アマ芸能の最高峰に
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「保存と変革のジレンマは伝統芸能の常。無理しすぎないのが肝心」と語る新谷教授
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―「ひろしま神楽」の特徴は何でしょうか。
歌舞伎は中世末期から近世にかけて、能や狂言は中世に、いずれも京都から全国に広がっていった。文化は普通、都市から農村に伝わっていくものだが、神楽の場合は逆だ。中国山地から、広島市などの都市に広がっていく珍しい現象が起きており、とても興味深い。
―具体的には、どんな流れですか。
北広島町川戸の中川戸神楽団が一九九三年、広島市中区のアステールプラザで自主公演をしたのが象徴的だ。高度成長期には若者が農村から都市へ流出し、神楽は危機に陥ったが、演出を工夫したスーパー神楽が誕生。農村から飛び出し、都市のファンに歓迎され、息を吹き返した。郡部だけでなく、広島市北部にも神楽団が増えてきた。
■多様性を生み出す
―約十年前、芸北地方の神楽団などを記録した映画「芸北神楽民俗誌」を制作されました。状況は変わりましたか。
映画では、伝統の継承や保存に悩む神楽団や、伝統のからを破り、スーパー神楽をつくりあげたばかりの神楽団などを追い掛けた。かつて民俗学は「古い形をどれだけ伝えているか」に研究の関心が集中していた。私は自分の故郷の新しい動きを記録したかった。
歌舞伎からスーパー歌舞伎も生まれた。芸能は観客に反応して変化していくものだ。スーパー神楽は十年以上健在で、一つの伝統がつくられたと評価しても良いのではないか。逆に従来の神楽を守り続けたい神楽団にも意地が出てきた。神楽のビジネス化を志向する人がいる一方、神社にこだわる動きもあるなど、多様性を生み出している。
■地域色薄まり懸念
―課題は何ですか。
観客の目は肥えてくる。スパイスの効いたカレーばかり食べていれば、お茶漬けも食べたくなる。演目を創作し、バリエーションを持たせたり、こだわりの演目を磨いたり、神楽団の個性化が求められるだろう。
新しい動きを求めるのは大切だが、度を越すと活動に地域色が薄くなり、団員や家族の生活などにゆがみを及ぼす可能性も否定できない。働きながら取り組む芸能である以上、あまり広く展開せず、地域に根差したアマチュア芸能の最高峰を目指すべきではないか。
―神楽研究の今後は。
芸北地方の神楽は庄原市の比婆荒神神楽や広島市などの十二神祇神楽と比べて歴史が浅いため、無視されがちだった。若い学生たちは歴史の古さばかりでなく、現代の社会生活にどんな影響を与えているかという観点からも研究を進め、新しい領域を開拓してほしい。
東京都昭島市在住。北広島町蔵迫出身。専門は民俗学。1998年から、国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)の教授。97年3月、「伝承」「創造」「花」の3部構成の研究記録映画「芸北神楽民俗誌」を作った。
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