欧米からの報告 原子力を問う
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<7> 原発大国・フランスの課題
2003/02/23
たまる核廃棄物 最終処分未決定
■ 国会、2006年に方向性 ■

 1973年の第一次石油ショックを契機に原子力発電所の建設にまい進してきたフランスが今、原発大国ゆえの課題に直面している。原子炉数は58基と米国に次ぐ世界第2位。原子力の発電比率も75%と世界最高水準。使用済み燃料の再処理でも世界のトップレベルだが、そこで蓄積される一方の高レベル放射性廃棄物の最終処分方法はまだ決まっていない。2006年をめどにこの問題の解決を目指す政府は3月から、原子力政策を問う全国討論会をスタートさせる。官主導の政策が転換点にきたともいえる。(編集委員・宮田俊範、写真も)

 原発大国の屋台骨を支えるのがフランス核燃料公社(コジェマ社)のラ・アーグ再処理工場である。核燃焼サイクルの重要なポイントである原発の使用済み燃料の再処理。そこを担う世界最大規模のプラントは国内だけでなく、日本など海外の原発にとっても、なくてはならない存在なのだ。

 各地の原発から工場に運び込まれた使用済み燃料は、再び燃料として利用できるウランやプルトニウムと、高レベル放射性廃棄物となるストロンチウムやセシウムなどの核分裂生成物とに分離される。

 「再処理とは、いわばごみを分別収集するような作業。リサイクルできるものを取り分けるため、再処理しないで捨てるワンスルー方式と比べて廃棄物を大幅に減らせる」とニコラス・サバリ広報課長は説明する。

 再処理能力は年間一千六百トン。二つのプラントがあり、一つはフランスの全原発を所有するフランス電力公社(EDF)向け、もう一つは日本やドイツなど海外約三十の電力会社向けに再処理している。

 使用済み燃料は、まだ熱を帯びているため工場のプールで二年間貯蔵。それから長さ数センチずつに切り、酸で溶解させてウランやプルトニウム、核分裂生成物などに分ける。使用済み燃料一トン当たり、そのままだと二立方メートルの容積があるが、再処理後は〇・四五立方メートルと四分の一で済むという。

 フランスでは、五十八基の原発から年間千五十トンの使用済み燃料が出ており、そのうち約八百トンが再処理され、残りは再処理を待って貯蔵されている。再処理で取り出したプルトニウムを原子炉で燃やすウランプルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を使った「プルサーマル」を二十基で実施している。

 だが、問題は核分裂生成物。強い毒性があるうえ、放射能が半分になる半減期もセシウム135で二百三十万年などと長く、長期間にわたって貯蔵するしかない。こうした高レベル放射性廃棄物は、ガラス原料とともに溶かしてステンレス製の特殊容器「キャニスター」(高さ一・三メートル、直径〇・四メートル、重さ五百キロ)に入れ、ガラス固化体にしている。

 出力百万キロワット級の原発を一年間運転した後の使用済み燃料を再処理すると、高レベル放射性廃棄物はガラス固化体約三十本分。ラ・アーグ再処理工場内には、ガラス固化体約一万五千本を保管する貯蔵室がある。

 「これを最終的にどんな方法で、どこに処分するかがまだ決まっておらず、これがわれわれ原子力業界の最大の課題だ」とサバリ広報課長は言う。

 日本など海外から請け負ってできた高レベル放射性廃棄物は船などで返還される。だがフランスの廃棄物はラ・アーグ再処理工場の貯蔵室で中間貯蔵されたままで、その後の行き先は決まっていない。高レベル放射性廃棄物の最終処分について、原発を持つ三十一カ国のうち決定済みは米国、フィンランドの二カ国だけである。

 フランスも手をこまねいてきたわけではない。放射性廃棄物管理庁は一九八三年に地下数百メートルの深層処分をしようと二十八カ所の最終処分候補地を選定し、うち四カ所でボーリングなどの準備作業に着手したが、地元住民などの反対で計画がとん挫してしまった。

 そこで、国会で原子力政策を検討する科学技術評価委員会のクリスチャン・バタイユ議員が解決策を提案。その提案を基に九一年に制定されたのが放射性廃棄物管理法である。

 同法では、二〇〇六年までの十五年間は研究期間とし、最終処分地の選定などは一時棚上げ。深層処分や地表に建物を設けるか管理しやすい浅い地下に埋める地表・浅層処分、長寿命の放射能を高温炉などで短寿命に変換する新技術開発などについて研究することを定めた。政府は二〇〇〇年からビュール地域に地下研究所も着工している。

 科学技術評価委員会のクロード・ビロー委員長は「二〇〇六年には、科学的なデータに基づいた最終処分の方向性を国会で決める。われわれの世代が使ったエネルギーの後始末は、われわれの世代のうちに決めなければならない」と強調する。

 ▽エネルギー問題 全国討論 / 法案に国民の声反映

2000年に稼働したショーB原発1、2号機。1基当たりの出力は151万6000キロワットと世界最大規模だ(ベルギー国境に近いアルデンヌ)
 昨年六月、社会党のジョスパン前首相から交代した大統領連合派のラファラン首相は施政方針演説で「国民との広範な議論を通して向こう三十年間の方向性を決めるエネルギー法を制定したい」との新政策を明らかにした。初めて開く全国討論会は、その実現への第一歩だ。

 きっかけは、これまで中央集権的に原子力政策を決めてきた反動から、国民にエネルギー問題に無関心な層が増えてきたことだ。経済財政産業省は「石油ショックから三十年。政策立案に国民の意思を十分に反映してこなかった反省も込めて開くことにした」と説明する。

 フランスは世界でいち早く五〇年代から原子力開発を進めていたものの、第一次石油ショック当時、商業用原子炉は出力四万―五十五万キロワットの小型タイプ十基程度にすぎなかった。このため七四年に九十万キロワット級を十六基新設する推進計画を立案。さらに七六年には百三十万キロワット級を二十基つくる追加計画も立てるなど、世界でも類を見ない急速な原発推進政策を加速させた。

 だが、需要予測が過大だったため、五十八基体制となった今は大量の余剰電力が生じている。発電電力量の15%はドイツやスイス、イタリアなど周辺国に輸出している。

 また発電量の調整にも課題を抱えている。日本などでは普通、原発はベース電源としてフル稼働させ、需要の減退期には火力発電の出力を絞る。だがフランスは発電比率が高いため、原発自体で五%程度の出力調整をせざるを得ない。原発の出力調整は安全性の上からも問題との指摘が反対派から出ている。

 このため新設計画は九三年に発注し、昨年四月に運転開始したシボー原発2号機を最後に打ち切った。今の見通しでは二〇二〇年まで新設が不要。政府内部にも「将来の原子力比率は50%程度でいい」との声もある。

 また、再処理したプルトニウムを使って発電し、さらにそれ以上のプルトニウムを生み出す「夢の原子炉」と期待された高速増殖炉計画も、冷却材のナトリウム漏れ事故などでとん挫している。

 日本でも同じ事故を起こしながら政府は計画の継続を変えていない高速増殖炉。だがジョスパン前政権は九八年、実証炉スーパーフェニックスの廃止を決定。その前段階の原型炉フェニックスも二〇〇八年で運転停止する。

 フランスでは現在、約三百トンのプルトニウムが貯蔵され、二〇五〇年にはさらに二倍以上の六百五十トンに増える見込み。プルサーマルでも使い切れずにたまり続けるプルトニウム。再処理をこのまま続けていいのか、見直しを求める声もある。

 「多すぎた原発」が生み出した原子力政策の再構築をどう進めるか。全国討論会は三月後半から五月にかけて、パリで六回の国民フォーラムを開催。秋まで地方セミナーも開く。政府は全国討論会に向けて一月、テーマ設定や議論の枠組みを決める科学者やジャーナリストなどで組織する賢人会議も発足させた。

 討論では、政府が原発を早期閉鎖した場合の経済的影響などさまざまな選択肢を提示しながら、原子力比率の水準や高レベル放射性廃棄物の最終処分の問題、再生可能エネルギーの普及など幅広く討議し、年内の制定を目指すエネルギー法案に生かす。

経済財政産業省原子力部長 
ステファン・グリッド氏


「廃棄物は有毒で放射能も寿命が長い。国民も一番懸念している問題だ」と話すグリッド氏
 ■ 供給過剰 2020年まで造らず ■
 
 フランス政府の原子力政策を立案する経済財政産業省原子力部長のステファン・グリッド氏に、原子力の課題について聞いた。

 75%という高すぎる原子力比率は重荷のようですね。

 第一次石油ショック後の一九七〇年代後半に二〇〇〇年ごろの需要予測をして原発を建設したが、予測が過剰だった。今ある原発の大半、約五十基は石油ショック後からわずか十数年で建設したものだ。最初から狙っていたわけではない。原発の運転年数もまだ平均十七年と若く、少なくとも二〇二〇年ぐらいまでは造る必要がない。

 そこで生じている課題をどうとらえていますか。

 課題は三つある。一つは高レベル放射性廃棄物の最終処分、もう一つは技術の継承で、最後に国の政策への国民意見の反映だ。廃棄物については、フランスは再処理しているため容積こそ少ないが、有毒で放射能も長寿命。だから、国民も一番懸念している。次に新設するまで十数年は間が空くため、その間にいかに技術やノウハウを維持・継承していくかも大きな問題だ。国民参加型の意思決定システムづくりも非常に大切。今回の全国討論会もその一環だ。

 廃棄物は、二〇〇六年に最終処分を決める予定ですね。

 廃棄物管理法に基づいて二〇〇六年に国会で審議されるから、国民を巻き込んだ大きな議論になるだろう。個人的な見解としては、深層処分や地表・浅層処分、放射能の消滅処理の三種類をそれぞれバランス良く組み合わせたやり方になるのではないか。もしかしたら、最終処分地もおのずとそこから出てくるだろう。

 米国やフィンランドと比べて最終処分への取り組みが遅いのでは。

 いや、それはない。米国では地元が反対しても上から政治的に決めた。フランスは科学的なデータ収集や綿密な研究を先に進め、科学的な知見に基づいて決定しようとしており、決め方に違いがあるだけだ。

 全国討論会の開催は初めてですね。

 原発に関する国民の意見は、強固な賛成と反対がそれぞれ少しずつあり、残る大半が無関心だ。政府として国民にエネルギーのセキュリティーの重要性やコスト、環境保全についてもっと情報提供する必要性を感じて首相が提案した。これは前政権時代から考えていたことだ。

 隣のドイツやベルギーが脱原子力に踏み切った影響もあるのではないですか。

 隣国が原発をやめるのになぜフランスは続けるのか、という疑問もある程度はあるだろう。でも、ドイツもベルギーも代替エネルギーはないし、フランスから見るとどうやって実行できるか疑問だ。

高レベル放射性廃棄物のガラス固化体を地下の収納管で保管する貯蔵室。空気で30年間自然冷却される(ラ・アーグ再処理工場)



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《科学技術評価委員会》

  高速増殖炉でナトリウム漏れ事故が相次いだのを契機に、科学技術に関する国会の対応力強化のため1983年、上、下院の枠組みを超えた組織として発足した。上、下院議員各18人がメンバーとなり、科学技術に関する政策を評価する。独自の予算を持ち、各議員が約1年ごとにテーマを設けて専門スタッフを集めて報告書を作成し、国会の意思決定に役立てる。テーマの3分の1は原子力。ほかに環境や宇宙開発など。


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