欧米からの報告 原子力を問う
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<10> 放射性廃棄物 
2003/03/16
最終処分場建設、2ヵ国だけ決定
■ 米では坑道に保管へ ■

 原子力発電所の運転によって生じる使用済み燃料などの放射性廃棄物。米国とフィンランドはそれぞれ、ネバダ州ヤッカマウンテンとオルキルオト島に高レベル放射性廃棄物の最終処分場を建設することを決めた。原発は世界31カ国で稼働中だが、地中深く埋める最終処分のめどが立ったのはこの2カ国だけ。放射能が自然と同レベルまで下がるには約1万年はかかり、候補地の住民が難色を示すケースが多いためだ。最終処分場の確保は原発の推進、廃止の政策を問わず、各国共通の課題となっている。(編集委員・宮田俊範、写真も)

 世界から観光客が集まる米国ネバダ州ラスベガス市。その北西約百五十キロにあるヤッカマウンテンは、世界初の高レベル放射性廃棄物の最終処分場として二〇一〇年から稼働する予定である。

 ネバダ核実験場の西南に位置し、周囲は荒涼とした砂漠が広がる。標高約千五百メートルの頂上から約三百メートル下の中腹を入り口にして、使用済み燃料を運び込むU字形をした主坑道が掘られている。全長は八キロに及ぶ。

 使用済み燃料を腐蝕に強い特殊な金属製容器に入れた後、主坑道から横穴状に掘る総延長百六十キロの側坑に保管する。収容能力は約七万トンだ。

 最終処分事業を担当するエネルギー省(DOE)のウィリアム・マグウッド原子力科学技術局長は「住民と隔絶された地域にあるうえ、地質も安定している。放射能がなくなるまで保管し続けるのに、全米で最も適した場所だ」と語る。

 主坑道にはトロッコ列車に乗って入る。入り口から二キロ余りの位置に設けられた試験用の側坑では今、使用済み燃料の発熱の影響を調べるため、岩盤を約二〇〇度に加熱するテストが進んでいる。

 坑道内には一般の鉱山で見られるような水たまりはまったくなく、地面は乾いている。「砂漠地帯なのでほとんど雨が降らない。地下水も坑道より約三百メートル下を流れているから容器は腐蝕せず、一万年は持つと想定される」と現地案内を務める地質学者ロナルド・リンデン博士は説明する。

 世界一の原発百三基が稼働する米国は一九八二年に放射性廃棄物政策法を制定し、約二十年かけて最終処分方法の研究や処分地の選定作業に取り組んできた。ブッシュ大統領は昨年二月、DOEの勧告に従ってヤッカマウンテン計画を決定。五月に下院、七月には上院でも計画が承認された。

 二〇〇六年から本格着工する。約七兆円(一ドル約百二十円で換算)に上る総事業費は、電力会社が原発の発電電力量に応じて負担し、電気料金に上乗せして回収する。

 一見すれば順調なヤッカマウンテン計画だが、課題も多い。まず第一に地元が猛反対しているからだ。

 ネバダ州政府は「ラスベガスに近く、観光産業に影響を与える。安全性の研究も不十分」として政府を提訴。稼働後は使用済み燃料が全米各地から列車などを使って輸送されるため「事故やテロの襲撃にどう対処するのか」という疑問も投げ掛けている。

 マグウッド原子力科学技術局長は「ネバダ州知事らの反対意見は承知しているが、われわれは科学的根拠に基づいて安全に輸送・保管できる確信がある。計画に揺るぎはない」と強調する。

 だが、米国では既に世界のほぼ半分、約四万トンの使用済み燃料がたまっている。毎年約千五百トンずつ増えるため、稼働しても十五年後には満杯になる。ヤッカマウテンを拡張するか、ほかに新たな最終処分場を設けるのか―。やがてその決断も迫られるという。

 一方、フィンランドは米国とは違い、地元自治体の誘致によってオルキルオト島に決めた。

 地元のユーラヨキ自治体(人口六千人)の議会は二〇〇〇年一月に賛成二十、反対七で誘致を決議。国会も二〇〇一年五月に百五十九対三の圧倒的多数で計画を承認した。

 背景には、建設予定地そばにあるテオリスーデン・ボイマ社(TVO)のオルキルオト原発(二基)が世界トップクラスの高稼働率を続け、地元との信頼関係を築いていたことが大きい。原発の固定資産税は税収の50%を占め、最終処分場ができればさらに税収アップが見込める。雇用の場も増えるからだ。

 オルキルオト島では今、二〇二〇年の稼働に向けて使用済み燃料を埋設処分する地下約五百メートル付近の岩盤調査が進んでいる。計画では二千六百トンの収容能力があり、総事業費は約九百億円。

 調査に当たるポシバ社は、最終処分事業の実施主体としてTVOが60%、ロビーサ原発(二基)を持つフォータム社が40%を出資して設立された。ベリマッティ・アマーラ計画担当者は「十億年以上前の古い地層のため、極めて安全性が高い。地元住民も熱心に支持してくれ、計画はうまくいく」と自信を示す。

 ▽候補地選び、各国苦慮 地元の合意形成進まず

フィンランドが使用済み燃料を地下約500メートルに埋設処分するために使う金属製容器(オルキルオト島)
 米国とフィンランド以外の国では、放射性廃棄物の最終処分場選びに苦労している。地下数百メートルに埋める深地層処分が主流だが、適地があっても周辺住民との合意形成が進まないためだ。

 スイスでは政府がまず、放射能レベルが低い低・中レベル放射性廃棄物の最終処分について研究するため、ニートヴァルデン州ベレンベルグに地下研究所を建設する計画を地元に提案した。だが、昨年九月の州民投票で賛成42%、反対58%で否決されてしまった。

 州民投票での否決は一九九五年に続いて二度目である。政府の計画は白紙に戻され、新たに候補地を探さなければならなくなった。

 エネルギー省は「住民がいずれ、高レベルまで含めた研究や処分場の建設につながるのでは、と懸念したのが原因ではないか」とみる。高レベル放射性廃棄物の最終処分については、政府は二〇五〇年ごろの開始を目標にしている。だが、まだ候補地もなく、見通しは厳しい。

 ドイツでは政府と電力業界が二〇〇〇年に原発全廃で合意。同時にニーダーザクセン州ゴアレーベンで実施してきた使用済み燃料の最終処分の調査・研究も三―十年中断することが決まった。

 使用済み燃料はこれまでフランスに運んで再処理していたが、二〇〇五年七月から再処理を禁止して直接処分することが決まり、処分方法や安全技術など新たに検討を加える期間が必要になったからという。

 ゴアレーベンでの調査・研究は、州政府の提案で一九七七年にスタート。地下千メートルの岩塩層に地下研究所を設け、世界最先端の研究内容を誇っていた。ドイツ電力産業連盟(VDEW)は「いずれ原発を廃止するにせよ、最終処分場は必要。早く研究を再開して欲しい」と語る。

 米国に次ぐ世界第二の原発大国・フランスでは、八〇年代に地質調査を手掛けた地点の地元住民が強い反対運動を展開。九一年から十五年間を調査・研究期間に位置づけ、候補地の選定は一時的に棚上げしている。二〇〇六年に政府、国会で最終処分方法や候補地についての方針を決める。

 各国は高レベル放射性廃棄物の最終処分は地下三百―五百メートルに埋める予定で、そのためには巨額の費用が必要。原発五基のスイスでも約三千億円が見込まれている。五十二基を持つ日本では約三十年後の処分開始を目標に掲げ、約三兆円かかると試算されている。

 この費用を賄うため、各国では電力会社に電気料金への上乗せを認めている例が多い。ただ、こうしたバックエンド費用がかさめば、原発の発電コストが高くなる。電力自由化時代を迎えて価格競争が激化する中、原発の価格優位性が失われるという指摘もある。

 
フィンランド・TVO社長 マウノ・パーボラ氏

「最終処分問題が解決できたからこそ、国民はわが社の原発新設計画に賛成してくれた」と語るパーボラ氏


 ■ 20年論議重ね住民理解 ■
 
 フィンランドで使用済み燃料の最終処分の実施主体となるポシバ社の親会社で、国内第二の電力会社TVO社長のマウノ・パーボラ氏に最終処分をめぐる課題を聞いた。

 オルキルオト島の地元では反対はなかったのですか。

 もちろん、ユーラヨキ自治体の議員の一部は反対したが、それを大幅に上回る賛成が得られた。われわれは二十年にわたってこの問題を研究し、並行して住民との話し合いも進めてきた。どの住民もよく理解し、よく考えたうえで誘致してもらえたわけだ。長年かけて築いた信頼関係やオープンな論議の積み重ねが功を奏したといえる。

 ほかの自治体は受け入れに難色を示したのですか。

 いいえ、フォータム社の原発があるロビーサ自治体も受け入れを表明していたが、一部の住民が反対デモを繰り広げ、ユーラヨキ自治体の方が受け入れる土壌が整っていた。それとロビーサ原発では一九九六年まで使用済み燃料をロシアに送って再処理してもらっている。だから、最終処分量がオルキルオト原発の方が二倍あるという物理的な理由もあった。

 地下に埋める使用済み燃料から放射能が漏れる可能性は。

 地下約五百メートルに埋めるから、後世の住民が誤って掘り出す可能性はゼロ。それと十億年以上前にできた古い地層なので、地殻変動による影響も考えられない。現状の科学技術では、最も安全な処分方法だと思う。

 費用負担は重くないですか。

 既に解決済みで、まったく心配ない。既にわが社とフォータム社とで必要とする基金を全額積み立てている。これも二十年前から取り組んできた成果だ。この面からも、ほかの国より最終処分場の建設に踏み切りやすかったといえる。

 政府は同時に五基目の原発新設も決めましたね。

 その通り。最終処分問題が解決できたからこそ、国民はわが社の原発新設計画に賛成してくれたわけだ。原発は運転すれば必ず使用済み燃料が出てくる。われわれが利用し、恩恵を受けるエネルギーの後始末は、われわれ自身で手をつけないといけない。後世に負担を残すようなことは、絶対にしてはならない。

 ドイツやスウェーデンが進める脱原発政策の影響はないのですか。

 エネルギーを自給し、同時に地球温暖化も防止するためには、原子力が最も適したエネルギーだということをフィンランド国民はよく理解している。それに代替エネルギーもない中で、ドイツやスウェーデンが実際にどれだけ廃止できるか、疑問も多い。いつか政策を見直すこともあり得るのではないか。



ヤッカマウンテンの主坑道入り口。全長8キロのU字形で、トロッコ列車に乗って中に入る(米国ネバダ州)





側坑の内部。一般の鉱山のような水たまりはまったく見当たらず、地面は乾いている


《放射性廃棄物》

  日本では原発で生じる廃棄物について主に2つに分類。使用済み燃料を再処理してウラン、プルトニウムを回収した後に残るセシウムやストロンチウムなどの核分裂生成物を主成分とした高レベル放射性廃棄物と、それ以外の低レベル放射性廃棄物である。低レベルでも部品など放射能レベルが比較的高いものもある。米国やフィンランドなど欧米では再処理せずに直接処分する国があり、使用済み燃料がそのまま高レベル放射性廃棄物となる。約1万年経過すれば放射能はほぼ自然レベルに低下するといわれる。



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