欧米からの報告 原子力を問う
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<1> ドイツの脱原発 全廃へ多難な道 (1)
全廃へ多難な道
雇用の場消え、沈む立地地域 深刻な人口流出も
廃炉…その時何が
 
 ドイツで運転中の原発は十四カ所、計十九基。早ければ二〇二一年にもすべて停止する。その時、地域はどうなるのか。一九八九年のベルリンの壁の崩壊で運転をストップし、五基解体という世界最大規模の廃炉作業が進むグライフスバルト原発に、立地地域の近未来の姿を見た。

 ▽4000億円の作業費用

 ポーランド国境に近い旧東独地域でバルト海に面する人口六万人のグライフスバルト市。その東部にエナジーヴェルケ・ノルド(EWN)社が運転してきたグライフスバルト原発がある。

 旧ソ連型の軽水炉で、一基当たりの出力は四十四万キロワット。百万キロワットを超える今の時代からすれば小型である。敷地の広さは三百六十ヘクタール。五つの発電用タービンが入る建屋は全長一・二キロに及ぶ。

 廃炉作業は九五年からスタートし、二〇〇九年で終える計画である。五基合わせて百八十万トンに上る原子炉の解体部品や建物の廃材などは、十七人が働く測定場で放射線量を測ってから分別、処分されている。

 測定場では、フォークリフトが百―二百キロずつ解体部品などを運び、測定装置に入れる。一回につき三十六秒で判定。放射線量がゼロの鉄材などは外部の鉄くず業者などに売却される。低レベル放射性廃棄物は埋め立て処分される。

 中レベル廃棄物は敷地内に建てた中間貯蔵施設に運ばれて保管。高レベルの核燃料五千体は専用容器(キャスク)に入れられ、当面は3号機で中間貯蔵されている。

 現在、2号機と5号機は95%まで解体されており、原発全体の進ちょく率は70%。ただ、原子炉の中核設備である圧力容器は手付かずである。廃炉作業の費用は、総額四千億円に上るという。

 「かつては東欧一の原子力センターであり、われわれ従業員は誇りに思っていた」。七三年の1号機の運転開始から九〇年の運転停止まで、EWN社技術開発部門のトップを務めたマンフレッド・ミューラー博士はしみじみと語る。今は広報担当を務めている。

 ▽運転19日で停止に

 当初は計八基を設ける計画だったが、八九年に5号機が完成したところで壁が崩壊。それから半年の間に、社会主義政権下で操業していた国有の化学やアルミニウムなどの工場がほとんどストップし、旧東独の電力需要は一気に40%も減少した。グライフスバルト原発だけで電力の11%を賄っていただけに、停止を余儀なくされた。

 さらに当時の西独のコール政権から「東独の原子炉は旧ソ連型で安全性に問題がある」とも指摘された。翌九〇年春に1―4号機に続いて最新の5号機も停止した。営業運転開始から、わずか十九日だった。

 「この地域で最大の働く場がなくなってしまい、村の若者の多くが仕事を求めて旧西独地域へと去った。村はまるで墓場のような感じ」。原発に隣接する人口千九百人のルブミン村のマティアス・ライツ村長は嘆く。

 九〇年には社員六千人、下請けも含め計一万五千人が働いていた。今は廃炉作業に従事する千三百人と十分の一以下である。グライフスバルト市とルブミン村を合わせて人口はこの十二年間で二万人減少し、現在の失業率はドイツ国内の平均の二倍、19%に上るという。

 ▽政府から支援なく

 こうした現状を見越して十二年前、原発が持っている鉄道や港などのインフラを生かして新たな企業を誘致する地域活性化計画を立てた。だが、いまだ企業進出は具体化していない。

 ライツ村長は「州政府も連邦政府もこの十二年間、何もしてくれない。今の政策だと、今後はドイツ各地でも、われわれと同じような現象が起きる」と脱原子力政策が立地地域にもたらす負の側面を警告する。

 EWN社では廃炉作業の経験とノウハウを生かして、欧州で十カ所、約四百億円の原発解体プログラムを受注している。三年前からはウクライナのチェルノブイリ原発の廃棄物処理や、ロシアのウラジオストク、ムルマンスクでの原子力潜水艦の原子炉解体作業なども請け負っている。

 ただ、EWN社はグライフスバルト原発の廃炉作業が終われば、解散される予定である。他の受注プログラムもその時点で終える。残る従業員も全員解雇されることが決まっている。

 「私のように運転から廃炉まで、すべてを見届ける原子力技術者は世界でもまれでしょう」と語るミューラー博士。最後に皮肉も込めて言った。「ここでは従業員が頑張って廃炉作業が進むほど、職を失う日も早まる運命にあるのです」
原子炉5基の解体が進むグライフスバルト原発
解体した原発部品の放射線量を測定し、分別する従業員


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