韓国や台湾で原子力発電所の運転に伴って生じる放射性廃棄物の処分が難航している。韓国政府は昨年7月、蝟島(ウィド)を中・低レベル放射性廃棄物の処分場の候補地に決めたが、2月に地元で実施された自主投票では反対票が9割以上を占めるなど、計画は事実上、白紙状態になっている。台湾も地元の反対で蘭嶼(ランユ)島への低レベル放射性廃棄物の搬入が中止に追い込まれた。「電気のごみ」である放射性廃棄物の処分問題が解決できなければ将来、原発の立地や運転にも影響しかねない情勢である。
「減容」技術を開発
韓国西部の全羅北道扶安郡。沖合十五キロの蝟島を中・低レベル放射性廃棄物処分場の候補地とする計画の是非について問う住民投票が二月十四日にあった。地域住民で組織する「扶安核廃棄場誘致賛否住民投票管理委員会」が主催する自主投票だったが、有権者五万二千人のうち72%の三万七千人余りが参加した。
結果は、反対が92%の三万五千票で、賛成の二千百票を大きく上回った。同住民投票管理委員会は「住民の意思はこれで明確になった。政府はこの結果を尊重し、計画を白紙化しなければならない」と政府に計画の撤回を強く求めた。
政府が蝟島を処分場の候補地に選定したのは昨年七月である。県知事に相当する扶安郡主が誘致に名乗りを上げたのがきっかけだった。
韓国では一九八〇年代以降、安眠島や掘業島を処分場候補地とする計画が地元の反対で頓挫。二〇〇〇年には誘致する自治体の全国公募に踏み切ったものの、応募ゼロに終わっただけに、政府にとっても扶安郡の誘致は渡りに船だった。
原発十八基を所有・運転する国営の韓国水力原子力会社の鄭東洛社長は「放射性廃棄物は四カ所の原発に併設した貯蔵施設で保管しているが、早いところでは二〇〇八年でいっぱいになる。だから急いで処分場のめどをつける必要がある」と強調する。
だが、蝟島への処分計画が明らかになると、住民は反発を強め、デモや道路での座り込み、登校拒否などの抗議行動が展開された。このため政府は昨年十二月「候補地の選定過程で住民の意見が十分に反映されなかった」と認め、再び自治体の公募や、その際に住民投票による意思確認を実施することを表明した。
この問題で世論調査を手掛けた韓国原子力文化財団の崔乗湊情報研究室長は「われわれの調査では蝟島の住民は60―70%が計画に好意的で、扶安郡全体でも賛成が40%以上あったが、反対派が激しい運動を繰り広げた影響が大きい」とみる。
二月の自主投票は公式のものではないものの、圧倒的多数が反対票を投じた事実は重い。韓国の放射性廃棄物の処分問題は、いまだ糸口すらつかめない状態である。
原子炉六基が稼働する台湾も、韓国と同様に苦慮している。一九八二年から太平洋に浮かぶ蘭嶼島を低レベル放射性廃棄物の処分場にしてきたが、住民に当初、缶詰工場をつくるといった虚偽の計画で処分事業をスタートさせた経緯や、放射性廃棄物を詰めたドラム缶が破損するなどのトラブルが起き、地元の強い反発を招いた。
結局、当初計画ではドラム缶で三十三万本分を処分する予定だったのに対し、九六年に九万八千本分を搬入したところで中止を余儀なくされた。
政府は今、新たな処分場の候補地を探しているがめどは立っていない。行政院原子能委員会の欧陽敏盛主任委員は「われわれの目が行き届かず、不十分な管理などいろいろ反省すべき点があった。今後に生かしたい」と率直に認める。
原発で放射性廃棄物がたまり続ける中で、原子能委員会は、核能研究所を拠点に放射性廃棄物の容積を減らし、貯蔵施設を長く使えるようにする「減容化」の技術開発に取り組んでいる。
九七年に開発した加圧水型軽水炉(PWR)向けの「ホウ酸廃液減容固化方式」は、従来の技術を使うより低レベル放射性廃棄物を六分の一程度に減らせ、減容化の世界記録を樹立。十五カ国で特許を取得し、昨年から日本にも技術供与している。沸騰水型軽水炉(BWR)向けの技術も確立済みで、従来の三分の一に減らせるという。
台湾では二〇〇〇年に国民党から民進党に政権交代した際、第四原発の建設工事が一時中止された。当時、首相に当たる張俊雄行政院長は「放射性廃棄物の処分場の確保は非常に困難。子孫にとっても永遠の負担になる」と放射性廃棄物を建設中止理由の一つに挙げたほどだ。二〇〇一年からは将来の原発全廃を目指す「非核国家」政策に転換するなど、深刻化する処分問題は原子力政策に影を落としている。
|
|

 |
減容化技術を使い、従来と比べて大幅に容積を減らすことに成功した低レベル放射性廃棄物(台湾・核能研究所)
|
放射性廃棄物
日本では原発で生じる廃棄物を高レベルと低レベルに分類。使用済み燃料を再処理し、ウランやプルトニウムを回収した後に残るセシウムやストロンチウムなどの核分裂生成物を主成分とした高レベル放射性廃棄物と、それ以外の低レベル放射性廃棄物に分けている。低レベルでも部品など放射能レベルが比較的高いものがある。韓国のように中レベルを設けている国もある。高レベルの場合、約1万年経過しないと放射能が自然レベルまで低下しないといわれる。 |
|
|