2005.9.21
1. 魅力全国へ ビデオ5000本

すそ野拡大 一役担う

 安芸高田市高宮町で八月中旬にあった「ふるさと高宮神楽鑑賞会」の舞台裏。「二カメもう少しアップ」「右に振って、太鼓も入れて」。神楽専門のビデオを制作する北広島町有田の有限会社「キャビネット」の梶原一司社長(48)が、無線機で指示を飛ばす。

Photo
神楽大会の舞台裏で、画面を巧みに切り替える梶原社長

 激しく回転する舞手や、優雅に神楽歌を歌うはやし方―。リアルタイムに映し出される三台のモニター画面をにらみながら、梶原社長がテンポ良く、ダイナミックに画面を切り替える。「持ち帰って編集したら、倍以上の経費がかかる。まさに集中力との戦い」。充血した目が、現場編集の厳しさを物語っていた。

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 「生の舞台を見られない人に神楽の臨場感を伝えたい」。町内の企業でビデオ制作などに携わった後、一九九四年、知人と三人で独立した。当時、神楽大会では会場の電源が落ちるトラブルが起き、ビデオ撮影を禁止するケースが増えていた。家庭で楽しみたい人のため、業者の撮影だけは特別に許す大会があった。

 北広島町で生まれた。団員として舞った経験はないが、芸北地方の神楽は「内容が分からなくても、派手な衣装や演出が楽しめる」との確信があった。小さいころから見てきた神楽は「同じ団の演目でも舞手が違えば仕上がりが変わる」。その実感を頼りに、一本三千円前後で百本単位のビデオを制作する少量多品種のビジネスにかけた。

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 ビデオの弊害を指摘する団員たちは少なくなかった。「人気神楽団をまねするようになり、どこも同じ舞になった」「ビデオが出回れば、大会の来場者も減る」。先輩の所作を見て盗み、団として独自の舞を継承してきた自負があるからだ。

 梶原社長は「舞に影響を与える可能性はある。だが、ファンには喜んでもらっている」と反論する。逆に、舞が変わっていないかビデオで見比べられると強調し、「要は使い方次第。普及すれば大会や神楽団の宣伝にもなる」と力を込める。

 神楽を全国発信しようと九六年にインターネット販売を始めた。二〇〇〇年から広島、島根県の郵便局に注文書を置き、過疎地の高齢者が都市の孫たちにビデオを送れるようにした。販売は五千本を超え、〇二年度からは黒字も出始めた。

 「一時代を築いた神楽団OBへのインタビューや、舞われなくなった演目を集めたビデオにも挑戦したい」。経営が軌道に乗り、新たな需要開拓に意欲をみせる。


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