アジア・アフリカからの報告 原子力を問う
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揺らぐNPT体制

機能の強化が急務
 IAEAの活動の柱として知られる査察は、原発をはじめとした原子力の平和利用とコインの裏表の関係にある核開発を防ぐのが目的で、核拡散防止条約(NPT)の加盟国が対象である。だが、北朝鮮やイラン、そして最近のリビアに見られるよう、未申告の施設にはその手が及んでおらず、一九七〇年に発効したNPT体制は大きく揺らいでいる。
 IAEAは査察について「セーフガードの対象となっている核物質の使用方法が、規定に従っていることを検認するための現場活動」と定義。つまり、査察官が対象施設を訪れ、その報告や運転記録などをその目で確認することで、核兵器を製造可能な量の核物質が平和目的以外に転用されるのを探知する仕組みだ。
 査察対象の施設は種類、その数とも多い。日本の場合、五十二基の商業用原発をはじめ、研究炉・臨界実験装置、ウラン濃縮施設、燃料加工施設、再処理施設など十種類以上、計二百五十六施設に上る。
 査察で注目する核兵器を製造可能な核物質の量(有意量)は、核物質の種類ごとに細かく規定。プルトニウムやウラン233はわずか八キロ。濃縮度20%以上のウラン235は二十五キロで、トリウムでは二十トンである。
 一口に査察といっても「冒頭査察」「特定査察」「通常査察」「特別査察」―などさまざまな種類がある。「冒頭査察」は原子力施設がIAEAで検討された設計通りであるかを確かめるもので、「特定査察」は操業前や国相互の核物質の移転の際に行われる。稼働中の原発などで一般的に実施されているのが「通常査察」である。
 こうした査察はIAEAに申告済みの施設が対象だが、IAEAの理事会や事務局長の判断で未申告の疑惑施設に手掛けるのが「特別査察」だ。今回のイランの核開発問題でも実施中である。
 一方、最近の北朝鮮やイラン、リビアの核開発疑惑やパキスタンの核技術流出問題などで、IAEAの力の限界も浮き彫りになっている。
 査察は、NPT加盟国が自主申告した施設しか実施できないため、イランでは十八年にわたる秘密の動きが察知できなかった。リビアも同様である。
 パキスタンの場合は、核技術の輸出管理までは権限が及ばないことがクローズアップされた。こうしたアジア・アフリカ諸国の核開発が発覚した端緒は、いずれも米国などの情報機関から提供された情報である。
 こうした事態に対してIAEAのエルバラダイ事務局長は昨年末、核拡散防止に向けて新提案をした。「ウラン濃縮やプルトニウム生産などを制限し、国際的な管理下に置く」「核兵器への転用ができない原子力発電システムを開発する」―などで、IAEAの機能強化に動く構えである。
 また、米国のブッシュ大統領も今月十一日、核燃料生産国を既に生産施設を持つ国に限定し、IAEAに特別委員会も設けるなど七項目を提案した。今後、NPT体制の再構築がいかに図れるか注目を集めている。





演説するエルバラダイ事務局長。組織強化に向けて新たな提案をした(2003年12月4日、IAEA本部)
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