2005.1.18
1. スーパー演出 常識打破

若者ファンを開拓

 舞台が突然、真っ暗になった。恐ろしい形相の面が浮かび上がる。そして、天を突き刺すように二本の角が伸びた。

Photo
あやしげに浮かび上がる鬼の面と角。幻想的な雰囲気が、舞を際立たせる(千代田町)
《スーパー神楽の主な歴史》
1992年 9月 演目「板蓋宮」を発表
94年 9月 演目「天の香具山」を発表
96年 9月 演目「青葉の笛」を発表
2003年10月 ロシア・サンクトペテルブルク市の建都300周年記念祭に出演
04年 4月 東京の国立劇場で文化庁の「日韓芸能交流公演」に出演
9月 演目「紅葉狩」を発表

 千代田町の中川戸神楽団の「紅葉狩(もみじがり)」。初演の昨年九月、町民の話題の中心を占め、ホームページには仕掛けをめぐる書き込みが相次いだ。

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 スーパー神楽。一九九二年、創作した演目「板蓋宮(いたぶきのみや)」を発表したころから、こう呼ばれるようになった。特殊な照明を使って、面を闇に浮かせる。火を噴く面を宙に飛ばす。従来の神楽の常識を覆した。

 「面白い神楽をしたい」。この思いが、戦後生まれの派手な新舞に、より創造性を加えた。

 「普段、神楽を見ないような若者のファンを開拓し、神楽ブームに火を付けた」。同団を追い続ける同町川戸の会社員河内聰さん(52)は振り返る。ファンだけでない。練習場に「打倒中川戸」というビラを張り、猛練習に励む団も現れた。

 半面、「伝統を無視したショー。中川戸は神楽じゃない」と批判も招いた。スーパー神楽に取り組む十年余り、主な競演大会ではなかなか優勝できない。会場でわき上がる拍手に反し、「無冠の帝王」が続く。

 「くじけずに、やりたい神楽を追求するのがうちのカラー」。中川戸神楽団の海佐誠相談役(42)は信念を崩さない。四作目の紅葉狩を作ったのは、一作目の板蓋宮を見て入団した若い団員たちだった。

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 「板蓋宮に勝るスーパー神楽を自分たちの手で作りたい」。松田大地さん(26)は、山田稔さん(36)と伝説を研究し、時代背景を調べ、独自の紅葉狩を作り上げた。登場する人物の心の変化にこだわり、めりはりをつけた演出を目指した。

 面の角が伸びる仕掛けは、倉本浩之副団長(38)が四カ月がかりで考えた。やはり板蓋宮を見て追っかけファンになり、入団。住居も広島市内から千代田町へ移した。「あっと驚く演出を楽しんで作れば、客に喜んでもらえる」と笑う。

 「面や衣装の早変わりは、昔は批判があっただろうが、今ではスタンダード」と能海剛団長(35)。「昔のまま舞わないと駄目、というのはおかしい」。舞台の魅力を高める創作力を重くみる。


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