アジア・アフリカからの報告 原子力を問う
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「欧米からの報告」その後

独で「廃止1号」

 原発建設が相次ぐアジア・アフリカに対し、欧州では政府と電力業界が将来の原発全廃で合意したドイツで二〇〇三年十一月、合意後の廃止第一号となるシュターデ原発が運転を停止した。ドイツを中心に昨年連載した「欧米からの報告」後の最新欧米情勢をリポートする。
 
 ドイツ北部のハンブルク市から列車で一時間のシュターデ市。十一月十四日、ここにドイツ中の注目が集まった。電力大手イーオン社のシュターデ原発が運転を停止したからだ。
 緑の党に所属するトリッティン環境相は反原発運動家らを集め、乾杯しながら演説した。「シュターデ原発の停止で、ドイツの原発に未来がないことをわれわれは明確に示した。二〇二〇年にはこの国に一基の原子炉も動いていないだろう」
 原子力は電力供給の三分の一を占めるが、社会民主党と緑の党の連立によるシュレーダー政権は二〇〇〇年六月、電力業界と「原発は運転開始から三十二年ですべて廃止する」ことで合意。二〇〇二年四月からは原発全廃を盛り込んだ改正原子力法も施行された。シュターデ原発はその廃止第一号となった。
 「まだ十年は運転できるのに、非常に残念だ」。シュターデ原発に約二十年勤務してきたディートリヒ・フーベルト広報部長は悔しがる。
 ドイツの原発は十九基。そのうちイーオン社が過半数の十二基を所有する。一九七二年に運転開始し、出力六七・二万キロワットの加圧水型軽水炉(PWR)のシュターデ原発は、同社の原発では最も古くて小規模。九八年から電力自由化も始まり、対策として同社所有の余剰設備も閉鎖しなければならず、経済性が低いシュターデ原発が廃止対象に選ばれたという。
 人口四万六千人のシュターデ市にとって、従業員三百人の原発閉鎖は痛手だが、市民は比較的冷静に受け止めている。

 「使命終えた」地元も評価

 シュターデ市では原発建設をきっかけに化学大手のダウ・ケミカルが進出。アルミニウム工場なども立地した。最近ではエアバス社の次世代大型旅客機A380型機の尾翼を生産することも決まっている。
 市経済振興部のトーマス・フリードリヒ部長は「シュターデ原発はわが市の工場誘致の原動力となってくれ、非常に感謝している。廃止は残念だが、幸い従業員はイーオン社の配置転換で一人もリストラされない。われわれは、シュターデ原発は使命を終えたととらえている」と語った。
 シュターデ原発は廃炉作業が二〇〇五年ごろから本格化し、十年かけて解体される。費用は約六百五十億円。〇五年十一月には、二番目となるオブリッヒハイム原発が閉鎖されるという。

 代替電力めど立たず スウェーデン
 最新の軽水炉建設へ フィンランド


 ドイツ以外でも脱原発の動きが進んだ。ベルギーは二〇〇三年一月、運転四十年で一律に閉鎖する脱原子力法を制定。二〇二五年には七基すべてが閉鎖される見通しである。
 ただ、スウェーデンでは原発廃止が難しいことも示した。一九八〇年の国民投票で十二基の全廃を決めており、九九年に廃止したバーセベック1号機に続き、2号機の廃止も検討していたが、三月までに代替電力不足などから当面の廃止措置を見送った。
 一方、原発推進の動きも出ている。世界最多の百三基が稼働する米国は、ブッシュ政権の誕生で七九年のスリーマイルアイランド原発事故以来となる建設再開へと方針転換。二〇〇三年九、十月には電力大手のエクセロン、ドミニオン、エンタジーの三社が建設の前提となる事前サイト許可を米原子力規制委員会(NRC)に申請した。公聴会などを経て二年後に許可が発給される見通し。
 フィンランドは五基目の建設を決めていたが、三月末に入札を締め切った結果、オルキルオト原発内に最新の欧州加圧水型軽水炉(EPR)を建設することを決定した。
 スイスでは五月に原発をめぐる国民投票を実施。既存の五基の運転期間を四十年に制限したり、比較的古い三基を早期廃止するなどの二案が問われたが、いずれも反対が58%、66%と過半数に上り、欧州で進む脱原子力の流れに歯止めをかける形となった。










「政府と電力業界の原発全廃合意後、廃止第1号となったシュターデ原発。10年かけて廃炉作業が実施される(ドイツ・シュターデ市)





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