アジア・アフリカからの報告 原子力を問う
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台湾「非核国家」への挑戦

 台湾は三月二十日の総統選に合わせて、建設中の第4原子力発電所の工事継続か廃止かを問う住民投票を全土を対象に実施する。二〇〇〇年に脱原発を公約に掲げた民進党の陳水扁総統が就任。アジアで初めて脱原子力を目指す「非核国家」も宣言している。欧州ではドイツやスウェーデンなどが原発全廃に向けて動いているが、台湾はどう進めようとしているのか―。原発の存廃を問う台湾の住民投票はアジアでも初めてであり、アジアの原子力の将来を占う試金石にもなる。

中止・再開 迷走の末 アジア初 住民投票へ

 台湾の北東端に位置する台北県貢寮郷。この海岸近くで今、台湾電力公司の第四(龍門)原発1、2号機の建設工事が急ピッチで進んでいる。
 台北市から直線距離で四十キロ。車で一時間半と近い景勝地とあって、港や商店街には観光客でにぎわう海鮮料理レストランなどが連なっている。

戒厳令下で建設

 「この辺りは以前、『反核四(第四原発反対)』と書かれた旗がたくさん掲げられていた。でも今は反対派の動きは静かで、旗もほとんどありません」。第四原発の蔡富豊副所長は、住民投票を控えた地元の様子を説明した。
 日本と同じくエネルギー資源に乏しい台湾。石油や石炭など資源の95%以上を輸入に頼らざるを得ない構造だ。このため日本の内閣府原子力委員会に当たる行政院原子能委員会を一九五五年に設置し、米国の技術支援も得て原子力開発を進めてきた。
 七八年に第一(金山)原発1号機を稼働。以来、これまでに三カ所で計六基の原子炉が運転開始し、二〇〇二年では原子力は電力供給の22・9%を占めている。パソコンや半導体などの製造や輸出を中心に成長著しい台湾経済を支えている。

 第四原発もこの流れに沿って、エネルギーの安定供給を狙いに計画された。ただ、既に稼働中の三カ所の原発とは大きく異なったのが、政治環境である。
 稼働中の三カ所は、蒋介石、蒋経国総統と続いた戒厳令時代に計画・完成した。国民党が進めてきた原子力推進政策に、反対できるような状況ではなかった。

地元の98%反対

 だが、一九八七年に戒厳令が解除され、翌年には蒋経国総統が死去して李登輝総統が登場したのに伴って民主化が進展。第四原発は八一年に建設地が決まっていたが、その建設は政治の荒波にもまれ、迷走が続いた。
 地元の反対運動も表面化する中で、九四年に実施された地元の貢寮郷の住民投票では、実に98%が建設反対という結果が出た。このため、第四原発が着工されたのは九八年と、計画スタートから十七年後にずれ込んだ。
 さらに二〇〇〇年には国民党の李総統から陳総統へと政権交代。脱原子力を党綱領にも掲げた民進党政権の下で、同年十月には内閣に当たる行政院が進ちょく率35%で工事中止を命令した。

 だが、国会に当たる立法院では、野党の国民党が多数を占めていたこともあり、工事中止か再開かをめぐって百十日間にわたり紛糾。最高裁に相当する大法官会議で行政院の中止手続きには問題があると指摘されたこともあり、〇一年二月に民進党と国民党が協議し、将来は脱原発を目指すことを条件に工事を進めることで合意し、建設が再開された。
 だが、陳総統は〇三年六月、総統選に合わせて第四原発を住民投票に掛けることを正式に表明。再び与野党の対立は深まっている。

選挙対策の声も

 「第四原発の存廃を問うのは、総統選に向けた人気取りの戦術。わが国のエネルギー政策が政治の道具にされ、経済に大きな損失を与えているのは残念だ」。立法委員(国会議員)の中でも原子力問題に詳しい孫国華氏(国民党中央委員)は、厳しい口調で陳政権の政策を批判する。
 第四原発では今、台湾電力公司の三百十五人と下請け工事関連の千五百人が工事に携わっている。1号機が二〇〇六年、2号機が〇七年の稼働を目指しており、進ちょく率は50%を超えた。
 着工が遅れたうえ、中止、再開、そして住民投票とほんろうされる第四原発。工事に当たる建設所の劉照雄所長は「みんな政治問題で揺れていることは承知しているし、本当に稼働できるのか、と心配する声もある。でも、われわれはそれに関係なく、一日も早くきちんと工事を仕上げるしかない」と力を込めた。

■台湾の原子力発電所
発電所 出力
(万キロワット)
炉型 運転開始 所有企業
第1(金山) 1号
2号
63.6
63.6
BWR
BWR
1978年
79年
台湾電力公司
第2(国聖) 1号
2号
98.5
98.5
BWR
BWR
1981年
83年
台湾電力公司
第3(馬鞍山) 1号
2号
95.1
95.1
PWR
PWR
1984年
85年
台湾電力公司
BWRは沸騰水型、PWRは加圧水型(日本原子力産業会議調べ)









工事が進む第4原発。中止、再開と迷走したのに続いて、3月には住民投票で存廃が問われる(台北県貢寮郷)




 第4原発  従来の沸騰水型軽水炉(BWR)を改良して出力も増強した最新の改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)2基を建設する。出力は各135万キロワット。ABWRとしては、新潟県にある東京電力の柏崎刈羽原発6、7号機に続いて世界2カ所目になる。主要な機器は日立製作所や東芝、三菱重工業などが製造・輸出し、「日の丸原発第1号」とも呼ばれる。敷地面積480ヘクタール。1号機は2006年7月、2号機は2007年7月に完成予定。総工費は約6000億円。
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