担い手の育成を重視
−フィリピン原子力研究所所長 アルマンダ・デラ・ローザ氏
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農業や医療などさまざまな分野で研究開発が進む放射線の利用について、フィリピン原子力研究所所長のアルマンダ・デラ・ローザ氏に聞いた。
―放射線の利用では、どんな分野に力を入れていますか。
まず農業では、稲の新品種づくりや大豆の改良などについて、地元の農業研究所と連携している。医療では、がん治療を中心に国立や私立の病院と積極的に提携している。最近は海藻を使った医療用材料の開発や赤潮の検知など、新分野の課題にも取り組んでいる。
ギマラス島のミバエを根絶する不妊虫放飼法事業については、日本の沖縄での取り組みを参考にした。将来は現行の週二百万匹から、一千万匹を増殖する体制に引き上げたいと思っている。
―日本との共同研究が多いですね。
日本原子力研究所の高崎(群馬県)、東海(茨城県)研究所にはうちから研究員を派遣するなど研究員の交換プログラムがある。共同研究のテーマも多く、日本の協力には大変感謝している。
―これからの研究開発テーマでは、どんな分野を考えていますか。
まだ個人的な構想の段階だが、使用済み燃料の処理について研究を始めたいと思っている。フィリピンはバターン原発を稼働しなかったため、研究炉以外の使用済み燃料はないが、どこにどうやって保管するのがいいのか、といった課題に取り組みたい。この課題は、国を超えてグローバルに考えなければいけないからだ。
―バターン原発を廃止するなど、国民は原子力発電に対して厳しい見方をしていますが、放射線の利用については理解しているのでしょうか。
まだ研究段階のものが多いので反応はよく分からないが、全体的に放射線に対する知識が普及しておらず、医療を除けば怖がったり恐れたりするケースがある。特に食品を殺菌する照射などではそうした傾向がみられる。正しい知識をどう知ってもらうか、まだまだ課題は多い。
―将来を担う人材の育成も難しいのでは。
まったくその通りで、日本をはじめ世界共通の現象として原子力の研究を志望する学生が少ない。特にバターン原発の廃止が決まって以降、志望する学生があまりいなくなった。
―どんな対策を取っているのでしょうか。
今はマニラ市内の大学に原子力の入門的な講座を設けようとしているところだ。工学部の学生を対象に、原子力の基本知識を教えたり、専門家に講演してもらう予定で、原子力とは何か、きちんと理解してもらいたいと考えている。
フィリピンの大学には原子力工学の講座はないが、物理や化学などきちんとした知識があれば、原子力の専門家を養成するのは可能。いずれ日本の専門家も招待し、講義をお願いするつもりだ。
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「放射線に対する知識が普及しておらず、医療を除けば怖がったり恐れたりするケースがある」と語るローザ氏 |
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