欧米からの報告 原子力を問う
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<8> 米原発ビジネス 
2003/03/02
発電コスト下降 売買進み寡占化
■ 激しく競合、価格高騰 ■

 ブッシュ政権による原発推進政策への転換が始まった世界一の原発大国・米国で、原子力発電所の売買が盛んになっている。1999年のスリーマイルアイランド原発1号機をはじめ、これまでに全米103基のうち15基の所有者が入れ替わった。出力増強や設備利用率の改善などで原発の収益性が向上、投資対象としての魅力が増したためだ。電力市場の規制緩和による業界再編も絡み、大手電力会社による原発の寡占化が進んでいる。(編集委員・宮田俊範、写真も)

 
《米国の原子力発電所の売買状況》
原子力発電所 炉型 出力
(万キロワット)
買収年月 買収企業
ピルグリム BWR 69.6 1999年 7月 エンタジー
スリーマイルアイランド1号機 PWR 85.9 1999年12月 アマージェン
クリントン BWR 97.2 1999年12月 アマージェン
オイスタークリーク BWR 65.3 2000年 8月 アマージェン
ミルストン 1号機
2号機
3号機
BWR
PWR
PWR
68.9
90.8
120.9
2001年 3月 ドミニオン
インディアンポイント 1号機
2号機
3号機
PWR
PWR
PWR
28.5
97.5
102.3
2001年 9月

2001年11月
エンタジー
ジェームズ・A・
フィッツパトリック
BWR 82.9 2001年11月 エンタジー
ナインマイルポイント 1号機
2号機
BWR
BWR
63.5
116.9
2001年11月 コンステレーショネナジー
バーモントヤンキー BWR 54.0 2002年 7月 エンタジー
シーブルック 1号機 PWR 120.0 2002年11月 フロリダパワー&ライト
BWRは沸騰水型、PWRは加圧水型(日本原子力産業会議調べ)
 
 運転中に炉心が空だきになり、大惨事寸前までいった一九七九年の炉心溶融事故。原発の安全性に深刻な課題を突き付けたことで歴史に名を刻んだスリーマイルアイランド(TMI)原子力発電所は、原発売買のビジネスでも全米の先駆例として知られる。

 もともとはペンシルバニア州を中心に二百万世帯に電力供給するGPU社が所有し、原子炉は二基。事故を起こした2号機は停止したままだが、隣の1号機は二基の冷却塔から盛んに水蒸気を上げて運転している。

 その1号機を買収したのは、全米最大の電力会社エクセロンの子会社で原発の運転管理に当たるアマージェン社である。

 「原発の発電コストは今や石炭や天然ガスよりも安くなった。数多くの原発を持つことで、さらにコスト削減効果が発揮できる」とエクセロン社のクレイグ・ネスビット広報部長は説明する。

 五七年からスタートした米国の原発の商業用発電。原発の売買がビジネスとして着目されたのは、それから四十年以上たってからだった。きっかけは九〇年代の電力市場の規制緩和である。

 九二年のエネルギー政策法とそれに続く連邦エネルギー規制委員会(FERC)による一連の規制緩和措置により、発電市場の自由化や送電線の開放、電力会社の発電、送配電部門の分離などが進んだ。九八年からは電力危機を起こしたカリフォルニア州を手始めに各州で小売自由化も始まった。

 さらに原子力法で最長四十年と定められていた原発の運転期間も、九五年の規制緩和で六十年運転が可能になった。全米原子力協会(NEI)のスティーブ・ケアカス広報部長は「これまでより二十年長く運転できるようになり、減価償却も終えた原発は運転すればするほど収益が得られる魅力的な存在に変わった」と強調する。

 この流れの中、英国など海外六カ国でも事業展開していたGPU社は米国では送配電事業に特化することを決め、TMI原発1号機の売却を決定。一方、エクセロン社の前身で、同じくペンシルバニア州を拠点にしていたペコエナジー社は発電事業の強化を狙い、両社の思惑が一致した。

 九八年七月に売買で合意し、ペンシルバニア州の公益事業委員会の承認を得て翌年末に買収が完了。買収価格は発電所が三十億円、五年分の燃料が九十億円の総額百二十億円(一ドル百二十円で換算)だった。

 エクセロン社はその後もアマージェン社を通してクリントン原発、オイスタークリーク原発を買収。現在は十カ所、十七基と全米最多の原発を所有している。

 一キロワット時当たりの発電コストも一・五円前後と全米で最も低くなった。全米最多のスケールメリットと90%を超す高い設備利用率により、三年前と比べて半分の水準に下がったという。

 ライバル企業も負けていない。全米二位のエンタジー社はピルグリム原発など六基を買収して計十基、四位のドミニオン社も三基を買い取り、計六基を所有する。

 バーモントヤンキー原発の売買では、エクセロン社とエンタジー社とで競合するなど、価格も高騰している。出力一キロワット当たりの買収額は、スリーマイルアイランド原発1号機やピルグリム原発は二十―三十ドルだったが、二〇〇一年のミルストン原発では六百ドル台にアップした。それでも一キロワット当たりで千五百ドル前後はかかる建設費より安く、原発ビジネスに拍車をかける一因となっている。

 ケアカス広報部長は「現在は大手五社で全米の原発の四割を所有している。この傾向はさらに加速し、数年後にはわずか数社で全米の大半を所有するようになるのではないか」とみている。

 ▽自由化で再編加速 規模広げ出力増強

 原子力発電所の売買が増えた背景には、電力自由化時代の生き残り策として急速に進む業界再編が絡んでいる。合併や提携による電力会社の規模拡大によって、原発の基数拡大による規模のメリットが追求しやすくなったからである。

 最も象徴的な合併は二〇〇〇年十月に誕生したエクセロン社だろう。中西部のイリノイ州シカゴ市に本社を置く業界トップのユニコム社と、北東部のペンシルバニア州を拠点にする二位のペコエナジー社の組み合わせである。

 ユニコム社は従業員約一万七千人で売上高約八千五百億円。ペコエナジー社は従業員約七千人で売上高約六千億円。合併後の本社はシカゴ市に置かれ、二位のエンタジー社の二倍近い規模の巨大企業である。

 ほかにも、十位のカロライナパワー&ライト社が二〇〇〇年十一月にフロリダプログレス社を買収してプログレスエナジー社を設立し、原発五基を持つ。七位のファーストエナジー社も二〇〇一年十月、かつてTMI原発を所有していたGPU社を吸収合併し、四基を所有している。

 数社で提携するケースもある。ノーザンステイツパワー社など中西部の四社は一九九九年二月、計七基を共同運転するニュークリアマネージメント社を設立。二〇〇一年七月にはもう一社加わり、現在は九基を運転中だ。同社は「運転や点検・補修などに当たるスタッフを共同活用することで、大手に負けないコスト削減を実現している」と説明する。

 米国の電気事業者は民間、公営、協同組合などの形態があり、九九年末現在で三千百六十事業者に上る。その大半が小さな地域を賄うだけの小規模事業者だ。

 そのうち州全体や州を超えて電気を売る民間電力は二百五十社あり、全米の電力供給の75%を占める。業界再編によって現在、二百社を切る水準に減少している。

 原発を所有しているのは、その中でもトップクラスの二十七社。再編に伴って、各社はさまざまな収益アップの取り組みを加速させている。

 その一つが、発電電力量の増加に直結する原子炉の出力増強だ。蒸気発生器や電気設備の改修などにより、二〇〇一年は二十二基で百十一万キロワット、二〇〇二年も十八基で六十九万キロワットと、この二年間でほぼ百万キロワット級の原発二基の新設に相当する出力増強を実現した。

 エネルギー省は「今後五年間で、さらに二百万キロワットを超す出力増強計画がある」と明かす。

 設備利用率の改善につながる定期検査期間の短縮も進んでいる。定期検査までの運転サイクルも日本では十三カ月以内だが、十八カ月以上に延長して効率化している。

 全米原子力協会(NEI)は「最近は新設こそないが、さまざまな取り組みにより、この十年間に実質的に原発二十数基を建設したのと同じぐらい発電電力量が増えている」と分析している。

 
エクセロン社上級副社長 
ジョン・スコールズ氏


「よいビジネスチャンスがあればさらに原発を買うこともある」と語るスコールズ氏
 ■ 新設より運転延長に力 ■
 
 エクセロン社上級副社長で、子会社のアマージェン社最高経営責任者(CEO)を兼務するジョン・スコールズ氏に、米国の原発ビジネスの課題について聞いた。

 原発は本当に発電コストが安いのですか。

 その通り。ただし、事はそう簡単ではない。われわれは買収したスリーマイルアイランド原発などに対し、相当な投資をして改修した。その投資やわが社が持つ効率的な運転プログラム、経営プロセスがうまくかみあって、全米平均より三―四割低いコストを実現したのだ。原発を買いさえすればもうかるわけではない。

 スケールメリットは具体的にどうやって出しているのでしょう。

 例えば、原発の定期検査時期をずらしておき、ある原発で燃料を交換したら、そのチームが次の原発でまた交換に当たる。そうすれば、少ない要員で効率的に運用できる。結局、燃料、運転、メンテナンスや保険、税金など全体のコストを考えた場合、数が増えるほど発電コストは安くなるわけだ。

 原発の新設にも手を上げていますね。実現できますか。

 エネルギー省が二〇一〇年までに最低一基は新設する計画を掲げたから、わが社は事前調査を始めた。ただ、本当に建設する価値があるかどうか、まだ調べている段階で、建設を最終決定したわけではない。どんな原子炉を採用すれば最も経済的なのか、慎重に検討すべき課題も多い。それより、当面は既存の原発の出力を増強させたり、運転期間を延長していくことに力を入れている。販売電力をすぐ増やせるからだ。

 いずれ原発は廃炉の時期を迎えます。原発を増やすほど逆に将来のコストがかさむのでは。

 確かに、廃炉費用のコストはかさむ。今はまだ廃炉に備えた基金を積み立てている段階だが、それを少しでも早く終えれば、その心配もなくなる。費用だけでなく、効率的な廃炉技術をいろいろ考えておく必要もあるだろう。

 電力会社は今後、どのくらいの数に再編されるのでしょう。

 これからも米国の電力会社が再編によって少なくなっていくことは確実。有力企業は十社とまではいかないが、相当なレベルにまで減るだろう。今後、わが社もM&Aがあり得るし、よいビジネスチャンスがあれば、さらに原発を買うこともある。企業戦略として規模拡大を目指しているからだ。

 欧州の電力会社は海外で事業展開しています。進出する予定は。

 いや、海外に進出するつもりはない。米国だけで市場は十分すぎるほど大きいからだ。原子力は環境面では一番クリーンなエネルギーだし、将来性も十分。五十年、百年先になっても、原発がなくなるようなことは考えられない。


エクセロン社の子会社アマージェンが約120億円で買収したスリーマイルアイランド原発1号機(ペンシルバニア州)




《電力事業の規制緩和と自由化》

  水力発電が多い北西部のワシントン、オレゴン州などと東部のニューイングランド諸州などとの間で、電気料金の格差が3倍程度に開いてきたのがきっかけ。格差解消のため1992年のエネルギー政策法で独立発電事業者(IPP)の参入規制を撤廃し、発電市場を自由化。96年には連邦エネルギー規制委員会の命令で送電線が開放され、卸電力取引が本格化した。小売自由化についても現在、50州のうち半分の25州で解禁されたり、促進する法律が制定されている。


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