原発 将来の選択肢に残す
−科学技術省長官 エストレラ・アラバストロ氏
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フィリピンのエネルギー政策や原発建設の可能性などについて、科学技術省長官のエストレラ・アラバストロ氏に聞いた。
―エネルギー政策の中で原子力をどう位置付けていますか。
原子力にはいろいろ利点がある。地球に悪影響を与えるさまざまな温室効果ガスを出さないことが最大の長所だ。とはいえ、フィリピン社会は使用済み燃料の処理などでいろいろ問題を抱えていることも知っているから、いまだに原発に対しては反対の立場だ。
政府としては、これから電力需要が急速に増えた場合、もう一度原発をどうすべきか検討する必要があると考えている。実際、ラモス大統領時代に策定した長期エネルギー計画では二〇二五年までに導入の可能性があることを盛り込んでいる。
―原発の安全性が高くなるなど技術開発が進めば、フィリピンも導入するのでしょうか。
そうした技術開発は必要だが、それより政治的な判断が最も重要ではないだろうか。バターン原発は極めて政治的な問題になったため廃止された。社会が原発を受け入れるようになるまでは原発建設は難しい。
フィリピンのエネルギー政策では、自給率50%を維持することを重要課題にしている。それが難しい事態になるかどうかが、原子力が必要になるかどうかの分かれ目だろう。そういう意味で原子力は将来の選択肢として残しておきたい。
―原発を選択肢として残すのなら、原子力に携わる人材育成も必要になりますが。
それが難しい問題だ。仮に二〇二五年ごろ原発を建てようとすれば、人材を育てる観点からするとそれほど遠くない将来といえる。そのための振興策は立てておかないといけないのだが、ラモス大統領時代に原子力について検討した委員会が今は休眠状態で機能しておらず、対策が遅れている。
―バターン原発は売却されると聞きました。
再び手を入れて動かす可能性が、もうまったくないからだ。現在の最新レベルの原発に改修しようと思えば膨大な費用がかかるし、新設する方がむしろ安い。このまま動かさずに維持するだけでも負担が大きい。
―原発は動いていませんが、放射線の利用など原子力に関する技術開発は進めていますね。
その通り。農業では米の品種改良に利用したり、医療ではやけどの治療やがん治療などに応用している。昨年は東南アジアで初めて、がんの早期発見に役立つ陽電子放出断層撮影法(PET)の施設も導入した。
日本との間では研究者の交換プログラムを実施し、最近はフィリピン南部で採れる海藻を使った新たな医療材料を共同開発した。日本の技術支援や人材育成などの協力には、今後とも期待している。
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「フィリピン社会が原発を受け入れるようにならないと、原発建設は難しい」と語るアラバストロ氏 |
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