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2005/2/13
地銀は経営公約明確に 早稲田大大学院教授 川本裕子氏に聞く

数値目標の設定有効

 地方銀行の再編が進んでいない。不良債権比率が改善せず、安定した収益構造が確立できない地銀が少なくないのに、なぜか「無風地帯」だ。再編統合が激しいメガバンクとは、対照的な構図を描く。地銀の健全化の遅れが雇用に悪影響を与えている、との持論を持つ早稲田大大学院ファイナンス研究科の川本裕子教授に聞いた。

(東京支社・村上昭徳)

顧客ニーズ くむ姿勢で

 ―地方銀行の現状をどう見ますか。

 この十年ほどの間でメガバンクは大きく再編統合された。地域金融機関の中では、信用金庫が全盛期の三分の二に、信用組合は半分以下という変化を遂げたのに、六十四の地銀は、十年以上も前から変わっていない。

 過当競争体質が是正されないまま収益の低迷が続き、経営体力を弱めているのが現状といえる。多くは将来に向けた持続可能な経営モデルも構築できていない。

不振なら退出も

 ―非効率な地銀は、金融界から退出すべきだ、と主張されていますね。

 公的資金を注入したら地銀が強くなると考えるのは誤解。国民の税金を不良債権問題の処理に使う場合には、国民負担が最少になるよう、第三者が、政策の選択肢を客観的に評価できる仕組みを確立する必要がある。

 同じ税金を使うのであれば、経営不振銀行は破たん処理して退出させた方が、資本注入で経営を維持するよりも、国民負担は結局少なくなることが多い。今の日本の仕組みでは、非効率な銀行を温存することに貴重な税金が使われ、赤字垂れ流しになる恐れをきちんとチェックできるのか、懸念が強い。

 安易な銀行救済から発生する問題は、国民負担の大きさだけではない。経営不振銀行が貸し付けている、生産性の低い事業会社の延命にもつながる。これは雇用が維持されると思われがちだが、むしろ地域経済を停滞させる元凶と考えられる。生産性が低い企業が放置されれば、そこに資本が固定され、本来効率的な企業の伸びが抑えられてしまう。

 人々が良い仕事に就くチャンスを奪い、事業再編の妨げになる。地銀が不良債権比率を削減し、希望のもてる新事業にもっと貸し付けを増やすことが可能となれば、外から人が来るし、若者の雇用も増えるだろう。

 ―地銀は、融資先である中小企業とつながりが深いのは言うまでもありません。今後、中小企業への対応はどうあるべきですか。

 中小企業すべての会社を十把ひとからげにしないことが出発点。業種や規模、経営者の資質、将来性など千差万別であって、顧客ごとの視点に立ったつきあい方が必要。地域金融機関と中小企業が一体となって経済再生を目指す「リレーションシップバンキング」を金融庁が打ち出した。概念自体は、これまでにもあった。今後はそれを発展させ、顧客ニーズを細かくくみ上げる姿勢が欠かせない。

 また、つきあいが長いからとの理由だけで融資を続けるべきではない。「約束を守る」「借りたお金は返す」を実践できない企業を退出させることも、立派な金融機関の社会的使命ではないか。

 ―ただ、銀行には公益性が求められるため、収益性だけで判断するべきでない、とする意見もあります。

 公益性を否定するわけではない。ただ、これまで、公益性という言葉が経営の失敗の言い訳に使われてこなかっただろうか、と言いたい。公益性と言っても、社会のとらえ方は非常に幅広い。それを言うのなら、公益性に関するルールや規制基準を明確にした上で、議論しなくてはならない。

遅すぎた「解禁」

 ―政府が元本・利子一千万円までの払い戻しを保証するペイオフが四月から全面解禁されます。地銀に与える影響をどう見ていますか。

 ペイオフ解禁まで七年もかかってしまった。タイミングが遅すぎたぐらいだ。四度の延期は諸外国から見ると異常だし、信頼を失った。決済用預金という抜け道はあるものの、利用者がより安心できる預け先を求めていくのは確実だろう。解禁によって、地銀に経営規律が強く働くことを期待している。

 ―地銀に求められる将来像を。

 中小企業と個人向けの業務が、両輪になるのは間違いない。リスクに見合った金利設定や、付加価値のあるサービス、商品を提供したうえで、それに見合った合理的な対価を求める経営姿勢が必要だ。顧客ニーズに対応して購買意欲を刺激し、持続的な収益確保を目指してほしい。

 そして何より、経営者が、不良債権比率の改善など、経営の数値目標を公約することが重要だ。出処進退をかける決意を公言しなければ、信頼回復は困難という危機意識を持ってもらわなくては困る。そうしなければ国民負担も減らないし、銀行界に明るい未来もないだろう。


 利用者がチェックを

 「再生不能な企業は市場から退場すべきだ。資本主義で当たり前のルールが、日本ではこれまで守られてこなかった」。川本氏の指摘は、不況にあえぐ地方経済界には冷たい響きも持つが、本質をついている。それだけに、特に地銀の経営者は謙虚に受け止める必要がある。

 企業倒産が後を絶たない中で、公的資金の注入を受けて生き延びていく銀行の姿勢に疑問を持つ国民は少なくない。金融システム安定化と預金者保護の観点から、国民負担である公的資金の注入が避けられないケースがあるのも事実だろう。だが、国は説明責任を十分果たし、銀行自身は真に反省して経営再建に取り組んできただろうか。

 川本氏は「コミットメント(経営公約)を掲げるべきだ」と提唱する。まったく同感だ。銀行が明確な経営ビジョンを示さないままで、融資先にどんなきれいごとを言っても、絵空事にしか聞こえない。ペイオフの全面解禁が目前に迫る。利用者の側も、一人ひとりが株主のつもりで金融機関をチェックする姿勢が必要になってくる。

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「出処進退をかけた経営者の公約が、信頼回復への近道」と語る川本氏(東京・港区)
 かわもと・ゆうこ 1982年、東京大文学部卒業。88年オックスフォード大大学院修士課程を修了し、マッキンゼー・アンド・カンパニー東京支社へ入社した。その後、道路関係四公団民営化推進委員会委員などを歴任。現在、大阪証券取引所社外取締役、広島市公共事業あり方検討委員会委員も務める。「銀行収益革命」「日本を変える」など著書多数。東京都出身。
リレーションシップバンキング 地域金融機関が融資先企業の情報を十分把握した上で、経営相談や貸し出しなどの金融サービスを提供する地域密着型の銀行モデル。金融機関が顧客との長期的な関係を継続することが前提となる。
 過度の担保依存や、表面的な収益力による安易な経営判断を避けるのが特徴。借り手側の経営手腕、事業理念や将来性など、定量化が難しい情報を考慮して融資する。地域経済を担う中小企業への資金供給の円滑化のほか、貸し手・借り手双方の健全性の確保といったメリットがある。
 2003年3月、金融庁は、リレーションシップバンキングのアクションプログラムを公表。中小・地域金融機関に対して、04年度までの2年間を収益強化や融資先企業の再生に当たる集中改善期間と位置付けた。全国626の地域金融機関が、機能強化計画を提出した。人材育成やビジネスマッチングなどの取り組みが目立つ。

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