表現磨き豊かな音色を
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「表現の幅を広げ、会場と一体となれる瞬間を味わってほしい」と力を込める福原さん
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―安芸太田町の小板神楽団の団員として笛を吹かれています。どんな工夫をされてますか。
鬼や大蛇が登場する時に、鋭く甲高い音が鳴る、能で用いる「能管」を吹いたり、通常では使わない高音を試したり、演奏会で良いフレーズを聞けば、アレンジして神楽の中に仕込むなど楽しんでいる。伝統を壊すつもりはないが、豊かな表現を目指している。
―二〇〇〇年に七夕、〇二年にかぐや姫を題材に創作神楽を発表されました。狙いは何ですか。
以前から、神楽の根本は崩さず、笛を主体にした作品を考えていた。笛の独奏だけで、登場人物の心情を表現する場面も盛り込んだ。師匠の人間国宝の寶(たから)山左衛門(六代目福原百之助)さんから「東京へ持って行っても大丈夫」とほめてもらい、自信になった。
■独特の緊張感存在
―神楽笛にリコーダーのような吹き口で簡単に音が出る笛も普及しています。どう思いますか。
誰が吹いても、ほぼ同じ単調な音が出る。笛を吹けなくなったお年寄りには有用だが、すぐ鳴るからと安易に飛びついてほしくない。吹き手の唇の形や堅さ、環境によって音色は異なるはずなのに、その魅力が奪われてしまい、もったいない。
舞台に上がればのどは渇くし、唇は硬くなる。吹く寸前まで、本当に音が鳴るか、どんな音色になるのか分からない独特の緊張感がある。笛には舞台に神を迎える意味が込められているとされ、神楽は笛で始まり、笛で終わる。静寂を破り、自分の信じた音色を響き渡らせるやりがいがある。
■舞と観客を一体に
―神楽における、はやしの役割は何ですか。
花形は舞い手。はやしは文字通り、舞い手をはやし立て、鼓舞する役目がある。しかし、神楽全体を決めるのは、大太鼓だと言っても過言ではない。オーケストラでいう指揮者の立場だ。舞の流れをすべて頭に入れた大太鼓がはやしを形作り、舞い手を導き、観客を含めた三者が一体となった独特の高揚した雰囲気を作り上げている。
―能や歌舞伎であまり見ない手打ちがねがあります。特徴を生かすために何が必要でしょうか。
太鼓は心臓の鼓動に似た低い音だが、手打ちがねはかなり高音域。小太鼓と同じリズムでも、空気を切り込む金属音は、音楽にめりはりが生まれる。持ち方や打ち方で音色が変わり、音を鳴らすのも難しい。手打ちがねなしで奏でると、全体が拍子抜けするだろう。
神楽ばやしは小さな音までこだわり、舞と同様に神経を注ぐべきだ。太鼓でも打つスピードや角度、場所、強さなど表現の幅は無限にある。単調ではない音を目指し、表現を磨き続けてほしい。
安芸太田町小板在住。広島市西区出身。人間国宝の寶山左衛門さん(東京在住)に1991年から師事し、96年にプロになった。国内外での演奏活動に加え、宮島町の存光寺で篠笛教室も主宰している。
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