電力供給に占める原子力比率が4割とアジア一高い韓国。現行の18基の原子炉に加え、2015年までにさらに10基を新設する計画を打ち出している。この積極的な原子力政策を支えているのが、初めて自主開発し、主要機器も国産化した韓国標準型原子炉(KSNP)だ。日本と同じくエネルギー資源の大半を輸入に頼らざるを得ない構造の韓国は、原子力を「準国産エネルギー」と位置付け、産官挙げて技術開発に力を入れている。
将来の輸出にらむ
韓国の東海岸、浦項市の北百三十キロに位置する蔚珍原子力発電所。稼働中の1―4号機に加え、今年六月と来年六月にそれぞれ運転開始する5、6号機の原子炉建屋が海岸に沿って横一列に並んでいる光景は壮観だ。
「ここは電力供給の一割を担っている。5、6号機が稼働すれば、さらにその役割が高まる」と洪壮喜・蔚珍原発原子力本部長は胸を張った。
誇る理由はもう一つある。一九九八、九九年に運転開始した3、4号機が、韓国が初めて自主開発した韓国標準型軽水炉(KSNP)だからだ。「心臓部」といわれる原子炉圧力容器や発電タービンなど主要機器は国内メーカーが製造し、国産化率は82%に上る。稼働目前の5、6号機もKSNPである。
韓国の原子力の歴史は比較的新しい。七八年に第一号の古里1号機が運転開始してから、まだ三十年に満たない。
初期の原発導入は、ターンキー(完成品受け渡し)方式。海外の企業が設計、建設から試運転まで請け負い、発注者の韓国水力原子力会社(旧韓国電力公社)がかぎ(キー)を回せば(ターン)稼働する方式だった。八〇年代に入っても、原子炉は米ウェスチングハウス社や仏フラマトム社、カナダ原子力会社から供給を受け、国産化率は50%未満にとどまっていた。
その流れを変えたのがKSNPだ。八三年に開発スタート。七九年に起きた米スリーマイルアイランド事故の教訓を取り入れて安全性を強化し、韓国人の運転員向けの人間工学に基づいた制御システムを採用するなど数多くの自主開発技術を盛り込んだという。
同時に国内メーカーの育成も政府主導で進められた。八〇年に原子炉とその周辺機器を製造する韓国重工業(現・斗山重工業)、八一年に設計・エンジニアリングの韓国電力技術(KOPEC)、八二年には燃料の成形加工をする韓国核燃料―などの企業を次々に設立し、国産化への道筋をつけた。
原子力委員会の李昌健委員は「韓国は日本と同じく欧米から原子力技術を導入し、その後について一歩一歩険しい坂道を上りながら学んできた。おかげで、今や先頭を走る国々と肩を並べるまでになった」と技術開発の歩みを振り返る。
KSNPは、蔚珍3―6号機と霊光5、6号機の六基をはじめ、計画中の新古里1、2号機、新月城1、2号機の計十基に採用される。すべて完成すれば、韓国の原子炉の四割以上を占める主力炉になる。
原子炉の開発はさらに加速している。二〇一〇年に稼働する新古里3号機以降の原発からは、二番目の自主開発原子炉となる改良型KSNP(APR―1400)を導入する計画である。
韓国水力原子力会社、韓国原子力研究所、KOPEC、斗山重工業など産官共同で九二年から開発に着手。出力百四十万キロワットと40%増強した。設計寿命は従来の四十年から六十年に延長し、逆に建設単価は15%減らした。
海水淡水化を目的とした新型の一体型原子炉(SMART)も実用化目前である。出力十万キロワットと小型だが、一日二万トンの飲料水を生産できるのが特徴だ。
韓国原子力研究所の金時煥・一体型原子炉研究開発団長は「この原子炉だけで十万人に飲み水を供給できる。国際原子力機関(IAEA)と協力し、中東やアフリカなどへ輸出できないか可能性を探っている」と説明。韓国は今、原子炉を将来の輸出産業へと育てる展望を描いている。
■韓国の原子力発電所
発電所 |
出力
(万キロワット) |
炉型 |
運転開始 |
所有企業 |
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韓国水力原子力会社 |
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韓国水力原子力会社 |
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95.0 |
95.0 |
100.0 |
100.0 |
100.0 |
100.0 |
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1986年 |
87年 |
95年 |
96年 |
2002年 |
2002年 |
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韓国水力原子力会社 |
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韓国水力原子力会社 |
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韓国水力原子力会社 |
PWRは加圧水型軽水炉、CANDUはカナダ型重水炉(日本原子力産業会議調べ) |
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建設が進む蔚珍原発5号機。1980年代から自主開発した韓国標準型原子炉が採用されている(慶尚北道蔚珍郡)
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