高齢者や女性が大半
黄金色の稲穂が連なる田園地帯を、バスが駆け抜ける。「いよいよ神楽シーズンが到来しました。メジャー級の神楽団に、新舞、旧舞ともに頑張ってもらいましょう」。神楽ファン十五人を乗せた車内に、添乗員のアナウンスが響く。
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バスの車内で、宮本助役(左端)から神楽大会の見どころを聞く参加者たち
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中国ジェイアールバス広島支店(広島市安佐北区)の日帰り「神楽ツアー」。県内最古の西中国選抜神楽競演大会があった十日、バスは南区のJR広島駅から、会場の安芸太田町加計体育館へ向かった。
「ドン、ドドン」。間もなく、車内のテレビから、はやしの音色が聞こえてきた。本番を待ちきれないファンは、神楽のビデオにくぎ付けになる。うち一人の女性客が、仲良くなった乗客に菓子を配り出すと「元気よく舞うだけではつまらない」「口上の声がすてき」。約一時間の車中、神楽談議が続いた。
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ツアーを始めたのは、神楽大会を毎年開く北広島町大朝の鳴滝露天温泉からの依頼がきっかけだった。温泉への日帰りバスを走らせるなど以前からの実績を生かし、一九九九年に試験運行。予想以上に好評だった。
翌二〇〇〇年から、安芸太田町の安野神楽団の団員で、同社の宮本千春助役(49)を神楽ツアーの担当に据え、本格的に取り組んだ。コースも、西中国選抜神楽競演大会や北広島町の芸石神楽競演大会など四コースに増やし、利用者の選択の幅を広げた。一コースを年一回ずつ実施する。
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「神楽鑑賞は、場所取りが命」。宮本助役は毎回、入場券が発売される前日の午後三時ごろから翌朝まで、社員二、三人と泊まり込み、目当ての席を入手する。常連の約五十人にはがきを送る宣伝だけで、毎年安定して計約百人の利用者が集まるという。
料金は、入場券や弁当代を含め一人五千〜一万円。収支は「トントンか若干のプラス」。秋の行楽シーズンに重なり「もっと収益が上がる別のツアーへ切り替える案もある」というが、それでも神楽ツアーにこだわる背景には、高齢者や女性が利用者の大半を占めている現状がある。
常連の一人、広島市東区温品の主婦谷川津麻子さん(67)は、車の免許を持っていない。「バスがなければ神楽を見られない。知人を気軽に誘え、知り合いも増える」と神楽バスを頼りにする。
約二十年間休止していた神楽団を復活させ、今も現役で舞い続ける宮本助役は「運転を気にせず酒を飲め、誰もが気軽に神楽の臨場感を楽しめる。隣の人と仲間意識も芽生え、交流も生まれる―。そんな機会を提供したい」。趣味と実益の両面から、神楽の魅力を発信し続ける。
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