アジア・アフリカからの報告 原子力を問う
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台湾 「日の丸原発」第1号

 工事の継続か中止かをめぐって3月に住民投票が予定される台湾の第4原子力発電所。その行方には日本の原子力産業界も大きな関心を寄せている。原発の「心臓部」といわれる原子炉圧力容器や発電タービンなど主要機器が日本で製造・輸出される「日の丸原発」第1号だからだ。日本の原子力産業界は1990年代後半から原発建設が減った影響で売り上げが低迷。新設が相次ぐアジア市場への進出に活路を見いだそうとしている。

最新鋭軽水炉 日本技術の粋
 二〇〇〇年に脱原子力政策を掲げる民進党の陳水扁総統が就任し、工事中止、再開と迷走してきた第四原発。ようやく進ちょく率50%を超えて佳境に入った工事現場の一角に、二〇〇六年の稼働に向けて据え付けを待つ1号機の原子炉圧力容器を保管する倉庫がある。
 蔡富豊副所長が扉の鍵を開け、差し込む明かりを頼りに暗い内部を見せてくれた。「これが広島で製造され、船で運ばれてきた圧力容器。世界でも東京電力の柏崎刈羽原発(新潟県)にしかない、最新鋭の改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)の心臓部です」
 鋼製で、高さ約二十一メートル、直径約七メートル、重さ約九百十トン。巨大な円筒形の内部には、核分裂を起こす燃料集合体が納められ、蒸気を作って発電機のタービンを回すボイラーの役割を務める。強い圧力に耐えられるよう、厚さは十七センチもある。

心臓部は呉で産声
 製造したのは、日立製作所の子会社、バブコック日立呉事業所(呉市)だ。戦艦大和の砲塔を造ったこともある旧呉海軍工廠(こうしょう)のピットを利用した工場で製作。昨年六月に船積みされ、一週間かけて第四原発の工事現場に運び込まれた。

 呉事業所はこれまで、国産化第一号で三月に運転開始三十年を迎える中国電力の島根原発1号機(島根県鹿島町)など十五基の圧力容器を製造。十五基目で初の輸出にこぎつけたという。
 第四原発で使われる日本製品は1号機の圧力容器にとどまらない。2号機の圧力容器も東芝製だ。既に製造を終え、来年春に横浜から出荷される予定だ。
 一基当たり百三十五万キロワットの出力を生み出す発電タービンは三菱重工業が製作を担当する。原発から出る放射性廃棄物の処理施設も日立製作所が請け負っている。
 建設所の劉照雄所長は「世界で最も新しく、出力も大きいABWRを製造できるのは日本だけ。第四原発には、日本が培った技術の粋が集められている」と説明する。
 日本の原子力産業界はこれまで、中国の秦山原発向けに圧力容器二基を輸出するなど、原子力関連機器を単体輸出した実績はある。
 だが、原発の主要機器をすべて日本製で占める「日の丸原発」は、第四原発が初めて。行方を左右する住民投票は世論調査では工事継続が多数を占めるが、万一中止となれば日本のメーカーは補償で直接の損害こそ受けないものの、今後の他のアジア諸国への売り込みなどでマイナス影響が避けられなくなる。発注者の台湾電力公司の場合は三千億円に上る損害を被るとみられている。

 台湾と日本との結び付きは、製品輸出だけでなく人材育成面にも及んでいる。日本は一九七二年に中国と国交回復したため台湾との国交は断絶したが、台湾の原子力研究者の多くは京都、大阪、東北大などに留学して原子力工学を学んできた。台湾電力公司で原発の運転・管理に当たる原発技術者も日本の電力会社に派遣されて研修。第四原発の蔡副所長もかつて島根原発で学んだ一人だ。
 昨年十二月には東京で日台原子力安全セミナー(日本原子力産業会議主催)が開かれた。民間ベースで技術交流を図る狙いで毎年開催され、十八回目を数える。台湾の原子力行政のトップ、原子能委員会の欧陽敏盛主任委員もセミナーに出席するため訪日し「台湾の原子力は日本を手本に発展してきた。技術や安全対策などまだまだ日本から学ぶところが多く、今後も日本との関係を強めたい」と強調した。

■世界の原子炉の運転開始年代別状況
北米と
中・南米
欧州 旧ソ連・
その他
アジア・
アフリカ
1960年代以前 23 50 19 95
70年代 69 52 21 25 167
80年代 57 103 36 33 229
90年代以降 12 17 43 79
161 222 83 104 570
【注】原子炉数(基)、運転開始後の廃炉を含む(日本原子力産業会議)








倉庫の中で据え付けを待つ第4原発1号機の原子炉圧力容器。昨年6月に呉港から輸出された(台北県貢寮郷)

 《メモ》
 世界では2002年末までに既に廃炉になった原子炉も含め570基が建設・運転された。年代別では、1980年代にピークの229基が運転開始したが、90年代以降は79基と大幅に減っている。86年のチェルノブイリ原発事故を契機に計画見直しや脱原子力へと転じる国が増えたためだ。地域別では、欧州などが軒並み減らす中で、アジア・アフリカの増加が際立つ。世界の原子力関連メーカーは今、生き残りをかけてアジア市場への攻勢を強めている。
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