アジア・アフリカからの報告 原子力を問う
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平和的統一への投資−韓国原子力委員会委員 李昌健氏

 KEDOに資金の七割を提供し、原子炉の製造も担当している韓国。原子力委員会委員の李昌健氏に、事業の経緯や見通しなどを聞いた。

 ―北朝鮮に軽水炉を提供する事業はだれの発案ですか。
 米朝交渉当時(一九九四年)、原子力委員会で北朝鮮問題を協議するため、大臣である科学技術部長官と韓国電力公社社長、そして私の三人で小委員会を結成した。北朝鮮の原子炉計画は運転中と建設中を合わせて三基で計二十五万五千キロワット。韓国なら一基百万キロワットの原子炉が造れ、北朝鮮の計画の四倍だ。それでプルトニウムを製造しにくい軽水炉を供与しようじゃないかという計画が出た。

 ―発端は米国でなく韓国だったわけですね。
 そう、そして私が二基提供を提案した。なぜなら韓国では二基ずつ建設していて単価が下げられるし、部品や人材の管理面でも都合がいい。世界から注目される事業になるし、安全で経済的な原発にしようと考えた。

 ―でも原発を提供する負担は大きいのでは。
 いわば投資。いつか統一すれば、みんなの発電所になるからだ。日本の関心は拉致問題や核開発問題だろうが、韓国の関心はあくまで平和的な統一にある。ただ、計画通りに進まなかったことが残念。韓国が米朝枠組み交渉に代表として出席できなかったのが原因だ。

 ―どの点が違ったのでしょう。
 われわれは、北緯三八度の休戦ラインから五十キロ以内に建設するつもりだった。韓国から従業員が通勤できる距離で、韓国の電力システムの一貫として稼働させ、発電の半分はもらう計画にしていた。当時の原子力委員長の副首相も賛同していた。
 だが、米国の交渉代表のガルーチ国務次官補が韓国に来て副首相と会談し、われわれの計画を入手。手のうちを先に北朝鮮に見せてしまった結果、主導権を取られて建設地が予定より百八十キロも遠くなった。

 ―建設地が離れると問題があるのですか。
 韓国電力公社の職員が琴湖地区を視察したところ、電気はよく切れるし、電圧の起伏も激しい。これではとうてい原発の安定稼働は難しいと報告してきた。なぜなら、原発の安定稼働には外部電源やきちんとした送電網が必要だからだ。
 北朝鮮は送電網のインフラが整っていないし、資金もない。仮に韓国から琴湖地区まで送電網を伸ばそうにも、三年がかりで約一千億円はかかる。だから、完成しても運転するのは難しい。

 ―北朝鮮も知っていて合意したのですか。
 恐らくそうだ。琴湖地区は、かつて旧ソ連が四十万キロワット級の原発建設のために調査したことがあり、すぐ手に入る地質データがあったから選ばれただけ。そうした事情はすべてガルーチ代表も知っていたはずだか、米朝の政治家たちは交渉をまとめるために建設地を決めてしまった。

 ―核開発計画が判明し、事業継続が危ぶまれています。
 これからも原発を建設するには、IAEAの厳密な査察を受け、課題をすべてクリアすることが前提となる。でも今の状況下では無理。工事続行は不可能だろう。事業の行方が心配だ。





「北朝鮮は送電網のインフラが整っていなし、資金もない。完成しても運転は難しい」と語る李氏 
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