欧米からの報告 原子力を問う
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<12> 日本の核燃料サイクル
2003/03/30
めどが立たない高速増殖炉開発
■ 新型転換炉は廃止に ■

 欧米の原子力政策が推進、脱原発へと具体的に動く中、日本では根幹が大きく揺らいでいる。昨年8月に東京電力の原発でトラブル隠し問題が起き、今年1月には高速増殖炉原型炉「もんじゅ」について、名古屋高裁金沢支部が設置許可無効の判断を下した。政府は原子力政策の要として使用済み燃料からプルトニウムを取り出して再利用する核燃料サイクルの推進を掲げているが、柱のプルサーマル計画と高速増殖炉開発は行き詰まっている。たまり続けるプルトニウム利用の道は定まらず、政策の再構築が迫られている。 (編集委員・宮田俊範、写真も)

 福井県敦賀市にある核燃料サイクル開発機構の新型転換炉原型炉「ふげん」。かつてはプルトニウムを利用する日本独自開発の原子炉として原子力関係者の期待を担ったが、経済性の低さなどから実用化できず、二十九日に廃止となった。

 新型転換炉は、核反応を調整する減速材に重水を使うのが特徴。ふげん発電所の広井博副所長は「プルトニウムとウランを混ぜた混合酸化物(MOX)燃料や天然ウランなど、さまざまな種類の燃料を燃やせ、プルトニウムを利用する原子炉としては実用化に一番近かった」と説明する。

 新型転換炉の開発着手は早かった。国内初の商業用原発である東海原発が運転開始したのと同じ一九六六年に原子力委員会が開発を決定。七〇年に着工し、七九年から運転開始した。

 だが、九〇年代に入ると取り巻く環境は一変した。核燃料サイクルが一般の原子炉である軽水炉でプルトニウムを燃やすプルサーマル計画に軸足を移す中、電気事業連合会は青森県大間町に計画していた次の段階の実証炉建設に反対し、九五年に実証炉計画が中止された。特殊な構造を持つため、建設費が高くつくのを懸念したからだ。

 続いて原子力委員会は九八年、ふげんの廃止も決定した。「実証炉計画が立ち消えになった段階で事実上、ふげんの役割も終わった」と広井副所長。使ったMOX燃料は七百七十二体。単体の原子炉としては世界最多である。

 新型転換炉はもともと再処理で取り出したプルトニウムを燃やし、それ以上のプルトニウムを生み出す高速増殖炉を実用化するまでのつなぎ役とされてきた。だが、核燃料サイクルの本命といわれる高速増殖炉もまた、極めて厳しい状況に置かれている。

 ふげんと同じ敦賀半島の先端に核燃料サイクル開発機構の「もんじゅ」がある。九五年十二月にナトリウム漏れ事故を起こして以来、運転を停止したままだ。

 「事故後、ハード、ソフトの両面から具体的な改善策を立てた。失った信頼を回復するため、職員総出で住民説明にも出向いた」と、もんじゅ建設所の伊藤和元所長代理。経済産業省は事故から七年後の昨年十二月、原因となった温度計の改良やナトリウム漏えい対策などの改造工事を許可し、二年後の運転再開を目指していた。

 ところが、住民が国に原子炉設置許可の無効確認を求めた行政訴訟で今年一月、名古屋高裁金沢支部は「安全審査に重大な誤りがある」との判断を下し、運転再開のめどが立たなくなった。

 使用済み燃料は、英国とフランスに再処理を委託。そこから取り出されたプルトニウムは海外に約三十トン、国内に約五トン。政府は核兵器に転用可能なプルトニウムを余分に持たないためにも核燃料サイクルの必要性を説いてきた。小泉首相は二月の国会で「日本はエネルギー資源に乏しい。安全確保を大前提として、計画を中断することは考えていない」と強調している。

 だが、米国、英国、ドイツなど欧米諸国は、度重なるトラブルで高速増殖炉開発を中止。世界の先頭に立ってきたフランスも九八年に実証炉「スーパーフェニックス」の廃止を決定。原型炉「フェニックス」も二〇〇八年で廃止される。

 国会科学技術性能評価委員会のクロード・ビロー委員長は「フランスでは政治的判断によって廃止したが、世界的には研究開発が進んでおらず、実用化が厳しい状況にある」とみる。

 消費する以上のプルトニウムを生み出す「夢の原子炉」と呼ばれてきた高速増殖炉。政府は最高裁に上告したが、最高裁の判断次第では、ふげんと同様、実用化できないまま終わる可能性もある。

 プルサーマルも難航 欧米は20年以上の実績

 日本の核燃料サイクルは、高速増殖炉開発と並んでMOX燃料を一般の原子炉である軽水炉で燃やすプルサーマル計画が中核を占める。だが、これもいまだ実施のめどが立たず、核燃料サイクルは車の両輪を欠いて身動きできない状態だ。過去二十年以上、プルサーマルを実施してきた欧米との違いが際立つ。

 日本の軽水炉でのMOX燃料の使用は、これまで日本原子力発電の敦賀原発1号機で二体、関西電力の美浜原発1号機で四体が試験的に燃やされただけ。九電力と日本原子力発電、電源開発の計十一社は一九九七年、二〇一〇年までに十六―十八基でMOX燃料を使用する計画を立てた。

 だが、関西電力では一九九九年にMOX燃料の製造元の英国原子燃料公社(BNFL)でデータ改ざん問題が発覚し、実施目前でストップ。東京電力もトラブル隠し問題で昨年秋に実施予定だった計画がとん挫した。

 一方、欧米では現在、フランス、ドイツ、スイス、ベルギーの四カ国、計三十五基でプルサーマルを実施している。

 世界第二の原発大国・フランスでは、使用済み燃料をフランス核燃料公社(コジェマ社)で再処理した後、MOX燃料に加工。現在は五十八基のうち二十基で燃やし、さらにもう八基増やす計画がある。

 経済財政産業省は「プルサーマルは一九七〇年代から実施しているが、これまでMOX燃料が原因となったトラブルはなく、住民はなんら問題にしていない」と語る。

 スイスでは五基のうち三基でMOX燃料を燃やしている。エネルギー省は「再処理して取り出したプルトニウムをそのまま保管しておく方が、よほど危険性が高い」と説明する。

 ただ、十九基中十基で実施するドイツでは、政府と電力業界が二〇〇〇年六月に原発全廃で合意した際、二〇〇五年七月から使用済み燃料の再処理を禁止することも決めた。このため、将来はプルサーマルが実施されなくなる見通しである。

 欧米では米国やフィンランドのように再処理せず、使用済み燃料を直接処分する政策を選んだ国も多い。米国も過去にMOX燃料九十一体を燃やしたが、八五年を最後に中止している。

 だが、米国は昨年一月、解体した核兵器から出るプルトニウムを使った新たなプルサーマル計画を明らかにした。九八年のロシアとの核兵器解体についての合意に基づき、約三十四トンのプルトニウムを原発の燃料に転用。MOX燃料製造工場なども建設し、六基で使用する。エネルギー省は「ウラン資源の有効利用だけでなく、核不拡散にもつながる」と言う。

 ロシアの核兵器解体に伴うMOX燃料製造などに対しては、日本も協力する方針。海外ではプルサーマルが核兵器解体という平和利用の手段として注目され始めている。


原子力委員会委員長 藤家洋一氏

「もんじゅの安全審査については私の知る限り、世界最高水準にあったことは間違いない」と語る藤家氏
 ■ 核不拡散のために推進 ■

 原子力政策を立案する内閣府の原子力委員会委員長の藤家洋一氏=東京工業大名誉教授=に、核燃料サイクルの課題などについて聞いた。

 東電のトラブル隠し問題で、国民に原発への不信感が広がりました。

 電力会社はけしからん、という感情が広がったことはよく理解できる。私も当然、ルール違反に対しては厳重にペナルティーを科すべきだと考えている。

 ただし、原発はすべてだめだ、とはとらえてほしくない。過去四十年間の原子力開発の中で、全国で五十基を超す原発が技術的にほぼパーフェクトといえる安全を確保してきた実績は、正当に評価してもらいたい。

 多数の原発が停止し、首都圏で停電する恐れもあります。

 電力会社がぴしっと対応しないと再び動かせないし、国も停電させない前提できちっとやる。ただ、消費者が停電はいやだから何が何でもすぐ動かせ、となったのでは困る。むしろ、停電覚悟できちんとこの問題を決着させる姿勢が大事だ。

 もんじゅの高裁判決では、国の安全審査が厳しく問われました。

 まず、これはもんじゅという一つの原子炉に対する判断であり、核燃料サイクル全体を否定する判決ではない、と言いたい。それと、絶対安全をベースにした判決であって、科学的には問題ありとせざるを得ない。だから国も上告した。

 もんじゅの安全審査については私の知る限り、世界最高水準にあったことは間違いない。

 欧米では高速増殖炉開発を断念しています。

 確かに、世界では今、日本のほかに中国、ロシアぐらいだが、もんじゅが動けば再び参加する国はいっぱいいる。ウランは数十年後にはなくなるわけで、将来への投資としても核燃料サイクルを進めないといけない。

 それと広島、長崎という被爆体験を持つ国としては、核不拡散という観点からもプルトニウムをそのまま保管せず、核燃料サイクルを動かして利用することが重要。日本の原子力平和利用の考え方を海外に広めることも検討すべき課題だろう。

 プルサーマル計画も進まず、核燃料サイクルの実現は不可能では。

 MOX燃料は、これまで軽水炉で燃やしてきた燃料と何ら違わないし、海外からは日本は何をやっているんだ、と指摘されている。すべての準備は整っていて、あとは地元のみなさんに炉に入れさせてください、とお願いするだけだ。

=おわり=

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ナトリウム漏れ事故で停止した高速増殖炉原型炉「もんじゅ」。高裁判決では安全性が厳しく問われた(福井県敦賀市)
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廃止された新型転換炉原型炉「ふげん」。世界最多のMOX燃料を燃やしたが、実用化できなかった(敦賀市)

 《高速増殖炉》

 天然ウランのうち、燃えるウラン235は0.7%しかない。99.3%の燃えないウラン238が中性子を吸収すると核分裂を起こすプルトニウム239に変わる性質を利用し、運転しながらプルトニウムを生産する仕組み。ウラン可採年数は約70年だが、実用化すれば数千年へ延ばせるといわれる。運転ではMOX燃料を使い、冷却材には熱を伝えやすいナトリウムを用いる。「もんじゅ」は85年に着工し、これまでに約8000億円の国費が投入されている。





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