「使用済み」管理が課題
東南アジアは原発こそないが、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟十カ国のうち、フィリピン、ベトナム、タイ、マレーシア、インドネシアの五カ国は研究用原子炉を持ち、積極的に原子力技術開発を進めている。ただ、放射線の利用が民間にも広がる一方で放射性物質による被曝(ばく)事故も起きており、管理の徹底が求められている。
東南アジアで最も多い研究炉を持つのがインドネシアである。出力三万キロワットを筆頭に、千キロワットと百キロワットの計三基があり、農業や医療、工業などで利用される放射性同位元素(ラジオアイソトープ)や放射性医薬品の製造なども手掛けている。
放射線の利用では、医療器具の減菌・殺菌などを商業化しており、一九八七年からは香辛料の殺菌、穀類の殺虫などにも使っている。稲の品種改良にも用い、九六年に開発した新品種は収量がアップして病害虫の抵抗性も高いことから、既に全国の50%で栽培されているという。
タイでは二千キロワットの研究炉があり、中性子を利用した研究やヨウ素131など医療用ラジオアイソトープの生産などに使っている。六二年の建設と古いため、新たにバンコク市の北東六十キロに一万キロワットの研究炉を持つオンガラク原子力研究センターを建設する計画だ。
放射線の利用では、八六年から香辛料やハーブなど二十二品目で食品への照射を実施。稲や緑豆の新品種なども相次いで生み出している。
ベトナムは、南部のダラト市に五百キロワット一基がある。旧南ベトナム政権時代に米国の援助で建設され、さらにベトナム戦争後、旧ソ連の支援で出力を増強した歴史を持つ。二〇一七年に原発二基の建設を計画しており、研究炉があるダラト原子力研究所を拠点に原子力発電の導入に備えている。
このほか、マレーシアに千キロワット一基、フィリピンには三千キロワット一基がある。だが、フィリピンの研究炉は八八年に冷却水漏れのトラブルを起こして以来、予算不足のため再稼働していない。
放射線の利用が活発化し、民間に広まるのに伴って、東南アジアでは被曝事故やトラブルも増えている。
タイでは二〇〇〇年にバンコク郊外のサムートプラカーン県で、古くなったコバルト60線源を装着した遠隔放射線治療器が空き地に放置され、それを解体しようとした住民十人が被曝。うち三人が死亡する事故が起きている。
また、同年には和歌山市の製鉄所でフィリピンから輸入したスクラップが入ったコンテナに、地層の水分密度を測定する機械に使われるセシウム137の金属棒が混入していたことが判明。被害はなかったが、ずさんな放射性物質の管理が浮き彫りになった。
こうした使用済み放射線源の事故・トラブルが東南アジアで相次いでいることから、日本はタイとフィリピンに専門家を派遣。管理体制の改善に協力している。
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出力3000キロワットの研究炉があるフィリピン原子力研究所。冷却水漏れ事故で現在は稼働していない |
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