北朝鮮やイランなどで相次いで判明した核拡散への懸念や原発へのテロ防止の取り組みなどについて、IAEA事務次長の谷口富裕氏に聞いた。
―イランで未申告のウラン濃縮施設などが見つかりました。
既に理事会で非難決議を採択したイランについては、追加議定書を調印するなど協力的な姿勢に変わっている。われわれは査察を通じてすべて明らかにできると考えており、今後は恐らく大丈夫だろう。
―北朝鮮はどうでしょうか。
これはIAEAの仕事というより、外交交渉で解決するしかない。実際には六カ国協議という政治力学の問題だ。われわれとしてはイランでうまく査察を進めることで、北朝鮮に対しても具体的に示していくしかない。北朝鮮もそれなりに努力しているとは思うが、すべての施設を公開したうえで査察も受け入れてもらいたい。
―IAEAは北朝鮮が既に核兵器を保有していると見ていますか。
それは何とも言えない。推測ではいろいろ考えられるが、実際に査察官が現地に行って検証してみないと何ともいえない。実験室レベルでできることと、産業レベルでやることには大きな違いがある。
―一連の核開発疑惑では、IAEAが持つ力の限界も指摘されました。
われわれも理想論でなく、どう具体的に組織を強化するかが求められている。保障措置強化と併せて、国連安全保障理事会の改革や核廃絶への道筋の明確化も重要な課題だろう。
さらに、地道な努力も求められる。組織を支え、新たな国際秩序をつくるために働く人間を育てていきたい。例えば、広島、長崎の若者がIAEAに興味を持ち、実際に働いて世界の核拡散防止に向けた貢献をしてもらえれば、と願っている。
―米中枢同時テロ後、原子力施設のテロ対応も求められていますね。
IAEAも新たな役割として重視している。特別基金による総合的なテロ対策のための行動計画の作成や実施に取り組んでいるし、加盟国に助言や技術的な支援をしている。原発や再処理施設などの警備は強化されたが、大学や研究施設などはまだ不十分。テロの危険性について、もっと認識してほしいと思う。
―原発の安全向上も欠かせません。
われわれはチェルノブイリ原発事故以降、安全向上に向けて人材の育成や技術協力などに努めてきた。特に、東欧諸国の旧ソ連型炉や中国の新設炉の安全向上に向けた集中的な技術協力は特筆されるのではないか。既に原子力の平和利用分野のほとんどにわたる安全基準を構築しており、IAEAは世界の安全レベル向上のためにとても貢献していると思う。
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「われわれも理想論でなく、どう具体的に組織を強化するかが求められている」と語る谷口氏 |
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