡、大阪、北海道では、一人当たりの高齢者の医療費が高い。一方、就業率の高い長野、山梨では医療費が安いという。働くことによって健康長寿が保たれる実例だ。破たん寸前ともいわれる年金財政の今後にも、好影響をもたらすだろうし、医療費も下がる可能性が高い。健康長寿にもつながるなど相乗効果が期待できる。

 ―雇い入れる企業側にとっての利点は。

 経験によって蓄積される「結晶性知能」は、高齢者であろうと、生涯を通して上がっていく。野球で言えば、まさに即戦力を入れるのと同じ。若い人を育てるには時間が相当かかるので、それに比べると企業にとっても有用だ。

 また、人口の高齢化は、お客さんの高齢化でもある。そこを無視してはいけない。いまだに企業や広告代理店が、若者を中心にマーケティングを考えているのは間違い。高齢者の意見や知恵をもっと生かす方が妥当だ。

 ―定年間際の高賃金が定年延長や再雇用の妨げになりませんか。

 六十歳を過ぎた人たちは、子育てや住宅ローンが終わっており、労働単価を下げやすく、「価格競争力」はある。定年延長、再雇用いずれの場合でも、企業にとって、好条件で能力がある人を雇える環境が整っているといえる。同じ能力、賃金であれば年齢を理由に雇用差別を禁じる、米国、カナダなどで立法化されている年齢差別禁止法の導入も提唱したい。

段階的な引退

 ―具体的にはどんな仕事が向いていますか。

 カウンセリングや人から話を聞く、マネジメントの職業は高齢になってからの適役といえる。例えば野球。選手を指導する監督やコーチは、年俸では選手に劣っている。いわゆる管理職をポストという位置付けにするのではなく、職能や機能と考えれば、高齢者雇用イコール高賃金という問題は解消できる。

 また、段階的な引退という人生のソフトランディングを勧めたい。賃金を低く抑える代わりに仕事時間を短くし、引退後に楽しめる趣味や遊びを空いた時間に見つけておくこと。職場を離れると仲間や友達を失ってしまうケースでは、心理的なダメージが大きい。

 ―高齢者が安心してお金を使える社会の実現が課題ですね。

 高齢者の可処分所得はかなり高い。個人金融資産の一部でも消費に回してもらえれば、景気浮揚策になる。彼らがお金を使えば、高齢者向けの産業の創出につながる。将来は世界中が高齢社会になるわけで、日本にとって有力な輸出商品になる。

 いま、高齢者を消費者とみなさない風潮こそ問題。お年寄りがお金を使って楽しい暮らしを送れば、若い世代も将来に希望が持てる。高齢者には、消費者としても現役でいてほしい。社会のために、自身のために遊んで、と言いたい。


 世代間競争が刺激に

 約千四百兆円に上る国内の個人金融資産。その七割を、六十五歳以上の高齢者が保有しているという。一部が消費に回れば、なけなしの税金を使う公共工事よりも、景気浮揚効果があるのは、和田氏の指摘通りだろう。

 ただ、日本では、高齢者が、活発に遊ぶのを良しとしない風潮が、少なからず残っている。それを払しょくするには、現役世代のわれわれが、価値観を変えなければいけないと思う。

 国際競争力ランキングでは、フィンランドやスウェーデン、デンマークといった高福祉国家が上位に入っている。高齢者が安心してお金を使える社会になればなるほど、競争力も高まるという実例といえる。

 日本が、少子高齢化社会といわれて久しい。それを嘆くより、いち早く高齢者を生かす策を講じるべきだ。定年延長、再雇用、高齢者をターゲットにした消費拡大…。若者と高齢者が競い合う雇用環境の創出も、それぞれの世代を前向きにして、いい刺激になるのではないか。

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「高齢者が働き、遊ぶことが、これからの社会を活性化させる」と語る和田氏(東京・渋谷区の事務所)
 わだ・ひでき 1985年、東京大医学部を卒業。同医学部付属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、老人医療専門の浴風会病院勤務を経て、日本初の心理学ビジネスのシンクタンクであるヒデキ・ワダ・インスティテュート代表。「間違いだらけの老人医療と介護」など著書多数。大阪市出身。44歳。
ヤング・オールド 米国シカゴ大で老年医学の権威者とされるベルニース・ニューガートン教授は1974年、高齢者の呼び方を、さまざまな統計や経験上の知見を基に定義した。

 ケアや特別な医療が必要な高齢者と、そうでない元気な高齢者がいることに着目。元気な高齢者が多い75歳までの層は、中高年の延長であって体力、知力的に変わらないことから、「ヤング・オールド」と呼んだ。

 一方、75歳を過ぎ、要介護になる人数が上昇傾向を見せる世代を「オールド・オールド」とした。さらに、本格的な要介護が一般的になり、その比率が急カーブを見せる85歳以上を「オールデスト・オールド」と呼ぶ概念もある。


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