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2005/1/9
環境税 早期実現を提言
「環境・持続社会」研究センター事務局長 足立治郎氏に聞く

産官民ともに理解を

 地球温暖化の防止を目指す京都議定書は二月に発効し、二酸化炭素(CO2)など、温室効果ガスの削減が正式な義務になる。エネルギー消費の抑制は待ったなしだ。だが、その対策として税制改正の焦点となった「環境税」に産業界が反発。二〇〇五年度の導入は見送られた。特定非営利活動法人「環境・持続社会」研究センター(東京)の足立治郎事務局長に、民間シンクタンクの立場から環境税の早期実現を提言する理由を聞いた。

(東京支社・長田浩昌)

「減税と一体」も選択肢 CO2削減 規制頼みに限界

 ―なぜ環境税が必要だと考えるのですか。

 日本は京都議定書で、温室効果ガスの二〇〇八年から五年間の平均排出量を、一九九〇年比6%減にする、と約束した。しかし、〇三年速報では逆に8%増え、14%のギャップが生じている。議定書を採択した会議の議長国としても、新たな対策は急務といえる。

 ただ、これまでの環境政策の主流だった排出者に対する規制的手法のみでは、温室効果ガスの大部分を占めるCO2の削減は不可能。発生源となる石油、石炭などの化石燃料に課税し、あらゆる企業、個人にエネルギー消費を抑える動機付けを与えるべきだ。努力すれば経済的に得をするという、政策シグナルを出していく意義は大きい。

鈍い国の対応

 ―環境省は具体案を公表し、〇五年度導入を目指しました。政府の姿勢をどう評価しますか。

 残念ながら、遅れていると言わざるを得ない。欧州では九〇年のフィンランドを最初に、北欧各国が導入。ドイツ、イタリア、イギリスも議定書採択(九七年)にすぐ反応し、九九年から〇一年にかけて制度化した。しかし、日本は、ロシアが批准を決めたことで発効が確実になった昨年秋になって、急速に動きだしたというのが実情だ。

 環境省は一昨年八月、炭素一トン当たり三千四百円を課税する案を公表。今回の税制改正では、産業界や経済産業省などの反対意見に配慮し、税額を同二千四百円まで引き下げた案を、あらためて示した。ガソリン一リットル換算で一・五円となり、税収は温暖化対策のほか、三割程度を減税に充てる内容だ。一方、与党の自民党も農林水産、環境両部会が炭素一トン当たり三千円を課税し、全額を温暖化対策に使う独自案を示した。確かに前進とは思うが、両案とも十分練れているとは言い難い。

議論なく軽減

 ―そう考える具体的な理由を教えてください。

 まず、この税率では、課税によるCO2の排出抑制効果があまり期待できない。より高率の課税が必要であり、炭素一トン当たり六千円以上、ガソリン一リットル当たり四円以上に設定すべきだ。

 産業の国際競争力に配慮した軽減措置は、一方で課税の公平性を損なう。導入には十分な検討が必要。今回の案に、軽油の税率を二分の一にするなどの措置がよく議論されないまま盛り込まれていた。税収を温暖化対策に回すとしても、その成果を客観的に評価、検証するためのシステムが同時に示されていないため、説得力が乏しかった。

 欧州では、環境税が必ずしも増税に結びついていない。同時に他の税を減税して政府の歳入全体は増やさない「税収中立型」を選択しているからだ。関係省庁は税収の奪い合いでなく、総合的な政策づくりの観点から、この選択肢も検討しなくてはならない。これらのポイントを踏まえた制度案は、他の環境団体や研究者、税理士らとつくっている研究会ですでにまとめ、環境省や政党にも提案している。

 ―結局、環境税の検討は〇六年度の税制改正まで続きます。国民はどう向き合うべきですか。

 CO2を最も排出するのは産業部門であり、当然企業にはさらなる削減が求められる。ただ、排出量が増加しているのは、むしろ家庭、旅客部門。そのことを認識し、環境税に賛同してほしい。排出削減が達成できれば、議定書から離脱した米国にも発言できる。国際的なリーダーシップを発揮してもらいたい。

 ―今後はどう取り組みますか。

 さらに提言を練り直し、広く理解を求める。三月までに都内でシンポジウムを二回開き、関心の高い国会議員にも参加を呼びかけて機運を高めたい。CO2削減につながる制度が少しでも早くスタートするよう、政府や政党に働きかける。


 発想の転換を促す

 「国際公約」の達成を迫られて重い腰を上げた環境省に対し、産業への悪影響を懸念して依然難色を示す経済産業省―。足立氏が発する言葉の端々からにじむのは、各省庁の思惑が絡んで、環境税の統一方針が打ち出せない「縦割り政府」へのもどかしさだ。

 「地球温暖化の防止に貢献する企業ほど得をしていく。それこそが環境税」。導入を警戒する経営サイドに、足立氏はこうメッセージを送って発想の転換を促す。「英国では産業界のリーダーが導入を主導した。もっと前向きにとらえるべきだ」とも。

 最近の異常気象に不安を感じている人は多いはず。その原因に温暖化が無関係とは言えず、エネルギー節約を個々の努力だけに頼る段階ではないとの論は年々、説得力を増す。CO2削減の活路を税制に求めるかどうか。是非を真剣に考える責任は、排出者である国民一人ひとりにある。そこで生まれた世論は、政府や産業界の判断にも影響を与えるはずだ。

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「エネルギーの消費抑制に努力した企業、市民が得をする税制を」と力を込める足立氏
 あだち・じろう 1992年に東京大教養学部を卒業し、東レに入社。営業、人事部を経て94年に退社。翌年から「環境・持続社会」研究センター(代表理事・古沢広祐国学院大教授)のスタッフとして活動し、03年7月に事務局長に就任した。著書に「環境税 税財政改革と持続可能な福祉社会」(築地書館)。東京都出身。37歳。
京都議定書 1997年12月に京都で開かれた気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3)で採択された国際協定。二酸化炭素、メタンなど6種類の温室効果ガスについて、先進各国の削減目標を定めた。2008年からの5年間に設定した目標は、「先進国全体で、90年比5%削減」。欧州連合(EU)8%▽米国7%▽日本6%―などとなっている。
 日本は02年に批准。最大の排出国である米国は01年、自国の経済への悪影響を理由に離脱した。昨年11月にロシアが批准し、今年2月16日の発効が決定。発効後は、批准した先進30カ国に削減目標の達成が法的に義務化される。

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